【Special Report】企業不動産活用が日本経済成長を後押し

日経リアルエステートサミット2025 イベントReport

企業不動産活用が日本経済成長を後押し


デフレ脱却がいわれる中で、日本経済には持続的な成長の実現が求められている。そのために重要な役割を果たすのが、企業が保有する不動産を経営に最大限活用していくCRE(コーポレート・リアルエステート)戦略だ。企業不動産戦略セッションでは慶応義塾大学の岸博幸氏と野村不動産ソリューションズの原田真冶氏が講演した。

Special Speech 生産性向上に向けて 保有不動産を活用

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慶応義塾大学大学院
メディアデザイン研究科 教授
岸 博幸氏

混迷する経済・社会のこれから
~日本が向かうべき道とは~

働く人たちへの投資が重要

経済に対して、健全な危機感を持つことが大切だ。デフレと低成長が30年以上続いてきた中で、コロナ禍を契機とした物価上昇でデフレが終わったといわれる。しかし、30年に及ぶ影響は非常に深刻で、日本経済は今がどん底だ。マクロ経済から、地域経済、企業、働く人まですべてにわたって生産性は低下し、労働生産性は経済協力開発機構(OECD)諸国中29位、スイスのビジネススクール・国際経営開発研究所(IMD)の「世界競争力ランキング2024」では38位である。

だからといって、悲観的に考える必要はない。今がどん底だということは、あとは上がるしかない。生産性はインプット分のアウトプットの単純な分数なので、改善するには分子のアウトプットを大きくしていくことだ。そのためには様々な単位でイノベーションを生み出すことであり、その源泉は働く個々人のクリエーティブなアイデアだ。そこで重要になるのが働く人たちへの企業の投資だ。

CRE戦略で生産性向上

企業の内部留保は日本の国内総生産(GDP)と同じ600兆円、企業が保有する不動産も合わせ、これらを有効活用して、必要な投資や賃上げを行っていく。そこで社員がクリエーティブなアイデアを出せるようにするにはオフィスのつくり方がカギを握る。デジタルをフル活用して色々な情報を集めた上で、ネットが完全に遮断された環境でアイデアを生み出す。そのためには、不動産関連のプロの力も借りて、不動産の効果的な活用で企業価値を向上させるCRE戦略が重要な役割を果たす。加えて、環境問題への対応に代表される社会的な要請からもCRE戦略が重要になる。

混迷する経済・社会の中で、企業が保有する不動産を活用してイノベーションを生み出していくことが日本の生産性を向上させる大きな力になる。

Corporate Speech カギは脱・自前主義と 人的資本経営、GXの視点

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野村不動産ソリューションズ
常務執行役員
原田 真治氏

変革期における企業不動産の新潮流
~「攻め」のCRE戦略への処方箋~

基準は利用価値と収益性

企業がCRE戦略を立てるにあたって、根底にある社会構造変化と企業を取り巻く環境変化を背景に、現在が大きな変革期にあることを認識することが大切だ。社会構造の変化では「加速する人口減少」と「気候変動による環境問題」、企業を取り巻く環境の変化では「アクティビストの台頭」、2027年4月から義務化される「新・リース会計」、止まらない「建築費の高騰」が挙げられる。

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このような変革期に求められる「攻め」のCRE戦略には3つの処方箋がある。1つ目が『脱・自前主義』だ。日本企業の不動産所有割合は欧米企業に比べて高く、約523兆円にもなる。これらに関して、「自前で所有したり、投資することがベストな選択肢なのか?」「外部サービスの活用と比べるとどうなのか?」という問いが浮かぶ。不動産の利用価値と、そこから生まれる収益性が問われており、“当たり前”にとらわれず、再検討していくことが重要だ。

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非財務情報の充実に寄与

2つ目が『人的資本経営の視点』だ。人手不足の中で、優秀な人材確保のためにはウェルビーイングな“場”の提供が重要になる。ある調査によれば、オフィスの変更を実施・検討している成長企業の約半数は「魅力的なオフィス環境」や「コミュニケーション空間やリフレッシュスペースの充実」など、生産性向上に役立つことをその理由に挙げている。一人で集中する場、リモート会議用の場、コミュニケーションしながら創造的なアイデアや連携を生み出す場など、様々な「場」の提供による職場環境の整備が求められる。研究施設では、近年増えている都市型ラボビルもその一例だ。さらに柔軟で機動的な「場」の提供も重要になる。人工知能(AI)活用による働き方の変化に機動的に対応できる家具付きのセットアップオフィスは1つの選択肢だ。また寮や社宅も働く人の価値観の多様化に対応して、ワンルーム、シェアハウスなどの柔軟な選択肢も求められる。

3つ目が『積極的なGX視点』だ。環境配慮への取り組みは企業を評価する重要なポイントになっている。建物関連の二酸化炭素(CO2)排出には使用段階のオペレーションカーボンと、解体・新築段階のエンボディドカーボンがある。日本でも24年11月省庁横断で「建築物のライフサイクルカーボン削減」の取り組みが始まり、今後、企業の建物解体や新築時の判断(あるいは、建築物建て替え時の判断)に影響してくる可能性がある。バブル期以前の多くのビルが老朽化する一方で、環境認証を受けた高機能ビルが増えている。環境配慮型ビルへの入居は環境への取り組みを示す強いメッセージになる。その上で建物を建設する際には再生可能エネルギーの積極活用と、エンボディドカーボン視点での検討が重要だ。昨年は、非財務情報に効果的な「4つの企業成長ホルモン」を挙げた。さらに、今回掲げた「3つの処方箋」を実践する事で、体に例えると、企業は「体脂肪」を燃焼し、「内臓・血管」という基幹部分にも作用し、持続的に強靱(きょうじん)な体質をつくり上げる事ができるといえる。

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企業が、低利用、非効率な資産を見直し、必要な成長投資や施策に振り向けることは、短期的な財務の改善だけでなく、非財務情報の改善に作用する事を意味し、持続的な企業価値向上につながっていくことになる。

イノベーションで省人化

最後に日本の都市・建築のこれからについて考えると、最大の問題は建築費高騰と成熟社会への対応だ。コンクリート構造物の工法は100年前からほぼ変わっていないが、建設DXによる「省人化」「工期短縮」で建築費がコストダウンできる可能性がある。また建築基準法と都市計画法は戦後復興と高度経済成長が前提で、現在の人口減少、循環型社会には合わない内容もある。そのため、「省人化を生み出すイノベーション」と、「スクラップ&ビルドの新築至上主義からの脱却」に向け、現状に合った制度設計も必要ではないか。海外のように、リノベ、コンバージョンに目を向け、官民一体で取り組む時期に来ているのだ。成熟化が進む日本社会の中で、企業は社内に分散するCRE情報を一元化、分析し、先手を打つ戦略への転換期に来ているのではないだろうか。

※本記事は2025年3月13日(木)付 日本経済新聞朝刊掲載 広告特集を再構成したものです

NIKKEI Real Estate Summit 2025

主催:日本経済新聞社
協賛:野村不動産ソリューションズ株式会社 法人営業本部

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