地域間人口移動と東京一極集中 第2回 ~東京一極集中が不動産市場に及ぼす影響~

地域間人口移動は我が国の地域バランスに重大な影響を及ぼしています。第1回では、特に人口動態の全体傾向を見たうえで、地域間人口移動のデータより、東京一極集中の傾向が続いていることを確認し、なぜ東京一極集中が起きているかについて、考察を行いました。
第2回では、東京一極集中が不動産市場にもたらす影響について、東京圏と地方圏の双方から検討したうえで、その課題や展望について考察したいと思います。


【サマリー】

  • 本レポートでは、東京一極集中が不動産市場に与えている影響について、東京圏と地方圏の双方から構造的に分析を行いました。その結果、以下のような実態と課題が明らかとなりました。
  • 第一に、東京圏では人口と企業の集積が不動産市場の過熱を招いており、住宅価格の高騰や供給圧力、地価上昇が顕著です。港区・中央区・渋谷区など都心部では地価が大きく上昇しており、新築マンションの平均価格は23区では1億円超となっています。また、都心への集中に伴う郊外部へのスプロール現象も進行しています。
  • 第二に、地方圏では空き家率の上昇、地価下落、商業地の空洞化が深刻化しており、不動産市場の縮小が続いています。山梨県や和歌山県では空き家率が20%を超え、中心市街地も空き店舗が目立つ事例があります。一方で、福岡市や札幌市など一部の地方中枢都市では再開発や人口流入により地価・住宅価格が上昇しており、地方圏内部でも二極化が進行しています。
  • 第三に、東京一極集中は不動産市場だけでなく、災害時の事業継続(BCP)リスク、生活インフラの過負荷、国土の非効率的利用といった広範な問題を内包しており、日本の都市・経済の持続性に対して長期的なリスクを孕んでいます。
  • これらの課題を踏まえ、政策・市場・社会の3つの側面から具体的な提言を行いました。
    • 政策面:多極分散型都市構造の推進
    • 市場面:地域ごとの特性に応じた投資誘導
    • 社会面:住まいと都市に対する意識の転換

Ⅰ.東京圏不動産市場への影響

東京圏、特に東京都心部への人口および企業の集中は、住宅市場、オフィス市場、郊外住宅地の形成に多大な影響を及ぼしています。本章では、地価や住宅価格の上昇、オフィス・商業用不動産への投資集中、そして郊外地域への波及効果について、具体的なデータや事例を交えて検討します。

ⅰ.地価と住宅価格の急激な上昇

東京一極集中の最も顕著な影響は、都心部における地価および住宅価格の上昇です。国土交通省「地価公示」(2025年)によると、東京都23区の住宅地の平均変動率は7.9%であり、特に都心3区(千代田区、中央区、港区)では10~14%に達しています(図表1参照)。これらの地域では、再開発が進行しており、超高層マンションや複合施設の建設が価格上昇を牽引しています。
例えば、港区に位置する「麻布台ヒルズ」は、森ビル主導で開発された複合都市再開発プロジェクトであり、分譲住宅部分の販売価格は1戸あたり3億円超にのぼるユニットもあります。こうした高価格帯物件が成立する背景には、富裕層および海外投資家からの強い需要があります。
また、図表2が示すように、2024年時点での東京23区における新築マンションの平均価格は11,181万円とされており、2015年比で約66%上昇となっています。この上昇は平均所得の伸びをはるかに上回ると思われ、都心部での住宅取得は中間層にとって困難な状況になりつつあります。

【図表1】東京都の地価上昇率(住宅地)の推移
202506_02_image01.jpg出典:国土交通省「地価公示」より当社作成
【図表2】新築分譲マンションの平均価格の推移(東京23区)
202506_02_image02.jpg出典:不動産経済研究所「全国新築分譲マンション市場動向2024年」より当社作成

ⅱ.オフィス・商業施設への投資集中

東京圏への集中は、住宅のみならずオフィス・商業施設市場にも大きく波及しています。とりわけ、企業本社の集積が進む丸の内・大手町、渋谷、品川などでは、次世代型オフィスビルへの投資が活発化しています。
例えば、渋谷駅周辺では、東急グループが中心となって進める「渋谷再開発プロジェクト」が進行中であり、その中核を成す「渋谷スクランブルスクエア」は延床面積約276,000㎡、地上47階建ての大型複合施設です。完成当初からオフィス部分は大手IT企業によって即座に埋まり、テナント誘致の競争率の高さがうかがえます。

