建設コストの高騰とその要因について③ 資材費の高騰

近年、建設工事費の上昇が続いています。国土交通省が発表している「建設工事費デフレーター」によると、建設工事費用は2013年以降右肩上がりに推移しており、この10年間で1.2倍に膨らんでいます。東京オリンピック以降も続く堅調な建設需要に加え、昨今の経済情勢や作業員の働き方改革等が建設コストの上昇に影響を及ぼしています。

第3回となる本レポートでは、「資材費」の現状や高騰の背景について確認していきます。


【サマリー】

●建設資材価格は、コロナ禍以降大きく上昇しています。5年前と比較すると木材は約2倍、鋼材は1.5倍、生コンは1.3倍の上昇です。主要都市別でみると、万博等を控える大阪市の上昇率が高くなりました。
●アジア圏における建設市場規模は大きく、全世界の42%を占めています。インドやインドネシアでは大規模な開発等が予定されており、より市場が拡大すると見込まれます。資材需要がひっ迫することは、価格の上昇につながるといえます。
●脱炭素化への取り組みが拡大することにより、高炉の廃止、設備更新やCO2排出量を抑えた製造法の研究、開発等による鋼材価格の上昇が考えられます。
●今後、事務所や工場等を新設する際、建築知識を有する担当者が不在の場合は、コスト管理やバリューエンジニアリングの検討、および受注者側との交渉が難しいことが想定されます。発注者側の立場で建設プロジェクトをマネジメントするCM(コンストラクションマネジメント)方式を取り入れることも、選択肢として考えられます。

Ⅲ-Ⅰ.資材価格(指数)の推移

建設資材の価格は、コロナ禍以降大きく上昇しています。建設資材物価指数をみると、「合板(木材)」は2018年平均と比較して約2倍上昇しています。「熱間圧延鋼材[1]」は2021年1月頃から大きく上昇しはじめ、同じく2018年平均から約1.5倍となりました。どちらも7月頃から横ばいの傾向が見受けられます。「生コンクリート」は、他資材と比較すると緩やかな上昇ですが、直近10月に大きく上昇しました。東京地区の生コン協同組合では、来年度、契約方式の変更について発表しており[2]、当面原価上昇分を価格転嫁する動きが続く可能性があります。

また、都市別の価格指数(2015年を100とする)をみると、全都市において上昇しています。主要都市では「大阪市」が165と高水準です。大阪駅周辺の再開発や、万博等に伴う大規模建設現場が多いことが要因として考えられます。続いて「福岡」151、「東京」147、「名古屋」145、「広島」142、「仙台」128と続きます。ほかの都市と比較すると、仙台の上昇率がやや緩やかにみえますが、これは2015年頃の資材費が復興需要等により他都市と比較するとやや高め基調であったことが要因として考えられます。


[1] 一定以上の高温で熱間圧延機により板厚1.2~14mm程度に圧延された鋼材
[2] 従来は建物単位で契約時に価格を設定しているが、大規模建物の場合は工期が長期に渡り、昨今の価格上昇ペースでは生コン会社にてコスト吸収しきれなくなっていることが見直しの要因としてあげられる。新しい契約方式では価格設定が出荷の都度となる予定

Ⅲ-Ⅱ.資材費高騰の要因

i. 国内外における建設需要の高まり

国内の建設需要については、第一章における建設投資額推移にて触れましたが、2022年度は66兆円を超える見通しです。大阪万博やリニア関連工事等、引き続き堅調に推移しています。

外に目を向けてみると、2020年度における世界213ヵ国の建設市場規模は約4.7兆米ドルです。このうち上位三国である中国が22%、アメリカが19%、日本が6%を占めています。中国はこの20年間成長が大きく、13倍に膨らみました。

特にアジア圏における建設市場は大きく、2020年各国の建設投資額内訳をみると、「アジア太平洋地域」が42%を占めています。中国以外では、インドやインドネシアが上位10国に入ってきています。

インドの建設市場は2025年に1.4兆ドルに達すると予想されています。100兆ルピー(約150兆円)の国家インフラ計画「Gati Shakti」の開始や、ダラビ再開発、住宅の増加等が建設市場を牽引すると考えられます。インドネシアでは国家戦略事業に指定されている「バタン工業団地」において総土地面積4,300ヘクタールの開発が予定されています。すでに2024年の生産開始に向けた工場建設が進んでおり、こちらも建設需要は高いといえます。

「ウッドショック」の契機となったアメリカでは、コロナ禍においてテレワークが拡大したことにより、新築住宅需要が一気に高まりました。住宅建築許可件数は2020年6月頃から増加し、2021年1月に1回目、同年12月に2回目のピークを迎えました。2022年3月以降、ウクライナ情勢や住宅ローン金利の上昇等から、落ち着きを見せています。

