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デジタル証券について(第1回)
デジタル証券の仕組みと法規制
【サマリー】
●デジタル証券とは、ブロックチェーンなどの技術を活用し、電子的に発行された有価証券のこと。
●デジタル証券による資金調達は「STO(Security Token Offering)」と呼ばれ、従来の株式や債券などの有価証券に比べて、小口発行や即時決済が容易となっている。
●改正金商法では、デジタル証券の位置付けの明確化、規制強化がなされ、金融商品取引法における開示規制が適用される範囲が拡大した。
Ⅰ-Ⅰ.デジタル証券の仕組み
i.デジタル証券とは
デジタル証券とは、ブロックチェーン(※後述)などの技術を活用し、電子的に発行された有価証券のことです。これは、社債や不動産、知的財産など実物資産の裏付けがあり、昨今では法的にも有価証券として取り扱う国が増えています。
日本においては、2020年5月施行の改正金融商品取引法(改正金商法)で「電子記録移転権利」と規定され、金融機関が取り扱えるようになりました。
一般に、デジタル証券による資金調達は「STO(Security Token Offering:セキュリティー・トークン・オファリング)」と呼ばれ、日々ブロックチェーン上で管理され、従来の株式や債券などの有価証券に比べて、小口発行や即時決済が容易になっています。
また、実際の取引にあたっては、証券会社等がデジタル証券の募集や仲介などを担い、個人投資家や機関投資家などが売買します。
ii.ブロックチェーンとは
ブロックチェーンの定義は様々ありますが、端的に言えば「正確な取引履歴を維持しようとする仕組み」です。取引履歴(ブロック)が暗号技術によって過去から1本の鎖のようにつなげるかたちで記録され、一つのブロックは、合意された取引記録の集合体と、各ブロックを接続させるための情報(前のブロックの情報など)で構成されます。ブロックチェーンとは、このブロックが複数連結されたものを指します。
ブロックチェーンの大きな特徴は、「データの改ざんが極めて困難であること」と「システムダウンが起きない」ことです。
①データの破壊・改ざんが極めて困難
ブロックチェーンは、暗号技術を用いることでデータの改ざんを容易に検出できる仕組みを持っているため、ある取引について改ざんを行おうとすると、それより新しい取引についてすべて改ざんしていく必要があります。また、サービス提供者でも取引記録の書き換えや消去ができない仕組みになっています。
②システムダウンが起きない
ブロックチェーンは、特定の管理者が存在する通常の集中管理型システムと異なり、複数のシステムがそれぞれ情報を保有し、常に同期が取られる「分散型台帳」という仕組みで管理されています。そのため、一部のシステムが停止・故障しても、システム全体がダウンすることはなく、取引履歴は安定して記録され続けます。
こうした特徴から、仮想通貨などを筆頭に高い信用度を求められる取引において、ブロックチェーンは欠かせないものとなっています。
Ⅰ-Ⅱ.セキュリティトークンと改正金商法
i.金商法改正の背景
2020年5月の金商法の改正では、暗号資産(仮想通貨)に関する規制強化と共に、「電子記録移転権利」、および「電子記録移転有価証券表示権利等」が規定され、デジタル証券の金商法上の位置付けが明確化されました。
改正の背景には、2017年4月に施行された改正資金決済法において「仮想通貨」や「仮想通貨交換業」が法的に位置づけられたことと前後して、仮想通貨やそのデリバティブ取引が活発化し、ビットコイン価格が急騰するとともに、仮想通貨の発行により資金を調達する仕組みであるICO(Initial Coin Offering)が急速にトレンド化したこと、その一方で、詐欺的なICOの多発、交換業者からの仮想通貨の流出といった情勢の変化を受け、仮想通貨に対する法規制そのものを見直す必要性が高まったことがあります。
改正金商法の内容を説明する前に、「トークン(Token)」という用語について説明します。
トークンとは、直訳すると”しるし”や”象徴”といった意味がありますが、従来の硬貨や紙幣の代わりに使うデジタルマネーや、ネット決済やクレジットカード決済の際に使う認証デバイスそのもののことを指します。言い換えると、資産や権利を暗号化して、売買や譲渡などの流通が可能な形に変換する機械や、暗号そのもののことをトークンと言います。
すでに生活に馴染みのあるモバイルSuicaやApple Payなどもその一種です。そしてトークン化とは、その行為自体、つまり物理的な資産や仮想的な資産を売買可能なデジタル単位に変換することを指します。トークン化により、地域的な障壁や仲介者を排除し、資産を細かく分割することが可能になります。トークンという形でデジタル化された証券のことを「セキュリティトークン」と言います。
ii.セキュリティトークンと改正金商法
改正金商法では、「電子記録移転権利」を、広く流通する蓋然性が高い有価証券の類型である「第一項有価証券」に分類することとしています。これにより、「電子記録移転権利」に該当するセキュリティトークンについては、金融商品取引法における開示規制の適用を受けることとなりました。
改正金商法の目的は、これまで第二項有価証券として扱われ、その取扱業務が第二種金融商品取引業と整理されてきた権利のうち、トークン化されたものを「電子記録移転権利」として定義し、その規制を強化することにありました。
上図の「トークン化された有価証券表示権利」、「電子記録移転権利」、「適用除外電子記録移転権利」の3つをまとめて、「電子記録移転有価証券表示権利等」と言います。これは「トークン化有価証券」と総称されることもあります。
※「電子記録移転権利」の定義
①金商法2条2項各号の規定により有価証券とみなされる権利のうち、②電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されるものに限る)に表示される場合で、③流通性の低いもの等一定のものを除いたもの
※「電子記録移転有価証券表示権利等」の定義
①金商法2条2項の規定により有価証券とみなされる権利のうち、②電子情報処理組織を用いて移転することができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されるものに限る)に表示されるもの
不動産においても証券化され信託受益権としての売買は既に行われていますが、額が大きくなりやすいため買主が限られ、流動性もやや制約される面があります。しかし、信託受益権のトークン化が可能となれば、一口あたりの投資額を少額化することができ、理論的には、流動性が大きく高まることも予想されます。
【参考】 金商法上の有価証券の分類
金商法2条では、有価証券は次のように分類されています。
上記の権利をトークン化した場合、(A)は「トークン化された有価証券表示権利」、(B)は「電子記録移転権利」もしくは「適用除外電子記録移転権利」に該当します。
提供:法人営業本部 リサーチ・コンサルティング部
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