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地域間人口移動と東京一極集中 第1回 ~東京一極集中の現状と要因~

地域間人口移動は我が国の地域バランスに重大な影響を及ぼしています。本レポートでは、2回に分けて、第1回では、特に人口動態の全体傾向を見たうえで、主に地域間人口移動のデータより、東京一極集中の傾向が続いていることを確認し、なぜ東京一極集中が起きているかについて、考察を行います。
第2回では、東京一極集中が不動産市場にもたらす影響について、東京圏と地方圏の双方から検討したうえで、その課題や展望について考察したいと思います。
【サマリー】
- 最近5年間で都道府県の人口増減を見ると、増加しているのは東京都と沖縄県のみで、その他の道府県は減少となっています。特に秋田県や青森県など東北地方の県の減少率が大きくなっています。
- 次に都道府県間の転入超過数を見てみると、東京圏(1都3県)、特に東京都が大きくプラスであり、大阪府と福岡県もプラスとなっています。その他の道府県はマイナスであり、地方から大都市圏、特に東京圏への集中が顕著であること、またその傾向が続いていることが分かりました。
- 東京圏への転入超過を年齢階層別にみると、20歳から24歳の若年層の流入が著しくなっています。これは東京圏への就職のための人口移動によるものと思われます。東京圏への就職のための移動理由としては、志望する業界や大企業が東京に多くあることや、相対的に良好な雇用環境が影響していると考えられます。
Ⅰ.地域間人口移動の実態
ⅰ.人口増減の傾向
図表1は2019年から2024年の5年間の都道府県別人口増減率を示したものです。この5年間で人口が増加したのは、東京都(0.6%)、沖縄県(0.1%)のみであり、その他の道府県は減少となっています。減少率が大きいのは、秋田県(7.7%減)、青森県(6.9%減)など、特に東北地方の減少率が大きくなっています。

ⅱ.都道府県間人口移動
転入超過数
図表2は2024年の都道府県別転入超過数を示したものです。転入超過となっているのは、東京圏(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県)、大阪府、福岡県のみであり、他の道府県は転出超過となっています。特に東京都の転入超過数は大きく、2024年は約7万人の転入超過となっています。

自然増減と社会増減
図表3は2023年の人口変動を自然増減(出生数―死亡数)と社会増減(転入数―転出数)に分けて示したものです。これより、自然増減数は全都道府県でマイナスとなっており、特に大都市圏や北海道で大きな減少となっています。社会増減数は東京圏(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県)、大阪府、福岡県でプラスとなっています。図表1で東京都の人口がプラスとなっていたのは、自然減を上回る社会増があったためであると考えられます。

ⅲ.大都市圏への人口集中傾向
図表4は3大都市圏の転入超過数の推移を示したものです。東京圏はコロナ禍でいったん減少したものの、一貫して大きな転入超過傾向で推移しています。大阪圏は転出超過傾向が続いていましたが、近年わずかに転入超過となっています。名古屋圏は近年は転出超過傾向が続いています。
以上より、東京圏への一極集中傾向が継続していることが見て取れます。

(注)東京圏:埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県
名古屋圏:岐阜県、愛知県、三重県
大阪圏:京都府、奈良県、大阪府、兵庫県
Ⅱ.男女別東京一極集中の動向
ここでは、東京圏にフォーカスして、転入超過数の動向を述べます。図表5は、東京圏の男女別転入超過数の推移を示しています。女性の転入超過数が男性の転入超過数を上回る傾向が続いています。この点は地方圏における若年層の男女数格差を生じさせる要因となっており、婚姻数の減少や少子化の一因になっている可能性があります。
図表6は他道府県から東京圏への年齢階層別純転出入を示しています。20歳~24歳で大きな転出超過があり、25歳~29歳でも続いて転出超過があります。これは、就職のために地方から東京圏に移り住むための大きな人口移動であると考えられます。また、15歳~19歳でも転出超過がありますが、これは東京圏への進学によるものと考えられます。他の年代はほぼ転入・転出が均衡しています。