ウクライナ情勢により、ロシア産木材の輸入規制が再度のウッドショックをもたらすのではないかとの懸念がありましたが、結果をみると、ロシアからの輸入割合が高かった「合板」については、価格が上昇しています。一方製材はロシアからの輸入割合が高くなく、直接的な影響は少なかったとみえます。

夏以降は在庫が増加傾向に入り、価格の一服感がみえる反面、輸入先のカナダや東南アジアにおけるストや生産量調整等の影響が今後出てくる可能性があり、早期に大きな値下げへ動くとは言いづらい状況です。アメリカにおいて住宅ローン金利等が回復した場合、再度住宅需要が増加し、木材が不足することも想定されます。

また、今後は脱炭素化への対応により、木造の高層建築物が普及してくことが考えられます。大林組は、2022年横浜に11階建44mの純木造ビルを建築しました。野村不動産も、2021年「プラウド神田駿河台(14階建)」において木材を構造材として部分的に活用した高層ハイブリッド木造建築を採用しています。海外でも同様に、今後木造の高層建築物への取り組みが増加する可能性があります。

現在、日本における木材自給率は約4割程度ですが、林野庁では2019年より森林管理システムの導入や森林環境譲与税[2]等の取り組みを行うほか、2022年には「国産材転換支援緊急対策事業」として国産材製品の増産等を支援する政策が開始しています。国産木材の安定供給を広げることで、価格の安定につなげる動きとも考えられます。

ii. エネルギー価格の動向

2021年頃から、石炭は世界的な需要のひっ迫で価格が上昇傾向にありました。そこにウクライナ侵攻によるロシアへの経済制裁が加わり、各国にて輸入規制が行われた結果、石炭価格はさらに値上がりしています。2022年9 月は51.19円/トンと、昨年から2倍超上昇しました。その影響を大きく受け、石炭を利用して焼成されるセメントや鋼材の価格が上昇しています。

セメントメーカー各社は、2021年末以降値上げを行っています。中でも太平洋セメントは石炭価格の変動を販売価格に適時反映させる「サーチャージ制」の導入を業界で初めて発表しています[4]。また、セメントの需要家である生コンクリート協同組合においては、関東を中心に契約方式を見直す動きがでています[5]。今後、コスト変動が反映されやすい契約方式が導入されることにより、請負価格や契約の内容へ変更が生じる可能性があります。

鋼材は2022年9月、日本製鉄とトヨタ自動車がこの10年間で最大となる値上げを行うことで合意したことも大きな話題となりました。燃料となる石炭価格の上昇に加え、原料となる鉄鉱石価格が2020年中頃から大きく上昇したことが値上げの要因につながっています。

鉄鉱石価格は、2021年5月に1トンあたり200ドルを超えました。しかし、直近では下落傾向にあり、2022年10月はピーク時の半分以下まで落ち込んでいます。最大の鋼材生産国である中国における鉄鉱石の輸入減が要因として考えられますが、生産量自体は減少していないとみられ、今後中国経済等の動きによって価格が左右されるかもしれません。

先行きの不透明感から、現在鋼材価格は横ばいに転じており、当面は様子見が続く可能性があります。しかし、燃料費の高騰はおさまっておらず、世界的なインフレや円安の急進も鋼材価格に影響をおよぼしているため、鋼材価格が早期の値下げに動く可能性は低いと考えられます。

iii. 脱炭素化に伴う研究・設備コストの上昇

世界的な脱炭素化の動きを受け、現在鉄鋼やセメント・コンクリート業界等において、高炉の集約や切り替え、またCO2排出量削減に向けた研究・開発等が進んでいます。特に鉄鋼業は、全産業の中で最もCO2排出量が多く、製造業全体の40%を占めています[7]。

国内では高炉の設備更新や閉鎖が続いています。日本製鉄では呉や和歌山における高炉の閉鎖を進める等、全国15基から10基まで減少する計画を発表しています[8]。JFEスチールも京浜地区の高炉を2023年に休止する予定です。既存高炉を閉鎖する一方で、各社はGI基金[9]を活用しながら、CO2の排出量が少ない高炉の新設や、製造法開発の取り組みを進めています。

また、海外でもSSAB(スウェーデン)がLKAB(鉄鉱石生産)、Vattenfall(電力会社)とともに政府の支援を受け、水素還元技術の開発に取り組んでおり、2026年には生産開始を目指しています。USスチール(アメリカ)は電炉・鋼板工場を新設し、2024年に稼働開始予定です。

現高炉の廃止・集約による供給量の減少、またよりCO2排出量が少ない新高炉(電炉等)の建設や研究、設備更新等により、新しい生産法が世界的に軌道に乗るまでは、鋼材価格は高止まりする可能性があるとも考えられます。

