所有不動産の「老朽化」リスクにどう備える?「修繕」「改修」のポイントを解説

高度経済成長期やバブル期に建てられ、築年が30年以上経過した建物が増えています。企業が所有する不動産(CRE)においても「老朽化」により様々な課題を抱えるケースがあります。企業の方からは老朽化の課題やニーズとして「維持管理費用を抑制したい」「利用者・テナントの満足度を上げたい」「従業員の満足度を上げたい」、「所有不動産の資産価値を維持、向上させたい」といった声が挙げられます。

一方、これまで計画的なメンテナンスを行っていなかったため、不具合が出てから初めて修繕計画を作成したところ、高額な修繕費用が必要となり困惑する担当者・経営者の方も多いようです。

この記事では、建物老朽化がもたらす事象やリスク、その対策としての「修繕」「改修」の流れ、費用やポイント、事例について解説します。

目次

Ⅰ.老朽化によって起こる事象

長い年月の経過によってモノの状態や機能が低下・減退することを老朽化と言いますが、建物が老朽化すると、以下のような事象が発生します。

  • ⅰ.設備の故障・不具合(電気・機械、空調、衛生・給排水、防災)
  • ⅱ.外装の劣化(外壁・屋上の仕上げ・防水)
  • ⅲ.内装の陳腐化・劣化(共用部、壁、床、天井、レイアウト)
  • ⅳ.耐震性の不足

それぞれの項目について解説します。

ⅰ.設備の故障・不具合(電気・機械、空調、衛生・給排水、防災)

空調やエレベーター、トイレ、駐車場などの老朽化は、利用者にとって環境悪化につながり、自社利用のオフィスビルでは労働環境に直接影響し、仕事のモチベーションや生産性の低下につながることもあります。また、給排水管の劣化による漏水は、他フロアや全体の影響も想定され、酷い場合は業務ができなくなることも考えられます。一例として衛生設備(トイレ)が使えなくなると、他の階への移動が必要なため、従業員からのクレームが多く生じたケースがあります。

ⅱ.外装の劣化(外壁・屋上の仕上げ・防水)

外壁のひび割れや錆、色あせにより外観の印象を悪くさせるだけでなく、万一、外壁材が剥落すれば、歩行者に当たって事故になることもあります。また、外壁のひび割れや屋上の防水層が劣化して雨漏りが発生すると、PC等の通信設備や電気・機械設備への影響がありますし、建物の劣化が早まることにつながります。

ⅲ.内装の陳腐化・劣化(共用部、壁、床、天井、レイアウト)

エントランス周り、共用部、フロアレイアウト等、内装の陳腐化も利用者に与える印象が悪くなる上、劣化した壁や天井、床材が原因で思わぬ事故につながり兼ねません。働き方改革に伴い、昔ながらの島型レイアウトが陳腐化し、フリーアドレス化につながったともいえます。

ⅳ.耐震性の不足

国内では、これまでも大地震が発生していますが、南海トラフ地震、首都直下地震など将来発生の切迫性が指摘されています。1981年5月31日までに建築確認申請を受けた建物は「旧耐震基準」によって建築され、耐震性が不十分なものが存在します。利用者の安全を考えると耐震性が懸念される場合には、企業は対処が必要です。

【図表1】老朽化によって起こる事象の例
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Ⅱ.老朽化の放置によるリスクは重大

老朽化を放置すると、以下のようなリスクがあります

  • ⅰ.所有者責任(事故など法的な責任)
  • ⅱ.社会的ニーズ(環境配慮、利用者評価)
  • ⅲ.資産価値が低下(収益性低下、流動性低下)
  • ⅳ.その他(修繕費用の増加)

それでは一つずつ詳しく見てみましょう。

ⅰ.所有者責任(事故など法的な責任)

建物の外壁が剥落して歩行者に怪我をさせてしまった場合など、設備、外壁等の工作物の設置や保存に瑕疵があり、他人に損害を与えた場合は、所有者が賠償責任を負うことになります。耐震性が不足していたことにより、多数の利用者に被害が及ぶ場合等は、企業としての責任が問われる可能性もあり、所有者リスクと事業存続リスクを孕みます。

