首都圏中古マンション市場の最新動向

~不動産経済研究所主催セミナー講演内容より~

近年、首都圏を中心とした都市部においてマンション価格の高騰が鮮明となっています。不動産経済研究所によると、東京23区の新築マンション価格は、2023年通期で平均1億円を超えています1。年間で平均1億円を突破するのは、データを遡れる1974年以来で初めてとしており、新築マンション価格は既に歴史的な水準に達しています。
その新築マンション以上に価格上昇の伸びが顕著となっているのが中古マンションです。東日本不動産流通機構(東日本レインズ)2によると、東京都の平均成約価格は5,892万円(2023年12月時点)と10年前から倍近い水準に達しています。都心3区に限定すると、平均成約価格は既に9,000万円台で推移しており、都心部においては「中古億ション」が一般的なものとなりつつある状況です。
本レポートでは、先日開催された不動産経済研究所主催のセミナー3において、当社が担当した中古マンション市場のマーケットについての講演内容を抜粋および最新の情報に更新し、首都圏中古マンション市場の最新動向をまとめました。


<サマリー>

  • 首都圏の住宅地地価は東京23区をはじめ、上昇基調が鮮明。ただ10年前からの上昇率を地点別に見ると、全体の3割の地点では地価が下落しており、土地需要の強い首都圏においても二極化が進んでいるのが実態。
  • 首都圏の中古マンション市場の平均成約価格は、東京都が10年前から1.9倍、隣接3県が1.5倍程度に上昇している。新築マンション分譲価格との比較では、新築マンションよりも中古マンションの方が上昇率は高く、結果として新築との価格差が縮小している。
  • 高騰が続く中古マンションだが、金利と物件価格の先高観が非常に強いことを背景に、売れ行きは鈍っていない。また、在宅勤務の定着化も背景に、購入検討者の「広さ」を求めるニーズが強いこともグロス価格の上昇に繋がっていると見られ、都心部では「中古でも億ション」が既に一般化しつつある。
  • 都心部では物件価格2億円以上の超高額マーケットも活況。長期にわたる金融緩和や堅調な企業業績を背景とした株高効果もあり、足元では日本人の家計は過去最高レベルの「カネ余り」の状態にある。また、それを大きく牽引する超富裕層も増加傾向にあることが超高額マーケット活況の背景の一つと考えられる。

1不動産経済研究所「首都圏 新築分譲マンション市場動向 2023 年のまとめ」より。
2国土交通大臣から指定を受けた不動産流通機構が運営しているコンピューターネットワークシステム。「Real Estate Information Network System(不動産流通標準情報システム)」の頭文字。組織の通称でもある。「東日本」、「中部圏」、「近畿圏」、「西日本」のエリアに分けられている。
3不動産経済研究所主催セミナー「マンション事業展望2024 どうなる?1億円マーケット次展開」(2024年1月30日開催)。当社リサーチ・コンサルティング部の社員が講師として登壇し、仲介業者から見た中古マンションマーケットの状況を説明した。

Ⅰ.首都圏の住宅地価動向

ⅰ.エリア別・過去10年間の地価推移

図表1は、2013年を100とする指数変化で示した首都圏のエリア別の地価推移です(2013年から連続してデータが取得できる公示地価の住宅地3,780地点を対象とした)。東京23区が136.8と2013年から約1.4倍の水準に上昇しており、首都圏内においても突出した上昇率を示している点が注目されます。
ただ、その他のエリアも2013年の水準よりは上昇しており、大まかな傾向としては、住宅地の地価上昇は首都圏全域に及んでいることが確認できます。

【図表1】エリア別・過去10年間の地価推移
出所:国土交通省土地鑑定委員会「地価公示」より当社作成
【図表2】2013年比の地価上昇率順位の上位10地点ランキング
出所:国土交通省土地鑑定委員会「地価公示」より当社作成

図表2は、地価上昇率順の上位10地点のランキングです。上昇率トップの赤坂の地点は、地価水準でもトップの地点である点が注目されます。また、青の網掛けで示した2位の恵比寿西および8位の赤坂も、地価水準でもトップ10にランクインしている地点であり、もともと地価が高い地点がより伸びている傾向にあることが確認できます。港南や芝浦、豊洲といった、近年、再開発や新築マンションの供給が活発である東京臨海部エリアの上昇率も著しい傾向です。
都心部の地点が並ぶ中、千葉県木更津市の2地点がランクインしている点も注目されるポイントです。神奈川県川崎市と千葉県木更津市を結ぶ高速道路「東京湾アクアライン」の料金が2009年より大幅に引き下げられたことや、店舗数日本一を誇るアウトレットモール「三井アウトレットパーク木更津」が2012年に開業したこと等の効果と見られます。

