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再開発により街を活性化し、新陳代謝を繰り返す東京不動産の魅力
人の出入りが活発な街は不動産が動き、経済が廻る。街は常に新陳代謝を行うことで活性化されるのだ。活性化手段としての市街地再開発事業は、込み入った複雑な権利関係の街でも各自の権利をみんなで持ち寄り、土地の高度利用を図ることで、新たな不動産価値を創出する手法として注目され、現在活発に利用されている。
また人を集める手段として東京には新たな鉄道計画が目白押しだ。鉄道が敷設されることで新たな人の流れが生まれ、新たな街が形成される。また既存の街も活性化される。
東京一極集中などと言われるが、東京自らが新陳代謝を常に起こすことでさらに素敵な街に生まれ変わる努力を続けている証ともいえるものだ。そんな東京は今後もその魅力を失うことなく発展を続けていくだろう。
Ⅰ.街に新陳代謝が必要な理由
長く不動産の仕事をしていると気づくことがある。地価が上昇する街にはある法則性が存在することだ。端的に言うと「人の出入りが多い」街では不動産が活発に動くということだ。多くの人が街にやってくる。そして多くの人が街から出ていく。この動きを私は「街の新陳代謝」と呼んでいる。
街から出ていく人が多ければ、住宅が空く。「売る」「貸す」が増える。外部から街に入ってくる人が多ければ、住宅が必要になる。「買う」「借りる」が増えるのだ。常に新しい人が転入してくれば、街中を歩き回る。買い物をする。美味しいお店を探す。街にお金を落とし、街の経済は発展する。発展する街には新しい商売機会を探して外部からさらに多くの店舗が入ってくる。
一方的に入ってくる人ばかりだったのがかつてのニュータウンだ。同じような家族構成、同じような経済環境の人が一時期に転入してきて、街には活気が出る。しかしその後に新しい住宅が供給されなければ、人は滞留し、徐々に歳をとる。そのうち子供世代が巣立ち、街に戻ってこなくなる。いわゆる今多くのニュータウンで現実となっている「オールドタウン」化だ。そして地方の多くの地域で生じている、出ていく人だけが一方的に増えていく「過疎化」の問題もある。地元から人を出さない、という政策をとる自治体もあるが、転出を止める方法はあまりない。どちらの事例でも人が動かないために不動産は動かない。地価は上昇しないのだ。
東京はたくさんの人が集まってくると言われる。だが、人を集めているだけでなく、東京の内部では活発に人が出入りしている。その様子をみたのが次の表である。これは、2023年初の東京都の各区の人口をベースに23年中に転出、転入した人の数を合計し、これを年初人口で割ったものを「代謝率」と定め、上位の区を並べたものである。さらに各区の2024年1月1日時点での公示地価(すべての用途を含む)の対前年増減率をあてはめてみると、代謝率の高い区では高い地価上昇率を示していることがわかる。
人口 | 転出入数 | 代謝率 | 地価上昇率 | |
---|---|---|---|---|
千代田区 | 67,911 | 14,552 | 21.4% | 7.4% |
新宿区 | 346,279 | 72,002 | 20.8% | 6.8% |
豊島区 | 288,704 | 56,676 | 19.6% | 7.9% |
台東区 | 207,479 | 40,331 | 19.4% | 8.8% |
渋谷区 | 229,412 | 41,557 | 18.1% | 7.2% |
中野区 | 333,593 | 60,335 | 18.1% | 7.1% |
中央区 | 174,074 | 30,439 | 17.5% | 6.1% |
港区 | 261,615 | 45,465 | 17.4% | 6.8% |
都心3区が活発なのはもちろんのこと、インバウンド客も多く、街に人があふれている新宿区、渋谷区、豊島区、台東区などは活発に人が出入りすることで街が大いに活性化しているさまが窺える。
ちなみに東京都区部全体の代謝率は14.1%、公示地価上昇率は住宅地で5.4%、商業地で7.0%である。また代謝率の低い区は下から順に江戸川区10.5%、足立区10.6%、葛飾区11.0%。地価上昇率は各区とも4%台後半だ。
代謝率の高い区では人口の2割近くが1年間で入れ替わるのだから、不動産マーケットは活発になる。地価は上昇する、つまり資産価値が保たれやすいことになる。
一方、同じ東京都内でも市部のあきる野市は代謝率6.9%、地価上昇率1.4%、東大和市代謝率7.9%、地価上昇率1.98%などと代謝の低い街の地価が伸びていないことが明白だ。
Ⅱ.新陳代謝を活発にする手段としての市街地再開発事業
街の代謝率をよくするためにはどうしたらよいだろうか。今、注目されているのが市街地再開発事業である。この事業手法は都市再開発法に定められていて、市街地内で、老朽化建物が多く、敷地が不整形で細分化し防災上の懸念もあるような地域を再開発することで不燃化建物に更新し、敷地内に公園、広場や公共施設を設けて人が集える空間を創設していくものだ。
事業方式は第一種(権利変換)方式と第二種(管理処分)方式があるが多く利用されるのが第一種(権利変換)方式だ。
この方式を使えば元の土地所有者は、それぞれが所有する土地、建物の評価額と同等の価値を有する床(権利床)を新たに建設される建物内に保有(権利変換)できるもので、基本的に開発に伴うコストを自ら負担することがない。