ⅱ.社会的ニーズ(環境配慮、利用者評価)

また、最新の設備に比べてCO2排出量や消費電力が多くなり、多大な環境負荷を与える点で、企業であれば環境への配慮不足が懸念されます。 自社のオフィスビルの場合には、労働環境の悪化によって従業員の離職、人材獲得にも影響が生じる可能性があります。

ⅲ.資産価値が低下(収益性低下、流動性低下)

テナントビルの場合には、修繕や設備のメンテナンスを怠っていると、賃料下落や空室リスクが高くなり、収益性や売却時の流動性が低下することで資産価値の低下につながります。

ⅳ.その他(修繕費用の増加)

老朽化により通常の維持管理費用が嵩んでくるだけでなく、後になって纏まった修繕を行う場合には、工事内容の増加や期間の長期化、代替材の不足、現行の法的規制に合致しない箇所への対応など工事費用が高額となることもあります。

Ⅲ.老朽化対策と流れ

これまで紹介したような老朽化によるリスクを回避するために必要な対策は次の通りです。

ⅰ.対策の流れ(検査→修繕計画の策定→修繕・改修)

老朽化対策にあたって、まず現状の検査を行い、検査結果を元に修繕計画を策定、費用や工事の時期などを考慮して、修繕・改修を行います。検査(建物診断)は建物の規模や破壊検査の有無にもよりますが、一般的に、延床面積3~5千㎡のビルで100万円前後が相場となります。

【図表2】老朽化対策の流れ
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ⅱ.一般的なビルの更新(メンテナンス)周期

一般的なビルの更新周期は下表の通りです。これを目安にしながら、劣化状況に応じて優先的に着手すべき事項を洗い出します。

【図表3】一般的なビルの更新(メンテナンス)周期
工事項目 更新周期
建築 屋上防水(方式による) 20〜30年
外壁防水 15年
外壁小口タイル仕上げ 35年
吹付タイル 15年
天井化粧石膏ボード 20年
ステンレス鋼管(給水等) 30年
設備 受水槽・ポンプ 20〜30年
照明器具 20年
エレベータ 30年
空調設備(方式による) 15〜20年
受変電設備 25〜30年
中央監視装置 10〜20年
自動火災報知設備 20年

ⅲ.「修繕計画」とは

修繕・改修すべき周期を整理し、各項目の費用と年ごとの費用をまとめた修繕計画を作成します。

【図表4】中長期(20年)修繕計画の例
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ⅳ.「修繕」とは

故障や不備・不具合のあった箇所を修理・整備して、建物の維持管理を行うことです。基本的には「性能維持」を目的とし、以前の状態に回復させるために行う工事を指します。

ⅴ.「改修」とは

従前から建物にあった空間や特定の箇所を一新して、バリューアップすることです。社会や時代の変化に応じた水準に「性能やデザインを引き上げる」ために行う工事を指します。

【図表5】「修繕」と「改修」の違い
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ⅵ.補助金

省エネ改修など、建物の修繕・改修に補助金が出る場合があります。建物工事には高額なコストがかかるので、補助金申請を念頭においた計画を立てると良いでしょう。全体で1億円かかる工事の約3,000万円を補助金でまかなったケースもあります。

Ⅳ.修繕・改修による(バリューアップ)事例

以下の3件は修繕工事の事例です。
※費用は、建築(屋上防水も含む)・空調・電気とも一式(フルリニューアル)の場合

ⅰ.「空調が効かない」との社員の訴えから改修

所在(都道府県) 東京都
アセットタイプ オフィスビル
築年 築33年
工事内容・項目 空冷パッケージエアコン 室内外機更新
延床面積 4,000㎡
施工費用(参考価格) 90,000,000円

ⅱ.古くなった外壁を補修・塗装して一新

所在(都道府県) 東京都
アセットタイプ レジデンス
築年 築17年
工事内容・項目 外壁タイル補修、シーリング打替え、屋上防水、鉄部塗装
延床面積 3,500㎡
施工費用(参考価格) 70,000,000円