ⅱ.上昇率の差が映す首都圏でも進行する住宅地価の「二極化」

図表3は、地価上昇率別の地点数の割合を示したグラフです。前述した地点のような大幅な上昇を示す地点がある一方で、全体の3割に当たる1,140の地点では、2013年よりも地価が下落している実態であることが確認できます。

【図表3】2013年比地価上昇率別の地点の割合
出所:国土交通省土地鑑定委員会「地価公示」より当社作成
【図表4】地価上昇率順位と地価水準順位の分布
出所:国土交通省土地鑑定委員会「地価公示」より当社作成

さらに図表4の散布図では、地価上昇率の順位と地価水準の順位には有意な相関があることが確認され、一部例外はあるものの、基本的には「高い地点がより高くなる」といった傾向が窺えます。土地需要が旺盛である首都圏においても、調査地点を詳細に眺めると、地価の二極化が相当に進展していることが確認されます。

Ⅱ.首都圏中古マンション市場の現況

ⅰ.首都圏の中古マンションの状況

図表5~8は、レインズの公表データに基づいた2013年以降の首都圏中古マンションにおける「新規登録件数」、「成約件数」、「在庫」、「成約価格」の月次データの推移です。

【図表5】「新規登録件数」の推移
出所:東日本不動産流通機構(東日本レインズ)より当社作成
【図表6】「成約件数」の推移
出所:東日本不動産流通機構(東日本レインズ)より当社作成
【図表7】「在庫」の推移
出所:東日本不動産流通機構(東日本レインズ)より当社作成
【図表8】「成約価格」の推移
出所:東日本不動産流通機構(東日本レインズ)より当社作成

「新規登録件数」、「成約件数」に関しては、東京都の占める割合が緩やかに上昇しています。「在庫」は増加基調にあるように見られますが、足元の動きとしては、埼玉県と千葉県は微増が続く一方で、神奈川県はほぼ横ばい、東京都は減少傾向にあることが確認でき、エリアによる差が認められます。「成約価格」を見ると、東京都が水準、上昇率ともに突出しており、足元(2023年12月)では、2013年1月のほぼ倍となる6,000万円が目前に迫っています。

ⅱ.首都圏の中古マンション価格の新築マンション分譲価格との比較

【図表9】首都圏の中古マンション価格と新築マンション分譲価格の推移
出所:東日本不動産流通機構(東日本レインズ)より当社作成

図表9からは、「首都圏新築価格(移動平均)」は2013年比約1.6倍に上昇しているのに対し、「首都圏中古価格」は同約1.9倍と、この期間においては新築以上に中古の価格上昇率が高い実態が確認されます。中古の価格上昇を牽引しているのは、成約件数に占める東京都の割合の上昇(赤点線が近似線)です。結果、「中古価格/新築価格(%)」は上昇しています。つまり、実は新築と中古の価格差が足元では縮小しつつあることが確認され、この点は注目されるポイントと言えるのではないでしょうか。

Ⅲ.購入者の意識の変化 ~当社「住宅購入に関する意識調査アンケート」4結果から~

ⅰ.「新築」と「中古」に対する考え方

【図表10】「新築」と「中古」に関する意識
出所:野村不動産ソリューションズ「住宅購入に関する意識調査アンケート」…以下同

図表10は、購入検討者の「新築」と「中古」に関する意識についての回答結果です。
「新築・中古どちらも検討」する層が大半であり、これは2011年から一貫した傾向です。特にここ数年は、2000年以降に竣工した好立地且つ状態の良いタワーマンションの流通量も多くなってきたこともあり、「新築」と「中古」の心理的な垣根も低くなっていると見られ、この点は戸建市場とは異なるマンション市場の特徴の一つと言えます。さらに、マンションマーケット全体を分析する上では、新築のみならず、中古市場についても、定期的な動向観測が重要であることが改めて確認されるデータと言えます。


4「住宅購入に関する意識調査アンケート」。2011年7月より半年毎に実施。2023年7月調査で25回目となる。調査対象は野村不動産ソリューションズが運営する不動産売買のポータルサイト「ノムコム」の会員、調査方法はインターネット上での回答、有効回答数は毎回2,000件前後。