ⅲ.郊外住宅地への波及と通勤圏の変化

都心部の価格高騰は、住宅取得希望層を郊外へと押し出し、新たな通勤圏・生活圏の形成をもたらしています。多摩地域や神奈川・埼玉・千葉の駅近エリアでは、再評価が進み、住宅価格が上昇するケースが見られます(図表3参照)。
例えば、東京都下の多摩地区や、埼玉県、千葉県、神奈川県の東京都近郊都市部では、いずれも都心へのアクセスの良さや子育て環境の充実を理由に注目されています。
また、テレワークの普及は、通勤の利便性よりも居住環境の快適性を重視する傾向を強め、郊外や近郊都市の住宅需要を底上げしています。住宅ローン控除や子育て支援制度を活用する若年層の郊外移住も、こうした傾向を後押ししています。

【図表3】新築分譲マンションの平均価格の推移(東京都市圏近郊)
202506_02_image03.jpg出典:不動産経済研究所「全国新築分譲マンション市場動向2024年」より当社作成

以上のように、東京圏では不動産市場が三層構造(都心部の高価格帯、オフィス・商業地への投資、郊外の中間層住宅需要)で展開されており、いずれの層にも東京一極集中の影響が色濃く表れています。

Ⅱ.地方圏不動産市場への影響

東京一極集中の進行は、東京圏への人口・資本・企業の過度な集中をもたらす一方、地方圏においては反対に深刻な市場収縮や価値の毀損という形で現れています。本章では、主に住宅市場・商業地・都市の構造的変化の3側面から、地方圏の不動産市場に及ぼされた影響について検討します。

ⅰ.空き家率の上昇と資産価値の下落

総務省「令和5年住宅・土地統計調査」によると、全国の空き家数は約900万戸、空き家率は過去最高の13.8%に達しています。特に地方圏ではその比率が顕著に高く、徳島県(21.2%)、和歌山県(21.2%)、山梨県(20.5%)など、20%を超える地域が複数存在します(図表4参照)。
この背景には、若年層の都市部流出による人口減少と高齢化の進行があります。住宅需要が縮小する一方で、老朽化した住宅が市場に残存し続け、売却・賃貸いずれも困難な“流通困難物件”が増加しています。地方都市の中には空き家の放置により治安・景観悪化が問題視され、自治体が独自に空き家バンクを整備しているところもありますが(例えば秋田県横手市や島根県出雲市など)、利用率は限定的にとどまっています。
また、住宅資産の評価額も低迷しており、地方の築古戸建では固定資産評価額が数万円に満たない例や、不動産会社による査定で「実質価値ゼロ」と判断されるケースも散見されます。これにより、相続放棄や解体コストの問題が顕在化し、「負動産」化が進行しています。

【図表4】都道府県別空き家率(2023年)
202506_02_image04.jpg出典:総務省「令和5年住宅・土地統計調査」より当社作成

ⅱ.地方都市の二極化

地方全体での市場縮小が進行する一方、政令指定都市や中核市など、一部の「選ばれる都市」では不動産市場の活性化が見られます。特に福岡市、札幌市、広島市、仙台市などは、企業誘致、大学集積、観光需要を背景に人口が増加傾向を示しており、不動産価格も上昇基調にあります。
例えば福岡市では、天神ビッグバンを中心とした再開発プロジェクトの進行により、商業地・住宅地ともに資産価値が上昇しています。不動産経済研究所「全国新築分譲マンション市場動向2024年」によると、福岡市の2024年新築マンション価格は5,598万円(2023年3,996万円、40.1%上昇)となっています。
一方で、これらの都市に隣接しない中小地方都市では、依然として人口減少と空き地・空き店舗の増加が進行しており、都市間での「不動産価値の二極化」が顕著になっています。図表5は福岡県の市別地価上昇率(住宅地)の推移を示したものです。福岡市など上昇している都市と伸び悩んでいる都市に二極化していることが分かります。