ⅲ.電気系統の不具合が生じ、受変電設備を更新

所在(都道府県) 大阪府
アセットタイプ オフィスビル(地下4階地上9階建て)
築年 築59年
工事内容・項目 受電盤(2面)変圧器(2面)VCT盤、LBS盤更新
延床面積 14,700㎡
施工費用(参考価格) 50,000,000円

以下2件は内装改修工事の事例です。

ⅳ.環境負荷をテーマに築50年超ビルをリノベーション
ー広島稲荷町NKビル

環境負荷低減をテーマに、築50年を超える施設をリノベーション。共用部照明にはサーカディアンリズム(人間を含む生物が生まれながらにして持っている、24時間周期の体内時計)を導入。機能性と意匠性を兼ね備えたデザインとし、バイオリズムに寄り添った施設を目指しました。

所在(都道府県) 広島県
アセットタイプ オフィスビル(地下1階地上13階建て)
築年 築55年
工事内容・項目 エントランス、地下1階共用エリア内部(床・壁・天井(照明含む))改修
延床面積 17,300㎡
施工費用(参考価格) 120,000,000円
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ⅴ.周辺の街並みをビル内に取り込みながら、トイレの機能向上
ーNMF仙台青葉通り

自然豊かな近隣の街並みをオフィスビルの中に取り込むことをテーマとしたリノベーション。バイオフィリックデザイン(人間には自然とつながりたい本能的欲求があるという考え方に基づいたデザイン)の導入による意匠向上とともに、水栓・エアタオルのタッチレス化や衛生器具の節水性向上など、大幅に機能改善し、利用者満足度を追求しました。

所在(都道府県) 宮城県
アセットタイプ オフィス+店舗ビル(地下2階地上8階建て)
築年 築56年
工事内容・項目 内装、トイレ(衛生器具更新、床・壁改修)
延床面積 13,200㎡
施工費用(参考価格) 60,000,000円
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Ⅴ.老朽化対策のポイント

ⅰ.長期目線で修繕計画を立案

建物を良好な状態で維持するためには、定期的な修繕・改修が欠かせません。そのためには、点検・調査やメンテナンスの周期、大きな修繕や改修の時期、大枠の修繕費用を掴むことを目的に長期の修繕計画を作成し、把握しておくことで計画的な費用拠出が可能となります。

ⅱ.修繕計画の定期的なアップデート

不備・不具合が発生して大きな問題になる前に、日々の点検・メンテナンスも重要です。修繕計画を立案した後は、3~5年ごとに計画の見直しと日常の維持管理、災害リスク、利用者ニーズ変化、物理的劣化への対応方針に基づき修繕をすることで、建物の長寿命化、修繕費全体の圧縮、利用環境の向上につなげることができます。

ⅲ.社内や関係者の意思決定

企業であれば、社内の管理・総務部門などが決定権者にプレゼンテーションをして、修繕・改修を実施する効果を説明し、決断を促す必要となる場合があります。自社利用であっても、貸し床に換算した場合の収益改善の提示や、従業員満足度の向上などを示し、経営層の理解を得られるように努めましょう。

ⅳ.建物関連情報の整理・保管

修繕・改修にあたっては、竣工時の図面や過去の点検・修繕履歴などが保管されていることが理想です。もし、それらが保管されていないと現状把握がしづらく、現場を元に一から図面を引き直す費用、時間がかかることになります。

Ⅵ.まとめ

建物を建築する際には、当初の建築費が注目されがちで、その後の維持管理が十分でなく、老朽化した不動産の運営や活用に課題感を持つ企業は少なくありません。老朽化した建物の不備・不具合を放置した場合、企業としてのリスクは決して小さくありません。 中長期の修繕計画を立案し、修繕や改修を通して資産価値を維持し、社会的なニーズに応えることで、企業価値と社会的評価の向上を図ることも、重要な経営戦略と言えるのではないでしょうか。

提供:法人営業本部 リサーチ・コンサルティング部

監修:野村不動産パートナーズ株式会社

https://www.nomura-pt.co.jp/

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