ⅱ.「買い時」と「売り時」に対する考え方

図表11は、今(回答時点)を「買い時」と考えるかどうか、また図表12は、「買い時」と考える理由の回答結果です。

【図表11】「買い時」に関する意識
【図表12】「買い時」と考える理由(2023年7月調査)

近年の物件価格高騰を受け、「買い時感」は趨勢的に減退傾向にあることが確認されます。しかし直近の動きからは、下げ止まり、または反転上昇の兆しも窺えます。その依然として根強い「買い時感」を支えている理由について図表12を見ると、低金利環境と物件価格のさらなる先高観が「買い時感」の背景にあることが窺えます。 図表13と14は、反対に「売り時」に関する考えと理由です。

【図表13】「売り時」に関する意識
【図表14】「売り時」と考える理由(2023年7月調査)

図表13からは、今(回答時点)を「売り時」と考える割合は、コロナ禍を除けば、ほぼ一貫して高い水準で推移してきたことがわかります。図表14でその理由を確認すると、「不動産価格が高い今ならば好条件での売却が叶う」との期待が「売り時感」を醸成していることがわかります。
この「買い時」と「売り時」の考えを分けているのは、「不動産価格の見立てと今後の見通し」であると言えます。

ⅲ.「不動産価格の見通し」の考え方

図表15は、その「不動産価格の見通し」についての回答結果です。

【図表15】「不動産価格の見通し」に関する意識

直近の2023年7月時点では、「上がると思う」との回答が4割以上を占めており、アベノミクスのスタート期に当たる2013年頃と並んで過去最高水準にあることが注目されます。「横ばいで推移すると思う」も含めると、購入検討者の7割を占めることになり、購入検討者の不動産価格に対する先高観は相当に高まっている実態が窺えます。
前述の通り、足元と同レベルの先高観が醸成されていた2013年当時とは大きく異なる物件価格になっていることを考えると、現在の先高観の強さが改めて注目されます。
さらに、2024年前半にもマイナス金利が解除されるとの観測が高まっていることを受けた金利の先高観の高まりも、足元の中古マンション市場の市況を下支えしていると見られ、2024年の金融政策の動きも注目されるポイントと言えます。

Ⅳ.超高額マーケットが生まれる構造と需要

ⅰ.空前の「カネ余り」の状態にある日本人の家計の実態と今後の投資拡大余地の大きさ

図表16は、日本銀行「資金循環統計」5における「家計金融資産」6の残高推移を示したグラフです。直近の2023年Q3(9月末)では、2,121兆円と4期連続で過去最高水準を更新しています。5割以上を占める「現金・預金」残高も当然に過去最高レベルに蓄積されており、足元の日本人の家計は空前の「カネ余り」の状態にあると言えます。

【図表16】日本の「家計金融資産」の推移
出所:日本銀行「資金循環統計」より当社作成
【図表17】「家計金融資産」の日米欧の比較
出所:日本銀行「資金循環の日米欧比較」より当社作成

図表17は、2023年3月末時点における日米欧の資産の内訳を比較したグラフです。米欧に比べた日本の「現金志向」の強さが窺えると同時に、不動産も含めた今後の投資拡大余地の大きさも確認されるデータと言えます。


5金融機関、法人、家計といった各部門の金融資産・負債の推移等を預金や貸出といった金融商品毎に記録した統計資料。四半期毎に公表される。
6各世帯が保有する資産のうち、現金・預金、債券等の「金融資産」を指す。なお、土地、住宅といった不動産や耐久財等は「実物資産」に区分される。

ⅱ.超高額マーケットを支える「超富裕層」の状況

この空前の「カネ余り」の状況を強力に牽引しているのは「超富裕層」や「富裕層」に位置付けられる個人です。図表18は、野村総合研究所が公表している「純金融資産保有額」7の階層別・保有資産規模と世帯数のピラミッドです。

【図表18】「純金融資産保有額」の階層別・保有資産規模と世帯数
出所:野村総合研究所

最新データである2021年のデータを計算すると、「超富裕層」と「富裕層」に該当する世帯は全体の3%に満たない割合ながら、その層に保有資産の22%が集中している実態が確認されます。
米国や中国等と比べれば穏当な格差とも言われますが、この日本においても「富の格差」は相応に認められる結果と言えます。

