岸田総理大臣所信方針演説に見る不動産市場への影響<2024年1月>

2024年1月30日 第213回国会において岸田総理大臣の施政方針演説1が行われました。演説にて表明された内容から、大都市圏等の不動産市場に関連する事項について考えてみたいと思います。


1施政方針演説は通常国会開催時に10000字程度で内閣の方針が述べられます。所信表明演説は臨時国会や特別国会開催時に7000字程度で首相の所信が述べられます。

Ⅰ.施政表明演説の経済面についての概略

演説では「四 経済」として以下のテーマと項目が取り上げられました。前回2の所信表明演説(以下「前回演説」)から3ヶ月の期間を経ていますが、全体的には基本的な方針の変更は見られませんでした。

ⅰ.物価高に負けない賃上げ

  • 公的賃上げ
  • 賃上げ税制拡大強化
  • 年収の壁対策
  • 適正な労務費による請負契約
  • エネルギー激変緩和措置
  • 追加給付
  • 物価高を上回る所得の実現としての賃上げ
  • 人への投資
  • セーフティネット拡充
  • リスキリング

ⅱ.稼ぐ力の強化

  • 過去最大規模の設備投資をさらに進めるための国内投資促進パッケージ
  • 生産段階でのコストへの税額控除
  • 省力化投資
  • 北陸新幹線
  • 自動物流システム

ⅲ.GX(グリーン・トランスフォーメーション)

  • GX経済移行債20兆円を活用した投資
  • 水素、CCS(CO2回収・貯留)、洋上風力
  • カーボンプライシング制度を見据えた法制化
  • 原子力
  • アジア・ゼロエミッション共同体

ⅳ.イノベーション・スタートアップ

  • AI(人口知能)
  • 宇宙
  • バイオ、量子、フュージョンエネルギー
  • スタートアップ育成五か年計画の加速

ⅴ.大阪・関西万博

  • オールジャパン

ⅵ.資産運用立国

  • 「新NISA」

ⅶ.経済財政運営

  • 財政健全化

2第212回国会 所信表明演説について経済分野の主な項目
【供給力の強化】半導体や脱炭素のように安全保障に関係する大型投資等供給強化、賃上げ税制、投資減税、省力化投資の補助制度、省エネ・脱炭素、AI(人工知能)、自動運転、宇宙、中小企業の海外展開などの新しいフロンティアやイノベーションへの取組、スタートアップへの支援、金融資本市場の変革に生産性を引き上げる構造的な改革、年収の壁対策
【国民への還元】税収の還元、エネルギー価格の上昇対策

Ⅱ.大都市圏の不動産市場に関連する事項

ⅰ.これまでの弊社レポートの見解を踏襲する事項

弊社では、これまでも、首相の方針演説から本関連事項を検討してまいりました。
賃上げの関連事項としては、継続して、企業のコスト増よりも人員の逼迫による求人ニーズが優るため、オフィスの需要が活発になることはあっても減少することはないと考えます。
中期的には、可処分所得の増加が住宅需要や景気の改善にプラスの影響をおよぼす可能性があります。
国内投資の促進・GX・スタートアップについても、やはり継続して、関連業種に不動産需要が発生する可能性があり、市場にはプラスの影響が期待されます。
資産運用立国やGX投資は、外国の投資運用会社の参入を促し、東京の国際金融都市化を進めることにつながると考えていますが、それを促進する政策が選択されている印象を持ちました。

ⅱ.「六 地方創生」に関連する事項について

演説中、「六 地方創生」では、「観光・農業」がテーマとして取り上げられています。なお昨年1月の施政方針演説でとりあげられ、東京圏と地方の転出入を均衡されることも目標とする「デジタル田園都市国家構想」の言葉は、今回は用いられませんでした。

(Ⅰ)観光について

観光分野では、2030年訪日客6000万人・消費額15兆円が目標として掲げられ、全国津々浦々に観光の恩恵を行き渡らせるとされています。2023年の2.4倍の訪日客となります。
2023年の訪日客は、2506万人と前年比6.5倍、2019年(3188万人)をピークとしたコロナ禍以後では最高の客数となりました。2019年との差は682万人ですが、その数は中国の訪日客の減少数(約717万人減少)と近しくなっています。今年は、円安や東京オリンピックを契機とする訪日ニーズの継続、コロナ禍を脱した旅行需要の増加、さらに中国からの観光客も回復期待等によりさらなる観光客の増加が望まれます。
一方で、日本経済研究センターの予測によると2026年1‐3月では為替レートは125.6円/ドルと現在よりも円高水準が想定されています。また処理水の見解の相違や国内景気が中国の訪日需要にどの程度影響していくかも不透明です。このような状況下、地域の魅力の向上や周辺諸国の旅行需要の増加とあわせ、大阪万博や統合型リゾート施設がどの程度呼び水になるのか、注目していきたいと考えます。

(Ⅱ)「食料・農業・農村基本法」の改正

さらに農業関連法制についても改正が検討されています。農地は、市街化区域内農地の転換を除くと、大都市圏の商業・居住用不動産との関連はそう大きいとはいえません。しかしながら産業としての規模とそれが影響する裾野を考えると、オフィス・物流・工場・人材の異動等さまざまな分野への波及が考えられます。また地域によっては、その影響が大きく発生することも考えられ、注目を浴びることもあるでしょう。今回の改正が、どれだけの影響を与えうるものとなるのか注目されます。

Ⅲ.まとめ

総じてこれまでの方針と大きく変わることはなく、政策的に不動産市場が転換を迎える可能性は低いと考えます。これまでも強く取り上げられたわけではありませんが、東京一極集中の是正についてもほかの政策の優先度が向上し、影が薄れた印象を持ちました。
ここにあげられた、国際金融都市関連(資産運用立国・GX)・所得水準と生産効率・新産業・観光・農業等中長期的等分野について政策の継続性と効果が大きくなることが期待されます。

提供:法人営業本部 リサーチ・コンサルティング部

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