デジタル証券について(第2回)
不動産セキュリティ・トークンの特性 ~不動産小口化商品との比較~

本編第1回では、デジタル証券の仕組みと法規制について確認しましたが、デジタル証券の不動産小口化商品である不動産セキュリティ・トークンにはどの様な特性があるのでしょうか。本稿では、不動産クラウドファンディングやJ-REITと比較しながら不動産セキュリティ・トークンの特性を確認し、今後の課題についても言及します。


【サマリー】

●不動産セキュリティ・トークン と不動産クラウドファンディングの共通点としては、早期償還若しくは期間延長があること、相違点としては、事業等の安定性、運用期間中の利回り水準などがある。

●不動産セキュリティ・トークンとJ-REITとの相違点としては、償還の有無、元本価格のボラティリティ、流通性の程度などがある。

●課題は、個人投資家にとっては商品特性の理解と流通性の低さ。事業者にとっては、事業収益性の低さと市場の拡大。適正な不動産市場の形成や進展につながる新たな証券化の手法として、定着を期待したい。

Ⅱ-Ⅰ.不動産クラウドファンディング(匿名組合型) 1との比較

i.共通点
不動産セキュリティ・トークン2と不動産クラウドファンディングは、ともにデジタルの仕組みを活用した商品ですが、他にも①単一不動産を裏付けとした資産である、②早期償還若しくは期間延長がある、③運用期間中の収益の変動の程度、④元本価格の増減の要因・程度、⑤流通性の低さ、などの共通点があげられます。

①単一不動産を裏付けとした資産である
経済的には投資対象不動産を直接所有している場合とほぼ同様の利益状況に置かれることとなり、効果として、不動産所有に類する収益変動・資産価値変動が想定されます。

②早期償還若しくは期間延長がある
運用期間中の不動産市況が好調な場合等に、アセット・マネージャー等の判断により、早期償還がなされる場合があります。反対に、運用期間中の不動産市況が不況の場合等に、アセット・マネージャー等の判断により、償還が延長される場合があります。

③運用期間中の収益の変動の程度
不動産市況の悪化、投資対象不動産の競争力低下等によるテナントの退去、賃料の減額要求、あるいは租税や維持管理費、修繕費の高騰等によって、損益が減少し、当初想定していた収益が得られないことがあります。反対に、不動産市況の良化等により損益が増加し、当初予定していた以上の収益が得られることがあります。

④元本価格の増減の要因・程度
償還時に受け取る金額は投資対象不動産の売却価格によるため、売却時における不動産売買マーケットの状況等によりその水準が左右され、当初募集時の不動産価格より廉価で処分されることにより、償還時に顧客が受け取る金額が当初の募集価格を下回ることがあります。反対に、投資対象不動産が当初募集時の価格を上回った価格で売却されることにより、所感時に受け取る金額が当初の募集価格を上回ることがあります。

⑤流通性の低さ
譲渡制限により禁止若しくは一定期間の売却禁止、などの条件が付されており、公開市場等で自由に売買ができないなどの制約があります。

ii.相違点
不動産セキュリティ・トークンと不動産クラウドファンディングとの相違点は、①事業等の安定性、②運用期間中の利回り水準、にあると考えられます。

①事業等の安定性
一般に、不動産クラウドファンディングで活用される法的スキームは不動産特定共同事業法の1号事業3ですが、当該事業においては他事業からの倒産隔離4が図られていないため、事業者等の倒産リスクを負っています。

不動産セキュリティ・トークンにおいても、事業者等の倒産隔離は完全ではないと考えられるものの、現状、不動産セキュリティ・トークンでは、国内金融大手企業等が、不動産セキュリティ・トークンの発行支援・技術供与・販売を行っており、事業者に起因するリスクは相当程度低いと考えられます。すなわち、事業等の安定性は、事業者に大きく依拠すると言えそうです。

②運用期間中の利回り水準
一般に、運用期間中の利回り水準については、不動産クラウドファンディングの方が高いようです。要因としては、LTV5の水準が深いことによるレバレッジ効果6が考えられます。また匿名組合出資部分に対してセイムボート出資7がなされることもあり、事業者自身の事業利回りが高いことも、利回り水準を高めている可能性があります。

Ⅱ-Ⅱ.J-REITとの比較

i.共通点
不動産セキュリティ・トークンとJ-REITとの共通点としては、①事業等の安定性、②運用期間中の利回り水準、が考えられます。

①事業等の安定性
J-REITは、投資信託及び投資法人に関する法律による法的スキームを活用し、事業者については上場審査が行われています。対して、不動産セキュリティ・トークンについても、金融商品取引法などの法律にもとづいて、国内金融大手企業等により事業化されており、ともに事業等の安定性は高いと考えます。