また、セメント・コンクリート業界においても同様に脱炭素化への取り組みが行われており、生産工程におけるC02排出量の削減や、C02を吸収するコンクリート技術の開発等が進められています。


[1] 合板:普通合板価格 針葉樹合板(厚1.2cm、幅91.0cm、長1.82m、1類)、製材 製材品価格 すぎ正角(厚10.5cm、幅10.5cm、長3.0m、2類)
[2] 「パリ協定」の枠組みの下における温室効果ガス削減目標の達成や災害防止を図るため、森林整備の財源として2019年度から市町村と都道府県に対して、私有林人工林面積等の基準で按分して譲与されている(森林環境税及び森林環境譲与税に関する法律に基づく)、2024年度からは国税として1人年額1,000円を市町村が賦課徴収する(森林環境税)
[3] 「石炭及び練炭、豆炭その他これらに類する固形燃料で石炭から製造したもの」(財務省貿易統計より)にて集計
[4] 他社は追随せず、業界内でも賛否が分かれた。現在はサーチャージ方式(2か月に一度石炭価格を見直し、超過した一定分について清算)、または定額価格改定方式(1年に一度価格見直し)の選択式。太平洋セメント株式会社2022年6月プレスリリース「セメント・セメント系固化材への「石炭価格制サーチャージ制度」導入について」および2022年8月プレスリリース「セメント・セメント系固化材の価格改定について」より
[5] 本レポート2頁注釈参照
[6] Dry Metric Ton Unit、含有鉄分1%あたりの鉄鉱石価格単位
[7] 1トンの鉄を製造するため、C02を2トン排出しているといわれている
[8] 日本製鉄株式会社2021年3月「日本製鉄グループ中長期経営計画」より
[9] グリーンイノベーション基金事業:2050年カーボンニュートラルの実現に向け、野心的な目標にコミットする企業等に対し、10年間研究開発・実証から社会実装までを継続して支援する(経済産業省)

Ⅲ-Ⅲ.今後の展望

資材費は、コロナ禍以前から国内外における建設需要の拡大により価格がゆるやかな上昇傾向にあった中、コロナ禍でのロックダウンによる供給減や、アメリカをはじめとした住宅需要増により需給バランスが崩れ、価格が大幅に上昇したといえます。直近では、ウクライナ情勢および為替の影響が大きく、特に石炭価格が原価に直結する鋼材とセメントは、当面国際情勢にも左右されそうです。

なお、脱炭素化の動きは今後も継続するといえるため、CO2排出量をおさえた鋼材開発のため、鋼材価格は値下げに動く可能性は低いと考えられそうです。

Ⅲ-Ⅳ.本シリーズのまとめ

以上、建設コストの高騰の要因を、「労務費」および「資材費」それぞれについて確認しました。

労務費は、国内における建設技能者の人材不足や働き方改革による影響を大きく受け、今後も上昇すると考えられます。建設DXも進められているものの、現状は設計図の3D化や、施工管理でのタブレット導入等にとどまっている状況です。建設ロボットや機械の遠隔操作等の導入、またそれらがコスト削減へつながるには長い時間がかかるといえます。

資材費は、世界的な建設需要の高まりや、昨今のウクライナ情勢、脱炭素化への動きの影響を受けています。特に、脱炭素化の世界的な取り組みは今後も継続するため、鋼材のCO2排出量削減に向けた現高炉停止等は、長期的に資材需要をひっ迫させる恐れがあります。

昨今の資材費高騰を受け、工事の延期を決定しているプロジェクトが全国各地で見受けられます。千葉県木更津市では、2025年に予定していた新庁舎の開庁を、一年ほど延期する方針を明らかにしました。また、青森県野辺地や長崎県北松佐々町等では、新庁舎建設の入札不落も発生しています。

日本建設業連合会では、請負契約における「スライド条項[1]」の推奨を始めています。すでに公共工事では導入されていますが、民間では契約後に価格が変わることになるため、慎重な対応が求められるともいえます。

なお、事業会社が事務所や工場等の新設をする際、社内に建築知識を有する担当者が不在の場合は、建設コストの管理や削減箇所検討等のバリューエンジニアリング、またそれらにかかる受注者側との交渉等は難しいことが想定されます。この場合、発注者側の立場で建設プロジェクトをマネジメントするCM(コンストラクションマネジメント)方式を利用し、最適化を図ることが考えられます。また、建物の用途等によっては、既存建物の改修等を検討することも、今後の選択肢のひとつといえそうです。


[1] 経済事情の激変等により、請負代金が明らかに適当でないとき、互いに請負代金の変更を求めることができる

提供:法人営業本部 リサーチ・コンサルティング部

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