実際の取引事例における路線価倍率(2023年)~オフィス編~

不動産の売買価格の検討・査定において、相続税路線価は一つの基準として参考にされることが多くあります。一般的に、相続税路線価は地価公示・都道府県地価調査の8掛け水準と言われるためですが、もちろん「地価公示・都道府県地価調査=時価」ではなく、また常に「地価公示・都道府県地価調査×0.8=相続税路線価」でもありません。2023年3月に発行したレポートに続き、2023年のREITの取引事例を追加して、前面相続税路線価に対する実際の取引価格の倍率(以下、「路線価倍率」)を調査しました。


【サマリー】

  • 路線価倍率の調査方法は次の通り。
    • ① REITの取引事例より、各物件の売買価格、土地比率を抽出する。
    • ② 取引価格に土地比率を乗じ、土地価格を算出する。
    • ③ ②を土地面積で割り、土地単価を算出する。
    • ④ ③を取引年の相続税路線価で除し、路線価倍率を算出する。
  • 東京の路線価格帯別の路線価倍率は、以下の通りとなった。
エリア 路線価 路線価倍率
東京 3,000千円/㎡以上 概ね2倍
1,000~3,000千円/㎡ 概ね3倍
500~1,000千円/㎡ 3倍強

Ⅰ.調査方法

本調査は、前回と同様にREITのプレスリリースを用いて行いました。具体的な手順は以下の通りです。

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  • ① REITの取引事例(プレスリリース「資産の取得に関するお知らせ」など)より、各物件の取引価格、土地比率を抽出する。
  • ② 取引価格に土地比率を乗じ、土地価格を算出する。
  • ③ ②を土地面積で除し、土地単価を算出する。
  • ④ ③を取引年の相続税路線価(以下、「路線価))で除し、路線価倍率を算出する。

(例)野村不動産東日本橋ビルの場合

  • 譲渡価格45.2億円、土地比率86.0%、地積918.56㎡、路線価1,640千円/㎡
  • ⇒ 土地価格=45.2億円×86.0%=38億8,720万円
  • ⇒ 土地単価(㎡)=38億8,720万円÷918.56㎡≒4,231,841円/㎡
  • ⇒ 路線価倍率=4,231,841円/㎡÷1,640,000円/㎡≒ 2.58倍

II.路線価倍率の検討

はじめに、東京、仙台、名古屋、大阪、福岡の5都市における2019年~2023年のREIT取引事例について、路線価倍率を算出します(末尾「集計データ」参照、今回仙台は検討条件に該当する取引なし)。この集計データをもとに、路線価倍率の中央値の推移を、都市別かつ路線価格帯別に集計しました。

<東京>カッコ内は取引事例数、以下同じ
路線価 2019年 2020年 2021年 2022年 2023年
3,000千円/㎡~ 1.32(5) 2.02(7) 2.06(10) 2.16(4) 1.71(5)
1,000~3,000千円/㎡ 3.03(18) 2.63(15) 3.17(16) 3.34(15) 2.99(10)
500~1,000千円/㎡ 5.76(4) 3.25(5) 4.43(6) 2.82(5) 4.43(4)
~500千円/㎡ 4.43(1) 3.44(1) 3.13(1) 3.66(2)
<仙台>
路線価 2019年 2020年 2021年 2022年 2023年
3,000千円/㎡~
1,000~3,000千円/㎡ 1.97(1) 1.43(1)
500~1,000千円/㎡ 2.73(1) 2.31(1)
~500千円/㎡

<名古屋>
路線価 2019年 2020年 2021年 2022年 2023年
3,000千円/㎡~ 1.49(1) 0.96(1)
1,000~3,000千円/㎡ 3.02(1) 1.77(2) 1.91(4)
500~1,000千円/㎡ 2.28(1) 2.56(1)
~500千円/㎡
<大阪>
路線価 2019年 2020年 2021年 2022年 2023年
3,000千円/㎡~ 1.22(1) 1.61(1)
1,000~3,000千円/㎡ 2.03(3) 2.57(1) 2.13(4) 3.23(3)
500~1,000千円/㎡ 3.52(1) 3.22(2) 2.72(1)
~500千円/㎡ 5.88(1)
<福岡>
路線価 2019年 2020年 2021年 2022年 2023年
3,000千円/㎡~ 0.69(1)
1,000~3,000千円/㎡ 2.41(1) 1.67(1) 1.59(3)
500~1,000千円/㎡ 3.12(1) 2.56(2) 3.53(1) 2.51(1)
~500千円/㎡ 4.32(1)

事例がない若しくは極端に少ない都市の路線価格帯については傾向を分析することが難しいため、今回は、東京の3,000千円/㎡以上、1,000~3,000千円/㎡、500~1,000千円/㎡の価格帯について、過年度数値等も踏まえた直近の路線価倍率を分析しました。

まず、東京の3,000千円/㎡以上については、2020・2021・2022年が2倍台、2019・2023年が1倍台となっています。2019・2023年においては、周辺の公示地よりも低い価格で取引されたとみられる事例(東京サンケイビル、大手町ファーストスクエア、末尾集計データ参照)があり、これらを除くと2019年は1.78倍、2023年は2.13倍となります。
よって、東京の3,000千円/㎡以上のエリアの路線価倍率は概ね2倍と言えそうです。

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次に、東京の1,000~3,000千円/㎡についてみると、3倍が中心と読み取れます。2019年から2020年にかけては、Ⅰ章の調査方法で計算された土地単価が下落した一方、路線価は2019年から2020年にかけて上昇し、路線価が高止まりしていました。また2022年は、路線価倍率が極端に高い特殊事情が想定される事例を除くと、路線価倍率の中央値は3.16倍となります1。以上を踏まえ、東京の1,000~3,000千円/㎡エリアの路線価倍率は概ね3倍と判定しました。

次に、東京の500~1,000千円/㎡エリアについて路線価倍率の推移をみると、他の価格帯と比べ年によってばらつきが大きいことがわかりました。この価格帯は大通り背後の物件の事例も多く含まれています。大通り背後の物件は、前面路線価水準は低いものの、賃料水準は大通り沿いとさほど変わらないため、路線価倍率が高くなりやすい傾向があります。そこで大通り背後の物件について、大通りの路線価をもとに路線価倍率をみてみると、2019年は3.4倍、2020年は3.12倍、2021年3.31倍、2022年は2.82倍、2023年は3.41倍という結果になりました。
以上の推移等も踏まえると、東京の500~1,000千円/㎡エリアの路線価倍率は3倍強と言えそうです。

※集計データ(共有持分や詳細が不明な物件等は原則として集計から除外。)

●2023年
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1詳細は、当部2023年3月発行「実際の取引事例における路線価倍率(2022年)~オフィス編~」参照。

提供:法人営業本部 リサーチ・コンサルティング部

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