実際の取引事例における路線価倍率(2023年)~賃貸住宅編~

不動産の売買価格の検討・査定において、相続税路線価は一つの基準として参考にされることが多くあります。前回のオフィス編に続き、賃貸住宅についてもJ-REITの取引事例をもとに、前面相続税路線価に対する実際の取引価格の倍率(以下、「路線価倍率」)を調査しました。


【サマリー】

  • 各エリアの路線価格帯別の路線価倍率は、以下の通りとなった。
エリア 路線価 路線価倍率
東京 都心6区 1,000千円/㎡以上 概ね2倍後半
500~1,000千円/㎡ 3倍半ば~後半
東京 城南エリア 500~1,000千円/㎡ 2倍後半
300~500千円/㎡ 概ね3倍後半
東京 城東エリア 500~1,000千円/㎡ 4倍前後
300~500千円/㎡ 4倍半ば
東京 城西・城北エリア 500~1,000千円/㎡ 3倍前半~半ば
300~500千円/㎡ 概ね3倍後半
札幌 300千円/㎡以下 2倍前半~半ば
名古屋 500~1,000千円/㎡ 2倍後半
300~500千円/㎡ 概ね3倍前半
300千円/㎡以下 3倍後半
大阪 300千円/㎡以下 5倍前後
福岡 300千円/㎡以下 3倍半ば

Ⅰ.調査方法

本調査は、前回と同様にREITのプレスリリースを用いて行いました。具体的な手順は以下の通りです。

  • ① REITの取引事例(プレスリリース「資産の取得に関するお知らせ」など)より、各物件の取引価格、土地比率を抽出する。
  • ② 取引価格に土地比率を乗じ、土地価格を算出する。
  • ③ ②を土地面積で除し、土地単価を算出する。
  • ④ ③を取引年の相続税路線価(以下、「路線価))で除し、路線価倍率を算出する。
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(例)プラウドフラット渋谷笹塚の場合

  • 取得価格22億円、土地比率78%、地積479.31㎡、路線価790千円/㎡
  • ⇒ 土地価格 = 22億円 × 78% = 17億1,600万円
  • ⇒ 土地単価(㎡)= 17億1,600万円 ÷ 479.31㎡ ≒ 3,580,146円/㎡
  • ⇒ 路線価倍率 = 3,580,146円/㎡ ÷ 790,000円/㎡ ≒ 4.53

Ⅱ.路線価倍率の検討

J-REITの取引事例について、路線価倍率を集計し(中央値。各取引事例の路線価倍率については末尾「路線価倍率の算出表」参照)、過去数値等も踏まえた直近の路線価倍率を検討しました。なお調査対象は、東京23区およびその他の都市(札幌、名古屋、大阪、福岡)としました。

ⅰ.東京23区

(Ⅰ)都心6区

1,000千円/㎡以上の価格帯の路線価倍率は、概ね2倍後半であることがわかりました。
次に、500~1,000千円/㎡の価格帯の推移をみると、2020年は上昇、2021年は下落し、2022・2023年は上昇しています。個別事例をみると、2022年は大通り背後の物件で路線価が低く抑えられた事例や、稼働実績が乏しくやや高額で取得したと推定される事例があり、路線価倍率が上昇したと考えられます。また、2023年は大通り背後の物件で路線価が低く抑えられた事例が複数含まれ、大通りの路線価水準に補正し路線価倍率をみると、中央値は3.97倍となります。以上の推移等も踏まえ、500~1,000千円/㎡の価格帯の路線価倍率は3倍半ば~後半であると言えそうです。

【図表Ⅰ】東京 都心6 区の路線価倍率(千代田区、中央区、港区、渋谷区、新宿区、文京区)カッコ内は取引事例数、以下同じ
路線価 2019年 2020年 2021年 2022年 2023年
1,000千円/㎡~ 2.73(5) 2.83(6) 2.62(3) 2.45(2) 2.92(4)
500~1,000千円/㎡ 2.84(2) 3.21(4) 3.07(5) 3.42(3) 4.70(4)
300~500千円/㎡ 1.46(1)

(Ⅱ)城南

500~1,000千円/㎡の価格帯の推移をみると、2020年以降は2倍半ば~後半で推移しています。各年の個別事例をみると、路線価倍率が4倍以上となる事例も散見されますが、2020・2022年は路線価倍率が4倍以上となる事例はなく、路線価倍率の中央値が例年より低く抑えられたと考えられます。よって、城南エリアの500~1,000千円/㎡の価格帯の路線価倍率は2倍後半と言えそうです。