【図表5】福岡県の地価上昇率(住宅地)の推移
202506_02_image05.jpg出典:国土交通省「地価公示」より当社作成

ⅲ.商業地の衰退と中心市街地空洞化

地方圏では、中心市街地の商業地において深刻な空洞化が進行しています。かつて地方の主要駅前や旧市街は地域の経済・交通の中心でしたが、人口流出と消費スタイルの変化、郊外型ショッピングセンターやEC市場の拡大により、商業地としての競争力を急速に失っています。
地方都市では、県庁所在都市の駅前商店街であっても、シャッター店舗が連なっているところが多くみられます。国土交通省が推進する「中心市街地活性化基本計画」によって、各自治体は活性化を試みていますが、民間資金が集まりにくく、収益性の乏しさから、商業施設としての再生は難航しています。
加えて、商業地の地価も大きく下落しており、地価公示によると、例えば鳥取県鳥取市の商業地は、10年前から20%以上の下落が確認されています(図表6参照)。これにより、収益不動産としての魅力が失われ、投資家やデベロッパーからの関心が極端に低下しています。

【図表6】鳥取県各市の地価水準(商業地)の推移
202506_02_image06.jpg出典:国土交通省「地価公示」より当社作成

以上のように地方圏の不動産市場は、東京一極集中の進行と人口動態の変化によって深刻な縮小圧力を受けています。空き家問題は住宅資産の価値棄損として、商業地の空洞化は地域経済の衰退として、不動産市場に表出しています。一方で、福岡市のように投資と人口が集中する中枢都市では、不動産市場の健全性が維持され、価格上昇も見られます。今後、こうした二極化がさらに進行することで、地方間の資産格差が拡大し、不動産をめぐる経済的・社会的格差が固定化する可能性があります。また東京圏との格差は今後さらに拡大する可能性が高く、地域間の資産価値の格差は単なる市場問題にとどまらず、地方の社会基盤の維持・再生に直結する重大な政策課題であると考えます。

202506_02_image07.jpg

Ⅲ.今後の課題と展望

近年、災害リスクへの対応、人口減少時代における持続可能な地域社会の構築といった観点から、「東京一極集中の是正」と「多極分散型都市構造への転換」の必要性が、国や自治体、学術界を中心に広く提唱されています。政府も「国土形成計画」や「デジタル田園都市国家構想」などを通じて、地域における拠点機能の強化や人流・投資の分散を図る方針を打ち出しており、東京への過度な集中を見直す機運が高まりつつあります。
東京一極集中の進行が不動産市場に与える影響は、資産価値の二極化のみならず、社会・経済全体に多面的な課題を生じさせています。今後は、東京圏の過密による弊害を緩和するとともに、地方圏の持続可能な都市機能と市場の再生を図る「多極分散型都市構造」への転換が求められます。本章では、東京一極集中の課題を整理したうえで、国や自治体等の不動産政策と都市政策の展望について論じます。

ⅰ.東京一極集中の課題

災害時の事業継続リスク(BCP上の課題)
東京圏は地震・台風・水害など複合的な自然災害リスクが高い地域であるにもかかわらず、日本の経済・行政・情報機能の多くがこの地域に集中しています。首都直下地震が発生した場合、建物被害にとどまらず、オフィス・インフラ・通信が麻痺し、国内経済に甚大な影響を及ぼす恐れがあります。
内閣府「首都直下地震想定(2013年)」では、発災後1週間で約50万棟が損壊、死者数最大2万3千人、経済被害は約95兆円にのぼると予測されています。こうしたリスクは企業のBCP(Business Continuity Plan)上の重大な課題です。

インフラの過負荷と生活環境の劣化
東京圏では交通混雑、待機児童、医療機関の逼迫、住宅価格の高騰といった生活インフラの過負荷が続いています。国土交通省によると、都内の鉄道混雑率はコロナ前のピーク時に200%を超えており、通勤通学者のストレスや生産性の低下を招いていました。現在はテレワークの普及により緩和傾向にありますが、住宅価格の上昇などが家計にとって大きな負担となっています。

地方の衰退と国土の不均衡な利用
東京一極集中が続くことで、地方圏の人口減少と経済縮小がさらに加速します。これは日本全体としての国土の非効率な利用に直結し、社会保障・インフラ維持コストの増大にもつながります。地方に眠る未利用不動産やインフラ資源の活用が進まないことは、経済的機会損失になり得ます。

ⅱ.多極分散型都市構造への転換

これらの課題に対処するため、国と自治体は多極分散型の都市構造を目指した政策展開を進めています。代表的な施策は以下の通りです。

地方中核都市の機能強化と誘導
国土形成計画(全国計画)において、札幌・仙台・広島・福岡などの地方中核都市を「中枢中核都市」として位置付け、企業誘致・交通インフラ整備・高等教育機関との連携を通じて、地方の自律的発展を促しています。例えば仙台市では、スタートアップ支援拠点「SENDAI for Startups!」を核とした産業育成が進行中です。

