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特集 21年地価動向(5)・東京・大阪圏の物流不動産

2021年10月01日

物流不動産市場の勢いが落ちない。昨年来のコロナ禍で輸出入の動きは鈍ったが、年率10%前後で成長するEコマース(EC)や3PLなどが牽引役となり、東京・大阪など大都市圏を中心に着工床面積が増えている。都市圏で高速道路網の整備が進み、未利用だった内陸の田畑や山林なども開発適地に変わっている。

デベロッパーや施設利用者らの目線が広がり、郊外工業地の地価も上昇基調だ。9月に入り物流の投資市場も復調し、Jリートなどが買いの姿勢を強めている。

物流市場が過熱する背景にはECの急成長がある。特にBtoC部門が良く、経済産業省の調べではECにおける同部門の規模は13年から20年にかけて1.7倍になった。首都圏ではこの10年に横浜区間を除く圏央道と外環道、大阪圏では新名神や第二京阪などが開通し、サプライチェーンの合理化を急ぐ物流事業者らが拠点の統合・分散に乗り出す好機になった。

「首都圏の物流不動産は数年前から供給過剰だと言われてきたが、需要が強く賃料は今も上がっている」-。ジョーンズラングラサール(JLL)の谷口学チーフアナリストはそう指摘する。同社がまとめた今年第2四半期(2Q、4~6月)の需給調査結果では、東京圏の賃貸物流施設の空室率は前期比0.1ポイント減の0.9%と19年から1%を下回り続け、平均賃料も前期比0.2%増の4403円と高位を保つ。

一五不動産情報サービスの調査では5~7月に東京圏の空室率は前期(2~4月)比0.8ポイント増の1.3%と上昇し、「コロナ禍の特需が一巡した」(同社)雰囲気もあるが、募集賃料は4400円台と下がってはいない。首都圏では22、23年と大量の床が市場に出回る予定だが、来年の分もすでに6割程度が内定した模様で、当面は強い需要が続きそうだ。

JLLの調べでは首都圏の施設ストックは10年時点で湾岸が179万m2、内陸が140万m2だったが、21年2Qには湾岸510万m2に対し内陸1014万m2と逆転した。エリア別の賃料は7月時点で都内湾岸が約7400円と突出して高く、内陸の圏央道付近は3700円と同じ首都圏でも2倍近い差がある。

今年1~3月に竣工した施設の立地は千葉の流山や八千代、船橋、埼玉の桶川、上尾、東京の青梅、神奈川の茅ヶ崎、相模原などと多様だが内陸での開発が目立つ。千葉の四街道や埼玉の嵐山にマルチテナント型施設(LMT)を建てる計画もある。プロロジス日本法人の山田御酒社長兼CEOは「EC化で消費地に近い内陸の施設が人気で、作るとすぐ埋まる」と話す。

千葉・流山に9月中旬、日本GLPの大型物流団地「アルファリンク」の一部が竣工した。そこを借りた物流事業の山九は当初、湾岸地域で物件を探したが、賃料や使い勝手などを勘案し最終的に流山に決めたという。

GLPの帖佐義之社長は「インフラが整って車や人の流れが変わり、物流適地の考え方も変化した」と分析し、「物流の拠点戦略は商流によって常に変わる。しかも正解は一つではない」と強調する。

首都圏ほど多くはないが大阪圏でも複数の開発計画が動く。GLPは大阪府茨木市にアルファリンク、プロロジスは兵庫県猪名川町に大型のLMTを作る。センターポイント・ディべロップメントや東急不動産、東京建物、大和ハウス工業らも物流施設の建設に乗り出している。他の大都市と同様、大阪圏でも開発エリアが外縁に広がる傾向があり、新名神などの延伸に伴い京都や奈良、滋賀など府外に複数の開発計画が浮上している。

CBREの高橋加寿子シニアディレクターは「新名神ができて山間部も開発適地になった。新名神と名神が合流する琵琶湖の南部が交通の要衝となり、これから施設の開発が増えそうだ」と予想する。

CBREによると2Qにおける大阪圏のLMTの空室率は前期比0.2ポイント減の1.7%と、この6年で最低値になった。実質賃料も0.7%増の4050円と高い。高橋氏は「来年は近畿で施設の供給が減るので首都圏よりも需給がタイトになる」と展望する。

物流施設の売買市場にも活気が戻ってきた。好況を下支えするのはJリートや外資系ファンドらだ。CBREが集計した2Qの国内投資市場動向によると、物流施設への投資額は1330億円とオフィス(1630億円)に次ぐ規模になった。東京圏の物流施設の売買利回りは約3.5%と今やオフィスと肩を並べる。

JLLの谷口氏は「工業地の地価が上昇しているが、利回りの低下と賃料上昇で施設の売買価格も上がっている。このため不動産各社も開発に前向きだ」と現状を読む。物流不動産市場が熱を帯びるなか、慎重な見方もある。GLPの帖佐社長は「価格高騰の先には下落がある。金利政策の転換が物流に限らず不動産市場全体に大きな影響を及ぼす」としている。

物流施設の空室率は5%前後が需給均衡の分かれ目との見方があるが、現時点では首都圏と大阪圏はその水準を大きく下回る。物流不動産市場では当面、旺盛な需給環境が続く見通しだ。

ただ右肩上がりだったEC化率は近い将来に頭打ちになることが予想され、金利上昇で潮目が変わる可能性もある。いつまでも活況が続く保証はなく、選ばれる施設とそうでない施設の優勝劣敗が進む。物流に関わる事業者には経済情勢と商流を的確に読む目がますます求められる。

(提供:日刊不動産経済通信)

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