次に、300~500千円/㎡の価格帯の推移をみると、2020・2021年は上昇、2022年に大幅に下落、2023年に再び上昇しています。各年の個別事例をみると、2021年は大通り背後の物件の事例も多く含まれているため、大通り路線価水準に補正すると、路線価倍率の中央値は3.83倍となりました。2022年においては路線価倍率が極端に低い特殊事情が想定される事例1件のみとなったため、路線価倍率が低くなっていると想定されます。また、2023年は路線価倍率が5倍以上となる事例が含まれており、路線価倍率が例年より高めの水準になったと考えられます。以上を踏まえ、城南エリアの300~500千円/㎡の価格帯の路線価倍率は概ね3倍後半と判定しました。

【図表Ⅱ】東京 城南の路線価倍率(品川区、目黒区、大田区、世田谷区)
路線価 2019年 2020年 2021年 2022年 2023年
1,000千円/㎡~ 3.08(1) 5.48(1)
500~1,000千円/㎡ 3.13(6) 2.64(7) 2.94(8) 2.62(4) 2.91(7)
300~500千円/㎡ 2.83(4) 3.69(3) 4.31(3) 1.74(1) 3.92(4)

(Ⅲ)城東

500~1,000千円/㎡の価格帯をみると、2019・2020・2021年は4倍台、2022年は3倍台、2023年は6倍台と年によって路線価倍率のばらつきがあります。路線価倍率が極端に高い2023年の個別事例をみると、路線価倍率が5倍台・6倍台の事例が複数散見され、大通り背後の物件の事例も多く含まれていることが確認できました。そこで、大通り背後の物件を大通り路線価水準に補正してみると、中央値は4.05倍となりました。以上を踏まえ、城東エリアの500~1,000千円/㎡の価格帯の路線価倍率は4倍前後と判定しました。

300~500千円/㎡についても、年によって路線価倍率のばらつきがありますが、推移をみると、2020年に下落、2021年に上昇、2022年にやや下落、2023年は再び上昇しています。各年の個別事例をみると2022年については、不動産市況が過熱していないエリアの事例が複数あり、路線価倍率がやや低く抑えられたと考えられます。一方で、2023年は浅草の取引事例が3件ありました。訪日外国人の増加の影響を受けて実際の取引価格が高騰する一方、路線価の上昇率は緩やかであったため、高い路線価倍率となりました。また、大通り背後の物件の事例も複数含まれています。これらの事例を補正すると、路線価倍率の中央値は4.63倍となります。以上を踏まえ、城東エリアの300~500千円/㎡の価格帯の路線価倍率は4倍半ばと判定しました。

【図表Ⅲ】東京 城東の路線価倍率(台東区、墨田区、江東区、荒川区、足立区、葛飾区、江戸川区)
路線価 2019年 2020年 2021年 2022年 2023年
1,000千円/㎡~ 4.06(2) 4.17(2) 2.82(1)
500~1,000千円/㎡ 4.23(4) 4.09(4) 4.53(5) 3.74(1) 6.19(7)
300~500千円/㎡ 5.19(3) 3.55(4) 4.44(8) 4.16(12) 6.62(7)
~300千円/㎡ 4.41(2) 3.89(1)

(Ⅳ)城西・城北

500~1,000千円/㎡について、各年の個別事例を確認すると2020・2021年は大通り背後の事例があり、大通りの路線価水準に補正して路線価倍率をみてみると、2020年は3.74倍、2021年は3.85倍となりました。また2023年は、最適用途が戸建住宅地、指定容積率が低い、高度地区の制限により容積消化率が抑制される事例に限られました。以上を踏まえ、城西・城北エリアの500~1,000千円/㎡の価格帯の路線価倍率は3倍前半~半ばと言えそうです。

次に、300~500千円/㎡の価格帯の推移をみると、2022年は大幅に下落し、2023年は上昇していますが2倍台にとどまっています。個別事例を確認すると、2022年は取引時の築年数が30年以上経過した物件で路線価倍率が低い事例が複数ありました。これらを除くと、2022年の路線価倍率の中央値は3.53倍となります。2023年は最適用途が戸建住宅地である事例があり、結果として路線価倍率が低く算出されています。また、大通り背後の事例が含まれています。これらの事例を補正すると、城西・城北エリアの300~500千円/㎡の価格帯の路線価倍率は概ね3倍後半と言えそうです。

【図表Ⅳ】東京 城西・城北の路線価倍率(中野区、杉並区、練馬区、豊島区、北区、板橋区)
路線価 2019年 2020年 2021年 2022年 2023年
500~1,000千円/㎡ 4.14(2) 4.44(3) 3.41(4) 2.11(4)
300~500千円/㎡ 3.10(2) 3.43(3) 3.86(3) 2.67(7) 2.97(3)
~300千円/㎡ 3.43(1)

