今、改めて考える「CRE戦略」(第2回)
CRE戦略の効果と企業活動への対応

国土交通省「CRE戦略を実践するためのガイドライン(以下「ガイドライン」)」について、改めて検討する三回シリーズの第二回になります。
今回は、「CRE戦略の効果と企業活動への対応」を検討します。(『』はガイドラインからの引用)


【サマリー】

●CRE戦略導入の効果としては、①企業収益に関連する事項 ②広く社会の活性化を推進するための役割の期待 のほか③企業活動全般に関わること が掲げられています。

●CRE戦略は、企業活動全般に対応するために利用されることもあり、その中では不動産分野で企業の社会的責任(CSR)を担うことも期待されています。

●複数の不動産に個々に対応するのではなく、かたまりとして考え、法人として活用する方法もあります。提携やM&Aは、ノウハウの活用や人事面等のソフト面の強みや課題にも対応します。

Ⅱ-Ⅰ.CRE戦略導入の効果と企業活動への対応

CRE戦略の効果と企業活動への対応について、ガイドラインには下記の通り記載されています。これらの項目は、企業における不動産の利用状態を確認する切り口となります。

【ガイドラインからの引用・抜粋】

『<企業にとっての効果>
(Ⅰ)企業にとっての効果
  (1)コスト削減
  (2)キャッシュ・イン・フローの増加
  (3)経営リスクの分散化・軽減・除去
  (4)顧客サービスの向上
  (5)コーポレート・ブランドの確立
  (6)資金調達力アップ
  (7)経営の柔軟性・スピードの確保

(Ⅱ)社会的な効果
  (1)土地の有効利用の促進
  (2)地域経済の再生
  (3)適正な地価の形成にも寄与』

<企業活動とCRE戦略>
  (1)企業の社会的責任(CSR)とCRE戦略
  (2)会社法制とCRE戦略
  (3)不動産市場の変化とCRE戦略
  (4)M&AとCRE戦略

CRE戦略導入の効果は、まず「(Ⅰ)企業にとっての効果」にて、主に企業収益に関連する事項があげられています。

つぎに「(Ⅱ)社会的効果」では、広く社会の活性化を推進するための不動産の役割への期待が記載されています。

そして「企業活動とCRE戦略」として、当該戦略を活用して企業活動全般に関わる諸事項に対応することが掲げられています。その中には「(1)企業の社会的責任(CSR)とCRE戦略」に見るように、企業は、企業の収益のみならず、環境対策も含めた持続的な社会とのかかわりあいを念頭におくべきものである旨も記載されています。この当時から、不動産活用における企業の社会的責任を重視する姿勢が打ち出されています。ガイドラインが最終更新されたのは2010年なので、不動産と社会との関連や社会的責任を表す用語としてSDGsやESGではなくCSRが用いられています。そのほかより広い範囲に対応すべく、会社法制や不動産市場の変化や税制のほか、M&Aや中小企業を対象としたCRE戦略など様々な分野が取り上げられています。

Ⅱ-Ⅱ.改めて考えたいポイントについて

本章では、CRE戦略導入の効果と企業活動への対応に関連して、重要または実務上見落としがちなポイントについてご説明します。

1.法人を活用したCRE戦略の事例

ⅰ.意義

CRE戦略では、不動産を単体ではなくかたまりとして考えて法人を活用する手法も考えられます。そのメリットとしては、総額としての規模を活かすこと、従業員の諸課題に手当できること、不動産に関連する様々なノウハウを活用することができる等があげられます。不動産分野の企業の提携やM&A・分社化等があげられ、不動産をモノとしてのみ活用するだけでは難しい、ソフト面のメリットや課題に対応することもできることとなります。

ⅱ.事業法人が進めた事例

(Ⅰ)郵船不動産

2021年に、日本郵船が持つ郵船不動産の株式の51%を日本郵政不動産に譲渡することが決定されています。双方の不動産の有効活用を進めていくとのことです。

日本郵船は「保有不動産の有効活用」を中期経営計画の施策の一つとしており、子会社である郵船不動産の早期の事業成長は最優先課題でした。同じく中期経営計画において、不動産事業を収益の柱の一つとして掲げる日本郵政グループの不動産事業推進会社である日本郵政不動産は、郵船不動産の持つ物件及び管理・運営ノウハウを高く評価しており、JV形式で事業を行うことが最善と判断したとのことです。

(Ⅱ)神鋼不動産

2018年神戸製鋼の子会社である神鋼不動産は、東京センチュリー及び日本土地建物との間で提携関係を構築し、同社の株式の75%は両社に譲渡されました。神鋼不動産は、当時の純資産額で約500億円を有する企業です。神戸製鋼は、本業に更に注力する中で、さらなる不動産事業の発展を念頭に置いていました。東京センチュリーは得意とする不動産事業の展開を勘案して、そして日本土地建物は法人不動産アドバイザリー業務に力を入れており、当該戦略的提携関係を締結しました。

(Ⅲ)当社グループ事例

(1)東芝不動産

2008年当社グループは、東芝より、東芝不動産(現「野村不動産ビルディング」 2020年までに全株式の譲渡を受ける)65%の株式の譲渡を受けました。東芝は当時「選択と集中」を掲げ、資産の整理を進めていました。現在、東芝不動産の株式は当社グループが100%保有していますが、当時は、東芝の本社や営業所を持つ東芝不動産の株式を、同社が一定割合保有し権限を確保、事業の支障にならないよう一定の権限が残る仕組みにしています。

(2)三越不動産

2014年には三越伊勢丹ホールディングス(以下「三越伊勢丹HD」)より三越不動産(現「三越伊勢丹不動産」)の5%の株式の譲渡を受けました。三越伊勢丹HDは生活における衣食住の「住」分野の強化をねらい、住宅事業のパートナーを探していました。当社側は、三越不動産の持つ開発物件やその後所有する賃貸住宅の物件紹介に関する、事業機会が確保できました。また両社の本業での協業をも念頭に置いており、その後、三越伊勢丹HDと当社グループとはフィリピンにて共同事業のパートナーにもなっています。なお三越伊勢丹不動産は2020年にブラックストーングループに譲渡されています。

(Ⅳ)REITの活用

星野リゾートやイオンは、同社が運営するホテルや商業施設といった自社所有不動産の流動化のために投資法人をREITに上場させています。また、SGホールディングスやセンコーは自社の本業の展開のため、また関西電力や両備ホールディングスが不動産事業拡大のため、私募REITを活用しています。

さきがけは2004年に日本たばこ産業がREITに上場させたフロンティア不動産投資法人です。自社工場跡地に商業施設を開発した物件をパイプラインとしていました。現在運営会社は三井不動産グループとなっています。

2.大企業と中小企業で異なる不動産に対する考え方

 大企業と中小企業では、企業規模が異なることから、不動産の重要性も異なります。

中小企業では不動産の活用が経営の根幹をなすことも少なくありません。また事業承継にあたっては親族間の調整のため、不動産を利用することも検討されることでしょう。特に、会社株式がオーナー資産の多くの割合を占める場合、事業承継者以外の他の相続人にも公平な相続財産を分配するために企業不動産のオーナーシップの調整を行うことも考えられます。その場合には利用とオーナーシップの長期的なバランスを整えるため、不動産を所有する法人を活用する等税務・資産承継上有効な手法も採用して進めていくことも考えられます。

提供:法人営業本部 リサーチ・コンサルティング部

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