なぜならば、この手法による開発では土地の高度利用を目的としているため、容積率の割り増しを受けることができ、建設されることであらたに発生する床(保留床)を事業者として参画するデベロッパーやゼネコンが買い取ることで開発資金を捻出する仕組みであるからだ。
現在、市街地再開発事業は東京都内での開発で積極的に利用されている。東京都都市整備局によれば、2023年10月末現在で、市街地再開発事業が実施されたのは都内で296地区。うち61地区で現在事業中であり、20地区で事業が予定されている。
ここでいう事業中とは事業の認可がおりて、工事中のものをいい、予定とは都市計画決定がなされ、事業認可前の段階の状況をいう。この前段階で準備中の開発計画も多数存在する。
2023年春、東京駅八重洲口にオープンした東京ミッドタウン八重洲や秋に港区麻布台にお目見えした麻布台ヒルズなどの大規模開発はいずれもこの市街地再開発手法を利用した開発だ。
この手法を活用する最大のメリットは、それぞれであれば大きな価値を生み出せない不動産であっても、同じエリア内にある地権者がみずからの不動産を持ち寄ることで、大規模な開発ができる。デベロッパーの企画力や財務力を用いて最新鋭のオフィスビルやマンション、商業施設、ホテルなどを建設し、街全体を活性化して、人を呼び込むことができることにある。また街で不足していた公共施設や保育所、図書館、美術館、ホールなどを整備することで街の賑わい創出にも資することになる。
街の新陳代謝をまさに具現化する手法として今後も都市開発の有力な手段となるものと注目される。
Ⅲ.人を集める強力な手段としての鉄道新線計画
こうした市街地再開発事業は、都心部はもとより、JRなど主要幹線の主要駅前で活発に実施されている。都区部でも代謝率が低い江戸川区では、現在JR総武線「小岩」駅前や「平井」駅前で同手法による再開発の槌音が響いているし、葛飾区では「新小岩」や京成線「立石」駅前の開発が始まっている。鉄道の駅前は古くから人が集まり賑わいを生み出していたが、建物の老朽化や住民の高齢化によって徐々に街の活力に衰えが目立つようになったからだ。
さらに人を集める最強の手段が新たな鉄道計画だ。都内では現在新線計画が目白押しだ。都内で一番初めにお目見えしそうなのが、JR羽田空港アクセス線だ。現在の山手線京浜東北線「田町」駅近くから貨物線の線路を使いながら羽田空港に接続するもので、開通すれば、JR山手線、京浜東北線など各方面へのアクセスは飛躍的に改善し、東京駅まではわずか18分で到着できるようになる。また東京メトロ南北線が白金高輪から品川に接続する計画が2030年代半ば頃の開通で計画されている。この近辺では現在JR東日本等が中心となって高輪ゲートウェイシティ計画が進行中である。4街区でオフィス、商業、ホテル、住宅、ホールなどが集まる複合開発で2025年度から順次開業していく予定だ。また、野村不動産とJR東日本の共同事業、ブルーフロント芝浦(竣工予定時期:S棟2025年2月、N棟2030年度)の開業も予定されており品川、高輪、田町から浜松町近辺の発展に大きな追い風となることが期待されている。
湾岸エリアの交通利便性も大幅に改善する。有楽町線「豊洲」駅はタワマン住民の貴重な通勤路線だが、2030年代には豊洲を起点に東京メトロ半蔵門線および都営新宿線が交差する「住吉」駅までの豊住線が開通予定だ。都心へのアクセス路線が複数になるメリットは大きく、江東区を南北に結ぶ鉄道としても利便性の向上が期待されている。
さらに湾岸エリアの更なる発展を決定づけると言われているのが、先日その構想が発表された臨海地下鉄構想である。この鉄道はつくばエクスプレスが乗り入れを予定している新東京駅を起点に、新銀座、新築地、勝どきを通って、晴海フラッグ最寄り駅となる晴海、都民の新たな胃袋になった豊洲市場から有明東京ビッグサイトにつながる魅力いっぱいの路線だ。開通は2040年代だが、都心へのアクセスにやや難があった晴海エリアの地価を大きく押し上げるものとして期待される。
今回紹介してきたように、人が常に集まる東京という都市の魅力は、それぞれのエリアに性格の異なる素敵な街ができ、その街を様々なひとが行き交う、そのことによって生じるエネルギーがまた新たな街を創出していくところにある。
東京一極集中などと言われるが、これからの東京にはハコとしての不動産が並ぶのではなく、いろいろな彩りをもち、キラキラと輝く華のある街へと更なる変身をとげていくものと期待される。そんな街づくりに不動産を活用していきたいものである。
牧野 知弘(まきの ともひろ)
オラガ総研株式会社 代表取締役 / 不動産事業プロデューサー
1983年東京大学経済学部卒業。
第一勧業銀行(現みずほ銀行)、ボストンコンサルティンググループを経て、1989年三井不動産に入社。不動産買収、開発、証券化業務を手がける。
2009年オフィス・牧野、2015年オラガ総研、2018年全国渡り鳥生活倶楽部を設立、代表取締役に就任。
ホテル・マンション・オフィスなど不動産全般に関する取得・開発・運用・建替え・リニューアルなどのプロデュース業務を行う傍ら、講演活動を展開。
最新著書に「負動産地獄」(文春新書)、その他に「空き家問題」「不動産激変~コロナが変えた日本社会」(ともに祥伝社新書)、「人が集まる街、逃げる街」(角川新書)、「不動産の未来」(朝日新書)等。文春オンラインでの連載のほか、テレビ、新聞等メディア出演多数。
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