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特定複合観光施設(IR)の状況について(第2回)
横浜市と大阪市の財政状態と検討の比較について
特定複合観光施設(IR)について、本レポートではIRの候補であった政令指定都市の横浜市と大阪市の財政状況を踏まえ、その比較を行います。
【サマリー】
●横浜市と大阪市の財政状況を見ると、将来収支に不安を残しますが、水準としては横浜市がより逼迫する可能性が高くなっています。
●横浜市はIRではなく、産業誘致で財政対策を進めると思われます。大阪市には近畿・日本の代表として経済の活性化を担う役目が求められます。
Ⅱ-Ⅰ.横浜市と大阪市の財政状況等の比較
IRの目的はなんといっても国や自治体への収入増と経済効果です。IRの可否はそれを検討する自治体の財政に大きく関わります。ここでは例として、政令指定都市で誘致を目指したが、中止と継続と判断が分かれた横浜市と大阪市の財政状況等を取り上げて状況を検討します。
人口は横浜市が大阪市の約1.4倍の約380万人に過ぎないのですが、個人市民税は大阪の倍額となっています。市民税の差を、生活保護を受けている人数で検討すると、大阪市は横浜市の倍の人数となっています。
一方で大阪市は、横浜市の倍の法人住民税収を得ています。上場企業数は数で3倍、人口あたりに換算すると4.4倍もの差があります。
一人あたりの市債残高は、横浜市の方がやや少ない状況です。税収の切り口からは、大阪は生活保護の需給状況の改善、横浜は企業の育成・誘致が課題であることが見えてきます。
双方とも(コロナの影響を除外すると)、単年度では概ね均衡予算となっています。しかしながら将来の収支の見込みは大きく異なります。横浜市は、2030年に年間757億円(現在の税収の9.0%)、2065年には年間2160億円(同25.6%)の収支不足になると想定されています。一方、大阪市は2030年に年間198億円(同2.7%)の収支不足程度です。横浜市は、大阪市に大きく水を空けられると想定されています。
Ⅱ-Ⅱ.IR施設に対する姿勢
1.大阪市
近年、大阪の生活保護は、改善傾向にあり、課題感は減少しています。しかし決して楽観視できる状況にはありません。また、近畿の政令指定都市はいずれも人口の減少が予想されています(図表II-2)。多くの産業が集積する大阪市は近畿、そして日本の中心として人を集め、経済の活性化をさせる必要があります。市としては、IRはその方策として重要と考え推進していると考えます。
2.横浜市
i.IR施設誘致の取り下げ
前述のとおり、選挙でIR反対派の市長が選出され、立候補をする可能性は低くなっています。
想定される規模から、IRから得られる市の収入は、1,000億円規模となった可能性があります。また民間の資金で運営されるのが前提であるため、補助金等の市の経済的負担も重いものではなかったと思われます。
一方で横浜市は名所となる観光地を有していますが、実はその範囲は広くありません。観光客を受け入れるキャパシティが少なく、IRが地元経済に大きな波及効果が得られないという意見もあったとのことです。
他の自治体と違い、山下ふ頭という代替用途がある地域を候補地としていました。地域で既に事業を営んでいる方々にしてみれば、IRができあがっても、市の収入は増加しても、横浜市内の民間事業者の収益は限定的となることが予測され、本意ではないと考えた可能性もあります。
しかもIRは住宅地としての横浜市のブランドを棄損する可能性があると考えたとも思われます。横浜市といえども将来的な人口の減少を想定しています(図表II-2)。将来的には首都圏での人の奪い合いの様相を呈する可能性もあります。
IRによる治安の悪化があったとすれば、比較的良好なイメージのある「横浜」のブランドを傷つけ、相対的な地位の低下につながると考えても不思議ではありません。
ii.横浜市の選択
将来的には巨額の収支不足が見込まれる中、横浜市は新産業育成により財政の健全化を目指しています。企業の育成・誘致のためにはオフィスや工場の建築も必要でしょうし、オフィスは東京のハイグレードビルとの競合となります。企業にますます魅力的な誘致環境を整えることが求められます。
このほか公営施設の民間活用も公約にあげられていますが、このように住民サービスも若干低下させながら、住環境の悪化を避け、産業を育成し大きな税収が期待できるまで待つ戦略を横浜市は選択したことになります。
企業が期待される納税規模や雇用の確保に至るまで時間が必要です。補助金・助成金等もそれなりの規模で必要になるでしょう。IR誘致が必ずしも横浜市を成功に導くものではないにせよ、財政面からだけ見れば、時間がかかり負担も大きくなる方策を横浜市は選択したことになります。半面、当該産業が成功した折には、まだ想定しえない規模の雇用や税収効果、街としてのブランディングが得られる可能性もあります。
一定の税収上の停滞期に耐え、実をむすぶ時を待つ姿勢が市民には求められるものと考えます。結果的にIRによる治安の悪化(の可能性)を防いだことが、首都圏で選ばれ続ける都市となる要因となる可能性もあると思います。新産業育成で、将来の税収減を補うのは、豊富な人材と受容を持つ横浜市のポテンシャルが成せることだと考えます。
一度IRの採算がとれそうだと考えた税収不足の地方自治体の為政者にとっては、横浜市のように、そこから得られる税収等に代わる財源を見つけるのは相当に困難であろうことが予想されます。
提供:法人営業本部 リサーチ・コンサルティング部
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