大化の改新以降、現在の「里見公園」に「下総国国府」が置かれるなど千葉県北部一帯の中心地として機能していました。市川市の北部に広がる国府台は「下総国国府」があったことに由来する地名です。

また、万葉集には今の「国府台」駅近くに広がる真間に手児奈という絶世の美女がいたと詠まれ、真間川に架かる「真間の継ぎ橋」も奈良時代から鎌倉時代にかけて多くの歌に詠まれていたといわれています。このように、現在の市川市周辺は都にも広く知られる場所でした。

明治以降、国府台には陸軍教導団や「陸軍教導団病院」が設けられ、周辺一帯は軍隊の街として発展を遂げました。終戦後は、これら陸軍用地は「東京医科歯科大学国府台キャンパス」や「千葉商科大学市川キャンパス」、「和洋女子大学国府台キャンパス」など大学のキャンパスになり、文教の街として生まれ変わりました。「陸軍教導団病院」も現在の「国立国際医療センター　国府台病院」となっています。

市川市内には長い歴史を持つ神社仏閣が点在しています。「国府台」駅の北東にある「亀井院」の「真間の井」は手児奈が水をくんだという伝説があり、「手児奈霊神堂」には自分を求めて多くの男たちが争ったことを悲しんだ手児奈が身を投げた入り江の跡とされる池が残ります。

また、「本八幡」駅の北西に鎮座する「葛飾八幡宮」も平安時代建立と伝えられる歴史を誇り、境内に樹齢1200年と推定されるイチョウの木が残ります。古くは下総国総鎮守として篤い信仰を集め、現在も初詣など季節の行事には多くの人々が集まります。「葛飾八幡宮」の南、千葉街道沿いは「八幡の藪知らず」という森があります。この森は、現在の広さこそ約300坪ですが、近世以前はもっと広かったとされ、一度は行ったら二度と出られない森とされていました。

「国府台」駅の北側、江戸川沿いに建つ「弘法寺」も長い歴史を誇ります。この寺は奈良時代に行基が手児奈の伝説を聞き、霊を弔うために「求法寺」を建てたことがはじまりとされています。平安時代に弘法大師がこの寺に立ち寄り、七堂伽藍を建て「弘法寺」と名を改めました。

1894（明治27）年に総武鉄道（現・JR総武線）「市川」駅が開業し、1914（大正3）年には京成電気軌道（現・京成本線）の「江戸川」駅から「市川新田（現・市川真間）」駅の間も開通し、今の市川市は交通の利便性が向上しました。市川真間や八幡は東京都内の富裕層に別荘地として人気を集め、黒松が彩る街並みは、その後高級住宅地として知られるようになりました。

明治から大正期の官僚・政治家である木内重四郎もこの地に居を構えたひとりです。彼の住居は一度取り壊されたものの、現在は洋館部分が「木内ギャラリー」として復元され、内部を見学できます。

また、市川は永井荷風、幸田露伴、水木洋子など多くの文人が暮らした街でもあります。2004（平成16）年には「水木洋子邸」の公開がはじまり、2013（平成25）年7月には市川市ゆかりの作家の作品などを展示した「市川市文学ミュージアム」もオープンするなど、彼らの足跡をたどることもできるようになりました。古くから地域の中心地として栄え、伝統や文化が育まれた市川市。この街では長い歴史が醸し出す趣に彩られています。