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物流不動産市場のいま(1)

2021年10月26日

この数年、物流不動産市場が活況だ。東京・大阪両圏では施設の需給ひっ迫が続き、幹線道路の延伸に伴い開発エリアも広がっている。アナリストとデベロッパーのトップのJLLチーフアナリスト・谷口 学氏に市況感を聞いた。全4回で掲載する。

―物流不動産市場の勢いが落ちない。

谷口氏 特にこの10年ほど成長が続いてきたが、コロナ禍で商流が変わった。電子商取引(EC)大手のアマゾンや楽天ら以外の多様な事業者が市場に参入し、EC化率が一気に上がった。ゴールドマン・サックス証券やCBRE、PAGら外資も国内で物流施設の開発を始めた。新規参入組は中・小型の施設を作り始め、段階的に開発規模を大型化する戦略のようだ。

―幹線道路の整備が進み開発場所も広がってきた。

谷口氏 東京圏では外環道や圏央道の一部区間、大阪圏では新名神など道路網が整い、沿線の田畑や未利用地などに開発が波及している。市街化調整区域での建設事例も増えた。東京圏では千葉の四街道や埼玉の嵐山、加須などといった新たなエリアにもマルチテナント型施設(LMT)が建てられている。

―施設の需給がピーク・アウトしそうでしない。

谷口氏 東京圏では4、5年前から供給過剰だと指摘されてきたが、実際には相変わらず需要が強く賃料はまだ上がっている。湾岸から内陸へと開発範囲が広がっていて、圏央道や16号沿いなども賃料が上がっている。6月末時点で首都圏の空室率は0.9%と1%を切る非常に低い水準で、平均賃料は4400円となお上昇基調だ。牽引役はECであり勢いが落ちない。

―ECの普及で物流施設の機能と立地も変わった。

谷口氏 エリアで差がある。ECに対応した施設は多くの作業者が必要とされ、人材を集めやすい住宅街付近の立地が有利だ。一方、圏央道に乗り入れやすい郊外の施設は保管がメインのため少人数でも回る。

―大阪圏の市況をどうみる。

谷口氏 東京よりも開発や売買を手掛けるプレーヤーの数は少ないが需要は東京よりも強いようで、賃料上昇率が東京よりも大きい。今後供給される物件には賃料が周辺の既存物件より10%ほど高いものもある。大阪のデベロッパーはかなり強気という印象だ。

―東京・大阪両圏の市場動向をどう展望する。

谷口氏 東京圏は22、23年と300万m2を超える大きな供給が見込まれるが、空室率は1%程度とタイトな需給が続きそうだ。向こう1年に竣工する物件の内定率がすでに60%を超えている上、LMTの一棟借り需要も強いことが理由だ。

―大阪のピークは東京よりも遅れてきそうだ。

谷口氏 大阪では名神や第二京阪などの高速道路に近い内陸側が物流適地とされてきたし、実際に今年も施設の供給が多い。それらの多くが内定したようで、空室率低下と賃料上昇がまだまだ続きそうだ。

―売買市場の状況について。

谷口氏 当社の調べでは昨年の不動産投資総額のうち、物流施設への投資比率は31%とオフィスとほぼ並んだ。今年は年初に売買の取引が減ったが9月に入りリートによる物件取得が増え、全体に持ち直してきた。東京圏の売買利回りは約3.5%とオフィスに肉薄している。利回りが下がり、賃料は上がっているため、売買価格が上昇して地価も上がってきている。

―外資ファンドが買い姿勢を強めてもいる。

谷口氏 欧米よりも日本の低金利が長く続きそうだとみられていることが大きい。欧米の年金基金や生保などのコア投資家はアジアでも特に日本に目を向けていて、物流施設への投資需要が非常に強い。それもあって、多くのデべロッパーが開発を加速させている。

―市場のリスクをどう考える。

谷口氏 供給過剰で需給が緩む懸念はあるが、足元の空室率などを見ると崩れるのはまだまだ先だろう。「ESG」など環境配慮の流れで先端的な施設を求める需要もさらに強まる。空いた築古の物流施設を安価に買い求める需要もあり、施設に空き床が増えない。

(提供:日刊不動産経済通信)

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