特定複合観光施設(IR)の状況について(第1回)
日本のIRの概要について

先の横浜市長選挙ではIRの誘致が大きな争点となりました。土地建物への大きな投資が必要なIRは不動産業界にとっても注目を集める施設です。本レポートでは3回に分けて、IRの論点も取り上げながら、施設がもたらす今後の影響を検討したいと思います。


【サマリー】

●「特定複合観光施設」(IR)は、カジノ施設と国際会議場施設、展?施設等による複合施設です。

●和歌山県の施設規模であっても、国・地方・運営者に各々300億円の収入があるとされています。

●カジノの収入が全体の70%以上をしめ、それなしには施設は成り立ちません。

●当初3か所とされる候補地は、大阪市・長崎県・和歌山県です。当初有力候補であった横浜市は誘致しません。

Ⅰ-Ⅰ.日本版IRの特徴

1.IRの定義
「特定複合観光施設」は、カジノ施設と①国際会議場施設、②展?施設等、③我が国の伝統、?化、芸術等を?かした公演等による観光の魅?増進施設、④送客機能施設、⑤宿泊施設から構成される?群の施設(⑥その他観光客の来訪・滞在の促進に寄与する施設を含む)であって、?間事業者により?体として設置・運営されるものとされています。

2.日本版IRの特徴
i.法で定められた内容

ii.想定されている収支
同等の施設規模※1を想定する、国と和歌山県の収支のシミュレーションからIRの収益構造について検討します(図表Ⅰ-1)。

約460千m2規模のIRにおいては、国の収入が350億円超、地方自治体が事業者の税引き後利益と同等の約300億円(内GGR納付金約220億円 いずれも2,100億円の収入がある場合)となっています。またカジノの粗利は全体収入の76%を占め、カジノなくしてはIR全体の営業費用が賄うことができないと算定されています。

カジノの入場者における日本人の比率は、約68%(内訳:36%が日帰り客、32%が宿泊客)とされています。カジノの収益の元となる賭け金は4,000億円~5,000億円と想定されています※2。この規模は国内でも小さ目の規模※3と考えられますので、日本人の3か所での総賭け金は1兆5000億~2兆円ほどになりそうです。

5,000億円×68%×3か所×規模補正≒1.5~2兆円
パチンコ業界の市場規模は約20兆円です。話題となることにより遊戯市場の拡大も期待される一方、IRがシェアを奪うことがあると、他の公営競技(競馬・競輪等)やパチンコ市場に影響が発生する可能性もあります。

※1:国は「大胆な想定をおいた上」でのシミュレーション(以下「国シミュレーション」)としてGGR納付金約220億円を想定し、和歌山県は、同じくGGRの納付金を210億円と設定しています。GGRの納付金が近しいことから両者は同等の規模の施設と想定することとしました。
※2:1-(GGR(:1,400)/4,000~5,000億円)=65~72%
※3:横浜市はMICE施設(会議場・展示場等)だけで670千m2~1,500千m2と想定

Ⅰ-Ⅱ.日本での候補地

1.大阪市
公簿により、MGMリゾーツ・インターナショナルとオリックスの共同グループが事業者となる方向です。場所はIRとのセットを掲げて誘致した、2025年の万博と同じ「夢洲(ゆめしま)」で100ヘクタール以上の規模です。施設の段階整備を可能としており、部分開業を2020年代後半としておりますが、全面開業の時期は明示されていません。

世論調査ではIR反対の声が半数を超え、現在のところ市民の反対の声は大きいようです。

2.長崎県
オーストリアの国営企業関連のグループ「カジノオーストリアインターナショナルジャパン」(CAIJ)を選定する方針が発表されています。競合先からはその選定について抗議の声もあるようです。

場所はハウステンボスの隣地の31ヘクタールの場所になります。

世論は当初賛成派が優勢でしたが、長崎県弁護士会が反対を表明、また調査によっては反対派が優勢になるなど、揺れ動いている状況といえます。

3.和歌山県
カナダの「クレアベストグループ」が運営会社として選定されています。

場所は和歌山マリーナシティとされており、規模は前章に記載の通り、施設の延床で45.7万m2です。

4.横浜市
有力な候補地でしたが、IR反対派の市長が当選したため、立候補する可能性は低くなっています。施設は1兆円規模と想定されていたので、和歌山県の3~4倍の投資額になっていた可能性があります。

次期横浜市長である山中竹春氏のHPによると、IRのかわりに「ハーバーリゾート構想」(国際展示場、滞在型ホテル、コンサート会場、エンタメ施設、給食センター、ワクチンなど医療品配給センター、水素エネルギーセンター、新物流拠点等)を実現させるとのことです。稼ぎ頭のカジノがない状況で、採算性が低い用途の建築物をどのように成立させるのか今後に注目したいと考えます。

提供:法人営業本部 リサーチ・コンサルティング部

企業不動産に関するお悩み・ご相談はこちらから

関連記事

ページ上部へ