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物流の2024年問題と輸配送、機械化・自動化の最新動向Ⅰ
~労働力不足の現状と2024年問題~
物流業界は、近年深刻な労働力不足問題に直面しており、トラックドライバーや倉庫スタッフがいたるところで不足しています。迫る「物流の2024年問題」への対応も含め、物流業界では輸配送における労務負担の軽減策や物流ロボット等を活用した荷役作業のオートメーション化、物流DX等の対応を行うことが待ったなしの状況です。
本レポートでは、物流業界を取り巻く現状と、輸配送・荷役における各種対応策について確認していきます。
<サマリー>
●物流業界における労働力不足問題に関しては、就業者の高齢化と女性割合の低さがあげられます。特に「道路貨物運送業」については、「50-64歳」が66%と大半を占めています。業界として常態化した長時間労働、低賃金、重労働等が若手・女性就業者が少ない要因としてあげられます。
●EC市場は右肩上がりに成長しており、2021年は初めて20兆円を超え、EC化率も8.8%となりました。一方、世界のEC化率は2025年24.5%を見込んでおり、国内市場もまだ成長の余地があるといえます。
●働き方改革関連法等により、2024年4月よりドライバーの労働時間規制が始まります。今後物流が滞る可能性があり、今までのような配送量やスピードを維持することが難しくなると考えられます。野村総合研究所では、「2030年には全国の約35%の荷物が運べなくなる」と試算しています。
Ⅰ-Ⅰ.労働力不足とその要因
i. 高齢化と低調な女性就業者割合
国内における多くの産業では労働人口の減少による労働力不足に悩まされていますが、その中でも特に物流業界は深刻な業界としてあげられます。産業別の労働者過不足判断D.I.[1]をみると、2022年11月時点で「運輸業、郵便業」は56と、全産業の48と比較すると8ポイント高い水準です。
物流業界が特に労働力不足に陥っている要因として、就業者の高齢化と女性割合の低さがあげられます。運輸・郵便業の就業者平均年齢は、46.9歳と、全産業の43.4歳と比較すると3.2歳ほど高い状況ですが、年代別内訳をみると、「30歳未満」「65歳以上」の割合が少なく、それぞれ11%、12%です。運輸・郵便業の中でも、特に「道路貨物運送業」に焦点をあててみると、「30歳未満」「30-49歳」が合わせて24%にとどまっているのに対し、「50-64歳」が66%と大半を占めています。また、運輸・郵便業における女性就業者の割合も低調で、22%にとどまっています。
物流市場は2020年まで人口減少により市場が縮小傾向にありましたが、コロナ禍におけるECの拡大から、直近市場規模が増加に転じています。これがより一層の労働力不足を引き起こしているとみることができます。
ii. EC市場の拡大
EC市場は2010年前後からスマートフォンの普及および宅配スピード改善により拡大を続け、2021年ははじめて約20兆円を超えました。2010年から比較すると、約2.6倍の成長です。分野別にみると、特にコロナ禍においては「巣ごもり需要」の拡大にともない、「物販系」「デジタル系」が大きく成長し、2021年は「物販系」が約13兆円(2019年比32%)、「デジタル系」は約2.8兆円(2019年比29%)です。EC化率[2]も同様に上昇しており、2020年には8%を超えました。
世界的に見てもEC市場は右肩上がりに成長しており、2025年は7.39兆米ドル(2021年比50%増)となる予想です。また、EC化率は高く、2025年に24.5%を見込んでいます。国内市場においても、より成長の余地があるといえます。
一方、EC市場の急激な拡大により、宅配業者の負担が増加しています。宅配便取扱実績をみると、2021年度トラック宅配便数は約49億個と、5年間で約9 億個増加しました。また、宅配便数の急増による再配達数の増加も問題です。宅配便の再配達は CO2排出量の増加やトラックドライバー不足を深刻化させるなど、重大な社会問題の一つとなっています。国土交通省は「総合物流施策大綱」において、2025年度までに再配達率の削減目標を7.5%に設定しており、自宅以外での受け取り促進や、オートロック付きマンションへの置き配を可能とするドライバーのオートロック開錠システム活用について実証実験を行う等対応を進めています。
[1] 労働者が「不足」と回答した事業所の割合から、「過剰」と回答した事業所の割合を差し引いた値であり、プラスであれば人手不足と感じている事業所が多いことを示す
[2] BtoCの商取引市場規模に対するに対するBtoC-EC(物販系分野)の市場規模
Ⅰ-Ⅱ.トラックドライバーの不足と2024年問題
i. トラックドライバー不足の要因
