特集・注目エリアのマンション動向を追う(1)東京湾岸エリア
2019年03月22日
19年地価公示では、地価の上昇基調が強まった。地方圏の住宅地が27年ぶりに上昇に転じるなど、地価上昇の波が全国的に広がるなか、特に動向が気になる注目エリアのマンション市場にフォーカスする。1回目は今年最大の注目物件である五輪選手村プロジェクト「HARUMI FLAG」の販売を5月下旬に控えた東京湾岸エリアを取り上げる。
「都心への絶対的な距離の近さが人気を集めて、価格は上昇基調にある」(19年地価公示)東京湾岸エリアの新築マンション。現在、東京湾岸地域で販売開始を待つ大型物件に、三井不動産レジデンシャルを代表会社とする11社が進める五輪選手村再開発プロジェクト「HARUMI FLAG」(分譲総戸数4145戸)と東急不動産が東京メトロ有楽町線・豊洲駅徒歩4分の立地で開発する「ブランズタワー豊洲」(1152戸)がある。両物件は、いずれもホームページを開設した現段階では、「想定以上の反響が集まっている」と注目の高さが窺える。
「HARUMI FLAG」の販売開始は5月下旬。平均坪単価は270万~280万円と周辺相場に比べて大幅に下回ると市場関係者の間では言われているが、専有面積が大きいため、総額では他の物件と大差がない形となる見込みだ。
また、引き渡しが23年3月下旬と遠いことで、「マンション購入希望者の誰もが一旦は目が向く物件となるが、他の物件と棲み分けができるだろう」とみられている。供給過多という指摘については、販売期間を長期に計画して「現時点では市場が吸収でき、マーケットは崩れることはない」との見方が大勢を占める。
交通利便性についてもBRTのみで懸念されるが、市場関係者は「選手村の再開発という二度とない希少性を評価した層が購入する」と期待する。
「ブランズタワー豊洲」の販売開始は10月上旬を予定。1月7日にホームページを開設してから現在までで約4500件の反響があり、半年を見込んでいた反響件数に近い量を僅か2カ月で集めている。供給規模が大きいため幅広い集客を見込んでおり、現時点では地元の江東区からの反響が5割だが、今後は広域からの反響を予想する。
豊洲駅から徒歩4分という希少な立地で人気を集め、「用地仕入れの段階からシンボリックな位置が取れると期待していた」(東急不動産・住宅事業ユニット住宅販売本部販売統括部マーケティンググループ・牧史郎グループリーダー)という。平均坪単価は、「400万円をクリアできるか」(同)と大台のラインを見据えて調整を行っている。
今後の湾岸エリアの動向については、新築マンションを購入する資金を持つ層の関心は都心に向いている状況ではあるが、「人気の湾岸地域でも、立地などによって調整局面を迎える可能性がある」(大京・本店・安武信二副本店長)と価格は上限を迎えた感もある。都心の好立地のマンションを購入する行為について「生活をデザインすること」「プレミアム感を価格で検討すること」であると分析する市場関係者もおり、特徴的で販売が好調な物件とそうでない物件の二極化が激しくなると予想されている。
港区や品川区といったエリアは、「品川は山手線新駅の影響もあり好調。浜松町周辺も再開発のため好況」と捉えている。一方、「中央区の勝どきや月島は価格が上がりきっている」との指摘や「豊洲も駅前を除けば厳しい」という見方もある。今後は「建築費や用地の仕入れについて厳しい状況が続くが販売価格への転嫁は限界で、コスト削減に努めた商品企画が重要」(大京・安武氏)とみている。消費増税の経過措置が3月末を期限としていることについては「販売時に目立った影響はない」との反応が聞こえる。
また、「増税の前後の試算の変化を正確に説明することの方が大変」との販売店からの声もある。販売長期化の傾向は他のエリアと同様にみられるが、経済情勢にインパクトがあるような大きな変化がない限り、当面は現状の強いマーケットが維持される見通し。
東京湾岸エリアで中古マンションの取引が本格的に活発化してきたのは2010年代中頃。株価上昇や東京オリンピック・パラリンピックの決定を受けた13年以降、特に盛り上がりを見せ始め、14~15年あたりには大手仲介会社の出店が相次いだ。東京カンテイによると、勝どき、月島、豊洲、東雲の4駅周辺の中古マンションの売り出し時平均坪単価は、リーマンショック後の230万円から、18年に321万円と、約4割上昇している。
各駅ごとにみると、18年は勝どき駅341.2万円、月島駅343.8万円、豊洲駅304.3万円、東雲駅253.2万円と、湾岸エリア内でも中央区側と江東区側で大きな差が生じている。
実際の成約坪単価は、豊洲エリアが300万円前後、月島・勝どきエリアが少し高い320万円前後といったあたりが相場。タワーマンションか板状型でも大きく異なり、ある仲介会社によると、豊洲エリアでは中古タワーマンションが坪単価300万~350万円、板状型が250万~270万円が相場という。ただし、中古タワーマンションの価格帯は幅が広く、坪単価400万円を下らない物件もあるのが現状だ。
足元の市況はどうか。価格はここ数年間高止まり状態。価格調整局面に入り、いつ下落するかと懸念の声もあったが、横ばいが続く。東急リバブルの吉野邦直・流通事業本部営業推進課係長は「この1~2年ほどの間では取引量が少し足踏みした時期もあったが、昨秋、年末あたりから売主の相談も増え始め、足元は好調」と話す。
野村不動産アーバンネットの清水一樹・勝どきセンター長は、「16年に一度成約数が少し落ちたが、3~5%程度の価格調整でその後また成約数が伸び、価格も上昇した」と振り返る。湾岸エリアでは、更なる価格上昇を待っていた売主が価格高止まりで売却に動き始め、買主とのマッチングも活発化し始めているとの声も聞く。
湾岸エリアへいち早く05年に出店した長谷工リアルエステートの藤平大輔・豊洲店店長によると、「当初は坪単価が安かったが、価格はどんどん上がり、現在1.5倍以上の価格になっている物件もある」。新築分譲時から価格が上がっているのも同エリアを含む都心の特徴だ。築15年以内の物件で分譲時価格より平均で2割、なかには5~10割上昇している物件もある。ある仲介会社の話では、新築分譲時に7500万円ほどだった物件が倍近くの1億4000万円前後で取引されたケースもあった。
湾岸エリア全体の需要層は30歳代~40歳代前半のファミリー層やDINKSなどで、いずれも富裕層が牽引する。豊洲など江東区側の方がより子育てを意識したファミリー層が多い。野村不動産アーバンネットの三浦康之・豊洲センター長は、「エリア内で駅近物件への住みかえ需要とエリア外からの住みかえ需要が半々ぐらい」とする。エリア外は首都圏以外からも広く問い合わせが入っている状況だ。
今後に関しては、「価格はこれ以上上がらず大きく下落することもなく、しばらくはこのまま高止まりか少し落ち着く程度ではないか」(東急リバブル・吉野氏)など、価格は高止まりのままで、成約数も高水準を維持しまだ伸びる余地もあるとの見方が多い。
(提供:日刊不動産経済通信)
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