Ⅲ.東京一極集中の背景と要因
ここでは、東京圏に一極集中する背景と要因について、データをもとに考察します。
ⅰ.移動理由
図表7は2018~2023年の5年間における現住地への移動理由を移動が多い20~29歳について見たものです。
これより、県外から現住地への移動の過半数は「職業上の理由」、つまり就職です。これが、県外(うち非大都市圏から三大都市圏)への移動の場合は、就職が6割以上となっており、「入学・進学」も約2割となっています。
つまり、20代の大都市圏への移動の理由のほとんどは就職あるいは入学・進学であるといえます。

ⅱ.地元就職をしない理由
図表8は地元就職をしない理由を大卒・院卒見込みの学生にアンケートで聞いた結果です。これで、最も多かったのは、「志望する企業がないから」という就業環境上の理由が全体の4割近くに達しています。以下、「都会の方が生活の上で便利だから」「都会の方が遊びや趣味活動の上で便利だから」「実家に住みたく(離れたい)ないから」といった生活環境上の理由が続き、また「給料が安そうだから」「大手企業がないから」と就業環境上の理由がまた来ています。
以下、これらの点について、具体的なデータを見て、検証していきます。

(注)赤線で囲まれた項目が就業環境理由、青線で囲まれた項目が生活環境理由
東京に集中する大企業
図表9は資本金10億円以上の大企業の数を都道府県別に示したものです。これより、資本金10億円以上の大企業は東京都に集中しており、東京都だけで全国の半数以上を占めています。このことが図表8で見たように、大企業志向の学生を東京圏に集める要因になっていると考えられます。

就業機会が多い東京圏
若年層の人口流出は、地域の雇用状況と密接な関係があると思われます。ここでは、雇用に関するデータを見ることで、人口流出の背景を考えます。
図表10は東京都と全国の有効求人倍率を示したものです。2013年以降では、東京都が常に全国を上回っており、この間、相対的に東京都の雇用状況が良好であったことを示しています。このことは、他の地域に比べ、相対的に東京都の就業機会が多いことを示唆しており、これが就業を求める若年層を東京圏に引き付ける要因の一つと考えられます。

若年層が好む産業が集積する東京圏
図表11は全国各地域別の産業シェアを総生産ベースで見たものです。これより、南関東(東京圏)の特徴を見てみると、製造業の比率が低く、情報通信や金融・保険、不動産などの比率が高いことが読み取れます。
製造業は、特に地方の工場などは男性の雇用比率が高く、女性の雇用機会が小さい産業です。情報通信や金融・保険、不動産は若年層に特に好まれる産業と考えられ、このような東京圏特有の産業構造が若年層を引き付けている一因と思われます。

(注)東京圏(南関東)の情報通信業、金融・保険業、不動産業を赤で囲っている。
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賃金水準の違い
図表12は若年層に絞り、賃金水準と人口移動の関係を見たものです。20代前半の相対賃金(各都道府県と全国平均の賃金比率)と、同じく20代前半の都道府県の転入超過率で散布図を描くと、男女とも正の相関が確認できます。つまり、賃金水準が高い地域(概ね大都市)に就職するために移動する傾向があることが読み取れます。これは図表8の結果とも整合します。
【図表12】賃金と人口移動の相関(2022~23年、20代前半)


Ⅳ.まとめ
本稿では、地域間人口移動がもたらす東京一極集中の現状とその要因について検討しました。その結果として、以下のことがわかりました。
まず最近5年間で都道府県の人口増減を見ると、増加しているのは東京都と沖縄県のみで、その他の道府県は減少となっています。特に秋田県や青森県など東北地方の県の減少率が大きくなっています。
次に都道府県間の転入超過数を見てみると、東京圏(1都3県)、特に東京都が大きくプラスであり、大阪府と福岡県もプラスとなっています。その他の道府県はマイナスであり、地方から大都市圏、特に東京圏への集中が顕著であること、またその傾向が続いていることが分かりました。
東京圏への転入超過を年齢階層別にみると、20歳から24歳の若年層の流入が著しくなっています。これは東京圏への就職のための人口移動によるものと思われます。東京圏への就職のための移動理由としては、志望する業界や大企業が東京に多くあることや、相対的に良好な雇用環境が影響していると考えられます。
提供:法人営業本部 リサーチ・コンサルティング部
リサーチ課 米川 誠
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