第一節にて、物流業界における就業者の高齢化と女性割合の低さについて確認しました。若手や女性の就業割合が低い要因として、長時間労働や年収水準の低さがあげられます。「運輸・郵便業」における年間労働時間をみると、2022年は約2300時間と、全産業より約1割長い水準です。また、給与水準も同様に全産業より約1割低い状況です。
輸配送の主たる担い手であるトラックドライバーに関しては、運転免許制度の改定も若手就業者数の減少に影響しているといえそうです。中型免許制度(2007年新設)、準中型免許制度(2017年新設)により、普通免許で乗れるトラックの種類が2t未満に限定されています。また、AT限定免許の取得数が増加していることも要因としてありそうです。
全国トラック協会によると、約64%の事業者が「運転者労働力が不足している」と回答[3]しており、これは今後も上昇する見込みです。鉄道貨物協会によると、2028年度における営業用トラック輸送量と営業トラック分布率の予測値からみたドライバーの需要量が約117万人であるのに対し、将来人口予測からドライバーの供給量は約90万人と、約27万人のドライバー不足が予測されています[4]。
荷役作業の主な担い手である倉庫作業員も不足しています。2023年1月における有効求人倍率は、1.45倍(全体1.29倍)となりました。人手不足の理由としては、物流施設は24時間稼働しており、二交代制や三交代制の勤務体制は身体的疲労がたまりやすく、長期勤務が続きづらいこと、積み下ろしや積み付け、ピッキング等重労働が多いこと等があげられます。また、長時間労働が常態化していたところに、ECの拡大により配送量が増え、作業負担が増加していることも人手不足が進んでいる要因としてあげられます。
輸配送、荷役ともに身体的負担が大きく、高齢者や女性にとって業務を選択しづらい・継続しづらいといった状況が考えられます。人材確保のため、働き方改革や生産性の向上、女性活用の促進といった取り組みが進められています。
ii. 「物流の2024年問題」
働き方改革関連法とは、働きすぎを防ぎ、ライフワークバランスと多様で柔軟な働き方を実現することを目的とした一連の労働関係の法改正のことで、2019年より順次施行されています。時間外労働の制限や、有給取得の義務化、同一労働同一賃金等に関する内容が盛り込まれています。
この中で、「自動車運転の業務」における時間外労働の上限規制が2024年4月より適用開始となります。これにより、トラックドライバーの年間時間外労働時間の上限が制限されることとなります。ドライバーの負担を減らし、労働環境を良くしようという目的がありますが、一方でドライバーは一日で運べる距離や荷物の量が減少するため、運送・物流企業の売り上げや利益の減少、ドライバー自身の収入減少、荷主企業の運賃上昇につながるという問題をかかえています。これらを総じて「物流の2024年問題」と呼んでいます。
トラックドライバーの年間労働時間は全産業と比較すると2021年は「トラック(中・小型)」が384時間(月平均32時間)、「トラック(大型)」が444時間(月平均37時間)も多い状況です。また、長距離移動以外では、荷待ち時間や荷役時間の発生も、非効率な長時間労働につながっています。
2024年4月以降は、年間960時間(月平均80時間)以内の罰則付き時間外労働制限が設定されるほか、これにあわせ改正基準告示[5]も改正され、拘束時間や休息時間の規定が強化される予定です。
下記に、2024年4月より適用となる働き方改革関連法、改正基準告示の内容の一部をまとめています。
厚生労働省の調査によると、2021年度は3割超のドライバーが改正基準告示上の拘束時間を超えています。ドライバーの労働時間規制が行われることで、今後物流が滞る可能性があり、今までのような配送量やスピードを維持することが難しくなると考えられます。野村総合研究所では、「2030年には全国の約35%の荷物が運べなくなる」と試算しています[6]。
今まで以上に労働時間を管理する必要があるため、事業者の負担も増加することとなります。2024年問題に対応するため、輸配送における労働時間・労務負担を軽減、効率化するための対応が必要となります。次章において、具体的な対応策について確認していきます。
[3] 公益社団法人全国トラック協会「第120回トラック運送業界の景況感(速報)令和4年10月~12月期」より
[4] 公益社団法人鉄道貨物協会「平成30年度本部委員会報告書」より
[5] 「労働省告示第7号 自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」
[6] 株式会社野村総合研究所「トラックドライバー不足時代における輸配送のあり方」2023年1月19日発表より
提供:法人営業本部 リサーチ・コンサルティング部
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