住宅政策の再構築とリノベーション支援
地方移住促進や空き家対策として、政府は「住宅セーフティネット制度」や「空き家バンク」、さらにはリノベーション補助金制度の拡充を行っています。特に若年層・子育て世帯向けに住宅取得費や改修費を支援する自治体も増加中であり、地域ごとの移住ニーズに応じた柔軟な政策設計が求められます。

Ⅳ.まとめと提言

ⅰ.まとめ

本レポートでは、東京一極集中が不動産市場に与えている影響について、東京圏と地方圏の双方から構造的に分析を行いました。その結果、以下のような実態と課題が明らかとなりました。
第一に、東京圏では人口と企業の集積が不動産市場の過熱を招いており、住宅価格の高騰や供給圧力、地価上昇が顕著です。港区・中央区・渋谷区など都心部では地価が大きく上昇しており、新築マンションの平均価格は23区では1億円超となっています。また、都心への集中に伴う郊外部へのスプロール現象も進行しています。
第二に、地方圏では空き家率の上昇、地価下落、商業地の空洞化が深刻化しており、不動産市場の縮小が続いています。山梨県や和歌山県では空き家率が20%を超え、中心市街地も空き店舗が目立つ事例があります。一方で、福岡市や札幌市など一部の地方中枢都市では再開発や人口流入により地価・住宅価格が上昇しており、地方圏内部でも二極化が進行しています。
第三に、東京一極集中は不動産市場だけでなく、災害時の事業継続(BCP)リスク、生活インフラの過負荷、国土の非効率的利用といった広範な問題を内包しており、日本の都市・経済の持続性に対して長期的なリスクを孕んでいます。

ⅱ.提言:バランスある国土と不動産市場の構築に向けて

これらの課題を踏まえ、以下に政策・市場・社会の3つの側面から具体的な提言を行います。

政策面:多極分散型都市構造の推進
地方中枢都市における交通・医療・教育インフラの強化により、移住・定住を支える基盤整備を推進すべきです。
空き家・遊休不動産の流通促進には、税制インセンティブやリノベーション支援の拡充が不可欠です。
BCPの観点から、企業の地方分散を促すための助成制度・規制緩和も必要です。

市場面:地域ごとの特性に応じた投資誘導
地方においては、地場資本や地域金融機関による不動産投資が成立するよう、官民連携型の開発スキームを拡充すべきです。東京圏においては、開発の質と量のバランスを図りつつ、再開発や都市更新による過密回避を意識した都市形成が求められます。ESGや災害対応など、新たな評価軸を取り入れた「価値基準の多様化」も、今後の投資判断を左右するポイントです。

社会面:住まいと都市の生活基盤の充実
若年層や子育て世帯が安心して地方に移住・定住できるよう、教育・雇用・医療といった生活基盤の充実と同時に、不動産を“資産”として維持・継承するための仕組みが求められます。

ⅲ.おわりに

東京一極集中は、高度経済成長期における国策的な都市集積の成果であると同時に、今や都市・経済・社会のバランスを大きく歪める構造的な課題でもあります。今後の人口減少社会においては、不動産を「分散型国土の中でどう活かすか」が問われる局面に入っています。
都市と地方、過密と過疎、価格上昇と資産棄損といった両極の現象を乗り越えるためには、「選ばれる都市」を増やすと同時に、「見捨てられない地域」を守る戦略的視点が求められます。これは単なる不動産市場の調整ではなく、日本の社会・経済・暮らしのあり方そのものを再構築する取り組みです。

提供:法人営業本部 リサーチ・コンサルティング部
リサーチ課 米川 誠

本記事はご参考のために野村不動産ソリューションズ株式会社が独自に作成したものです。本記事に関する事項について貴社が意思決定を行う場合には、事前に貴社の弁護士、会計士、税理士等にご確認いただきますようお願い申し上げます。また推定値も入っており、今後変更になる可能性がありますのでご了承いただきますようお願い申し上げます。なお、本記事のいかなる部分も一切の権利は野村不動産ソリューションズ株式会社に属しており、電子的または機械的な方法を問わず、いかなる目的であれ、無断で複製または転送等を行わないようお願いいたします。

企業不動産に関するお悩み・ご相談はこちらから

関連記事

ページ上部へ