【図表19】階層別・世帯数の指数の推移
出所:野村総合研究所「純金融資産保有額の階層別にみた保有資産規模と世帯数の推移」より当社作成
【図表20】階層別・保有資産額の指数の推移
出所:野村総合研究所「純金融資産保有額の階層別にみた保有資産規模と世帯数の推移」より当社作成

図表19は階層別に見た世帯数の推移、図表20は階層別に見た保有資産額の推移です。異次元金融緩和を含むアベノミクスが始動した2013年頃から、「超富裕層」や「富裕層」の世帯数の増加が顕著となっていることが確認されます。特に、株高効果を享受しやすい「超富裕層」の保有資産額は大きく膨らんでいます。空前の「カネ余り」に加え、足元で増加する「超富裕層」らが超高額マーケットを発生させ、且つ需要の担い手となっている実態が窺えます。


7預貯金、株式、債券等、世帯として保有する金融資産の合計額から不動産購入に伴う借入等の負債を差し引いた資産の保有額。不動産は含まない。

ⅲ.当社高額不動産対応の専門店舗「レアリア東京」8の好調さが映す超高額マーケットの底堅さ

図表21は、「レアリア東京」の開設以来の半期実績の推移、図表22は成約価格帯別の割合の推移です。

【図表21】「レアリア東京」の半期実績推移
【図表22】「レアリア東京」の成約価格帯別の推移

半期実績は右肩上がりであり、平均成約価格も3億円以上の水準で安定推移しています。さらに直近では、「5億円以上」といった住戸も増加傾向にあります。こうした当社の実績からも、超高額マーケットの活況ぶりが確認できます。


8野村不動産ソリューションズが2021年4月に開設した高額不動産売買ニーズに対応する専門組織(店舗)。

Ⅴ.首都圏の中古マンション市場の今後

ⅰ.今後はさらに東京一極集中が加速する可能性

図表23は、首都圏の新築分譲マンションのエリア別の供給実績です。東京23区が概ね半数程度を占める構造です。
図表24は、マンション購入検討者が考える「永住」や「売却」に対する意向のアンケート結果です。「永住する」つもりの割合は新築・中古ともに3割前後にとどまり、「将来的に売却を検討している」層や、市況次第では売却に動くことも十分に想定される「まだわからない」といった層の多さが確認されます。

【図表23】首都圏の新築マンションのエリア別供給割合の推移
出所:不動産経済研究所「首都圏新築分譲マンション市場動向」より当社作成
【図表24】「永住」や「売却」等の意向
出所:リクルート「住宅購入・建築検討者調査(2022年12月)」より当社作成

このことからも、マンション購入検討者は、購入に際し、将来的な売却も十分に視野に入れた検討を行うことが一般的となっており、「実需」と「投資」の境界が曖昧なマーケット構造となっている実態が指摘できます。またそれ故に、高額であるにも関わらず、都心部の物件ほど売れている足元の状況が生まれていると考えられます。

【図表25】2022~2023年に取引された関東圏のマンション用地の立地
※2023年10月18日までに判明した事例
(資料)MSCIリアルキャピタル・アナリティクス、国土地理院の公表からQGISにてニッセイ基礎研究所が作成
出所:ニッセイ基礎研究所「新築マンション市場の動向(2023 年9 月)」より転載

図表25は、2022~2023年に取引されたマンション用地の立地です。デベロッパー各社の都心集中戦略が垣間見え、今後は一層、新築マンション供給に占める都心部の割合が大きくなってくることが予想されます。それはつまり、中古マンションの都心化も一層進むことも意味し、今後は新築・中古ともに都心部の物件がマーケットを牽引する構造がこれまで以上に強まることが予想されます。

ⅱ.今後の注目されるポイント

首都圏中古マンション市場を展望する上では、「①都心部では中古も億ション化」、「②郊外は二極化」、「③市場変動要因のさらなる多様化・複雑化」の3点が注目点に挙げられると考えます。③について一例を列挙すると、日銀の金融緩和政策修正に関連した動向、超高額帯を支える超富裕層らの購入マインドに影響を与える国債や株式、為替相場の動向の他、高止まりが続く建築費のさらなる高騰に繋がりかねない「2024年問題」9の影響も今後の注目点と言えるでしょう。当社では、マンション市場のみならず、これら外的要因についても観測を続けていきます。


92024年4月1日以降、年間時間外労働時間の上限が960時間に制限されることによって発生する問題の総称。

提供:法人営業本部 リサーチ・コンサルティング部

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