ⅱ.その他の都市

事例が少なく路線価倍率の傾向が読み取れない価格帯もありますが、以下、各都市について、過去数値等も踏まえた直近の路線価倍率を検討します。

(Ⅰ)札幌

300千円/㎡以下の価格帯の推移をみると、2021年が3.70倍と高くなっています。個別事例をみると、2021年は大通り背後の物件が複数あり、大通りの路線価水準に補正すると、路線価倍率の中央値は2.67倍となります。以上を踏まえ、札幌の300千円/㎡以下の価格帯の路線価倍率は2倍前半~半ばと判定しました。

【図表Ⅴ】札幌の路線価倍率
路線価 2019年 2020年 2021年 2022年 2023年
300~500千円/㎡ 2.03(1) 2.00(2) 2.16(2) 0.87(1)
~300千円/㎡ 2.83(2) 1.52(4) 3.70(3) 2.09(7) 2.68(4)

(Ⅱ)名古屋

500~1,000千円/㎡の価格帯の路線価倍率は2倍後半と言えそうです。

次に、300~500千円/㎡の価格帯をみると、2023年は最適用途が戸建住宅地である事例と、土地形状が不整形かつ容積率を消化していない事例が含まれます。これらの事例を補正すると、名古屋の300~500千円/㎡の価格帯の路線価倍率は概ね3倍前半と言えそうです。

300千円/㎡以下の価格帯をみると、2023年は2倍後半と大きく下落しています。2023年は最適用途が戸建住宅地である事例と敷地の過半が低容積率である事例が含まれており、路線価倍率の中央値が低くなったと考えられます。これらの事例を除くと路線価倍率の中央値は3.74倍となります。また、2021年は大通り背後の事例があり、大通りの路線価水準に補正すると、路線価倍率の中央値は3.52倍となります。以上を踏まえ、名古屋の300千円/㎡以下の価格帯の路線価倍率は3倍後半と言えそうです。

【図表Ⅵ】名古屋の路線価倍率
路線価 2019年 2020年 2021年 2022年 2023年
1,000千円/㎡~ 2.28(1)
500~1,000千円/㎡ 2.32(2) 2.70(1) 2.82(4)
300~500千円/㎡ 4.09(2) 3.20(4) 3.48(4) 3.13(2) 1.74(3)
~300千円/㎡ 3.85(4) 3.54(9) 4.10(11) 3.87(4) 2.73(8)

(Ⅲ)大阪

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300千円/㎡以下の価格帯は年によってばらつきが大きいですが、各年の個別事例を確認すると、2021年は大通り背後の事例があり、大通りの路線価水準に補正すると、路線価倍率の中央値は4.84倍となります。また、2023年に取引された大阪市東淀川区・東成区における大阪市の中心部へのアクセスが良好なエリアについては、賃貸住宅のニーズは高く、賃料単価は一定水準以上となるものの、路線価は低く抑えられているため、路線価倍率が高くなりやすいと言えそうです。よって、直近の大阪の300千円/㎡以下の価格帯の路線価倍率は5倍前後と言えそうです。

【図表Ⅶ】大阪の路線価倍率
路線価 2019年 2020年 2021年 2022年 2023年
1,000千円/㎡~ 2.73(1) 2.08(2) 2.84(1)
500~1,000千円/㎡ 3.80(5) 3.23(1) 4.30(2) 2.79(4)
300~500千円/㎡ 4.35(1) 5.60(4) 4.60(1)
~300千円/㎡ 4.50(7) 3.39(6) 5.85(5) 4.77(6) 5.33(2)

(Ⅳ)福岡

300千円/㎡以下の価格帯の推移をみると、2020年以降、路線価倍率は上昇し、2023年は下落しています。個別事例を確認すると、2022年は大通り背後の事例があり、大通りの路線価水準に補正すると、路線価倍率の中央値は3.45倍となります。よって、福岡の300千円/㎡以下の価格帯の路線価倍率は3倍半ばと言えそうです。

【図表Ⅷ】福岡の路線価倍率
路線価 2019年 2020年 2021年 2022年 2023年
500~1,000千円/㎡ 3.28(1) 2.93(1)
300~500千円/㎡ 4.78(1) 1.93(1) 1.56(1) 4.12(2)
~300千円/㎡ 3.40(2) 2.36(2) 3.41(6) 4.98(2) 3.43(3)
【図表Ⅸ】(参考)路線価倍率の算出表(2023年。共有持分や詳細が不明な物件等は原則として除外。)
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提供:法人営業本部 リサーチ・コンサルティング部

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