変化する「本社ビル」の役割~業務環境変化に適応していく企業

従来、企業にとって「本社ビル」というものは長きにわたって、創業の地の象徴であったり、拠点戦略の要であったり、はたまたビルそのものが企業のアイコン・顔であったりと、大変大きな意味を持つものでした。

ところが、2000年代に入り、IT技術の進化、女性の社会進出の増加(女性労働力の重要性の高まり)等、働き方の多様性を可能にし、かつ必要とする社会背景が顕在化していき、更には大規模な地震や豪雨等による深刻な被害も数年おきに発生する等、これまで通りの「会社に通勤して働く」というスタイルを維持することが必ずしも事業継続の必要要件ではなくなる局面が多くの人々に意識されるようになりました。

そして極めつけは2019年以降、全世界で蔓延することになった新型コロナウイルス感染症による生活様式の大きな変容です。コロナ禍により、日本の都市部の人々の生活様式は、短時間で急速に変異しました。また、これまで「慣習」として維持されていた企業での労働の在り方を維持することが困難な状況を生み、そして在宅勤務等これまで物理的には可能であった技術の導入が「実際に十分に機能する」という経験を得ることになり、企業における「本社ビル」の意味も大きく影響を受けています。

今回はそんな中、築後およそ四半世紀経過する本社ビルを手放し、賃貸に切り替える(=セール&リースバック)ことを決めたある企業をご紹介します。

本社を「所有」から「リース」へ

この企業は都内のとある場所に本社を構えおよそ25年近く操業をしていました。そのビルは立地的に低地かつ川の近くに所在しており、近年はゲリラ豪雨や台風等の影響で浸水の懸念が現実味を帯びる等、これまで以上に自社の所在地に対して危機意識が高まっていました。また、この25年の間に女性社員の比率も増え、ワークライフバランスを考える際に通勤面での本社の立地が必ずしもプラスにならない状況や、取引先からのアクセス面でもあまりメリットがないという状況になっていました。

そんな折、このコロナ禍を経験することになり、出社率の低下とテレワークの浸透、その状況下での事業継続が可能であるという経営実績を積み上げていく中で「これからこの本社ビルを保有・維持していくことが、経営戦略として本当に最善なのだろうか?」という経営課題が顕在化してきました。

そこで、当社はその経営課題に対し、今後本社ビルを保有・維持する場合にかかりうるコストの概算や浸水が実際に発生してしまった場合に起こりうる被害の検討、現状の本社ビルの土地の評価やどの程度活用できているか、等経済的効果等を多角的に検証し、セール&リースバックの可能性を提案しました。


セール&リースバックとは、企業が保有している不動産の所有権を第三者(ファンド、REIT等が多い)に売却し、企業自身は同じビルにテナントとして入居する手法を指します。

この手法によって企業は同じ環境で事業が継続できる一方で、ビルの所有者としての責任・リスクを手放せ、売却益を一時的にまとまった事業資金として活用することが可能になります。一方で、テナントとして入居することになるので、毎月の賃料というコストが発生することになります。

こちらの企業では、現在の本社ビルより好立地のビルに空きが出たら、本社を移転させる可能性も視野に入れており、本社ビルの築年数としても大規模修繕などの所有者責任に伴うコストが数年中に発生する見込みもあることを考え、事業戦略上、今のタイミングでセール&リースバックを検討する価値は十分に高いと考えられました。

折しもコロナ禍における不動産マーケットは、徐々に都心でのオフィス余剰が懸念され始めるという機運も高まっており、立地・賃料ともに希望条件に合う移転先を探しやすい、とご判断されたことも背中を押したようです。

企業経営において不動産の使い方は、必ずしも保有だけが最適解とは限りません。特にコロナ禍のような未曾有の混乱期に、どういう戦略を検討するかは、アフターコロナの企業の継続・成長に大きく影響を与えうる大切な決断と言えます。

今こそ、自社の持つ不動産の価値や今後の展望を見直し、次につながる不動産戦略を検討・実施する好機かもしれません。

提供:法人営業本部 リサーチ・コンサルティング部

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