②運用期間中の利回り水準
現状、J-REITの平均的な分配金利回りとほぼ同等の水準にあります。

ii.相違点
J-REITとの相違点としては、①裏付けとなる投資対象不動産数、②償還の有無、③元本価格のボラティリティ、④流通性の低さ、があげられます。

①裏付けとなる投資対象不動産数
J-REITが複数不動産で構成されているのに対し、デジタル証券は単一の不動産を裏付けとした資産であり、分散効果によるリスク低減効果が見込めません。

②償還の有無
不動産セキュリティ・トークンは運用期間の定めがあるため、償還があります。

③元本価格のボラティリティ
J-REITの投資口価格は、不動産市場の他、株式市場の影響も大きく受けますが、不動産セキュリティ・トークンの元本価格は基本的には不動産マーケットに大きく影響を受けると考えられます。

④流通性の程度
現状、不動産セキュリティ・トークンは公開市場での取引ができず、流通性は低い状態にあります。今後、セカンダリー市場8の整備が予定されていますが、流通性の程度については不明です。

Ⅱ-Ⅲ.まとめ

今般、セキュリティ・トークンが開発された背景には、個人投資家を中心とした資産運用ニーズがあります。従来、個人が投資できる不動産小口化商品は、J-REITや不動産クラウドファンディングなどに限られていました。

これらとの異同は前記のとおりですが、一般の個人投資家にとって事業者等の信頼性が分かり易く、収益のボラティリティが不動産市場の変動にほぼ限定され、かつ、一定程度の利回りが確保できる、などの特性を有する不動産金融商品は、さほど普及していませんでした。

この点、今般のセキュリティ・トークンは魅力的な商品であると考えます。他方の事業者側も、近時の低金利やデジタル化を背景とした顧客ニーズの変化など厳しい経営環境に直面しており、新たなビジネスによる市場の創出は非常に重要であると考えます。

課題はあります。不動産マーケットは長らく良好な状況が維持されていますので、個人投資家等は、不動産マーケットの悪化による元本価格の毀損をさほど意識していない可能性があります。また現状、セカンダリー市場は未整備で、流通性が低い状態です。

一方の事業者にとっても、現状の資産運用規模は小さく運用コストが割高なため、事業収益性は低いと考えられます。また商品の販売には、証券会社としての登録若しくは業務連携が必須と考えられるなど、乗り越えるべきハードルは多いと思われます。さらにセキュリティ・トークンには償還があることから、一朝一夕には市場規模の拡大は図りづらいと考えられます。

しかしながら、今般の事前募集に対しては、個人投資家から販売目標を超える申し込みがあったことをふまえると、(募集額が小さい点を差し引いても)一定のニーズがあることは間違いありません。商業施設などを投資対象資産とした商品、LTVが浅い低利回りの商品など、今後、事業者は市場との対話を行いながら、商品開発をすすめていくことも想定されます。

また現状、不動産セキュリティ・トークンの組成コストは比較的高いと考えられますが、(技術革新、発行数の増大などにより)組成コストが他の不動産証券化スキーム等を下回れば、相対的に低い利回り水準での投資対象不動産の購入も可能となります。

今後、セカンダリー市場の整備も予定されています。投資家層の多様化等を通じて、適正な不動産市場の形成や進展につながる新たな証券化の手法として、定着を期待したいと思います。

1 本稿ではエクイティに投資する一般的な不動産クラウドファンディングを想定。匿名組合型とは商法の匿名組合契約を活用したスキームを指す。それぞれの匿名組合員が事業者と独立して匿名組合契約を行い、責任範囲は有限である。
2 本稿では2021年8月に販売された不動産セキュリティ・トークンを想定(ケネディクスが原資産となる不動産の拠出(オリジネーター)及び対象資産のアセット・マネジメント業務等を行い、三菱UFJ信託銀行がブロックチェーン基盤システムの提供及び受益証券発行信託の受託業務等を行った資産裏付け型セキュリティ・トークン)
3 不動産特定共同事業とは、事業者が複数の投資家から出資を受けた資金で不動産を取得・運用し、得られた収益を投資家に分配する事業。1号事業とは不動産特定共同事業契約を締結して、当該契約に基づき営まれる不動産取引から生ずる収益または利益の分配を行う行為。
4 保有・運用する不動産を関係者の倒産等のリスクから切り離すこと。
5 Loan To Value。不動産価格に対する借入金の割合。割合の数値が小さいほど安全度が高いとされる。
6 自己資本と他人資本(借入金等)を組み合わせて資金調達を行い、自己資本のみの場合よりも高い利益率を獲得する効果のこと。
7 事業者や運用者が、一般投資家とともに当該ファンドに出資すること。事業者等と一般投資家等の利害が一致し、一般投資家からの信頼獲得につながると考えられている。
8 10月7日付の日本経済新聞によると、SBIホールディングスなどが私設取引システム(PTS)「大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)」を設立する方針とのこと。二次流通市場の形成により、今後、一定程度の流動性が確保されると考えられる。

提供:法人営業本部 リサーチ・コンサルティング部

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