法人税法の完全支配関係の「一の者」と適格合併の「同一の者」(個人が株主の場合)

提供:税理士法人タクトコンサルティング 株式会社タクトコンサルティング 2013年4月8日

1.はじめに

「完全支配関係」とは、(1)一の者が法人の発行済株式等の全部を直接若しくは間接に保有する関係(「当事者間の完全支配関係」)、又は、(2)一の者との間に当事者間の完全支配関係がある法人相互の関係(「法人相互の完全支配関係」)をいう旨定義されています(法人税法2条12の7の6号及び同施行令4条の2・2項)。なお同項により、「一の者」が個人である場合には、その個人に、これと特殊の関係(親族関係など) のある個人も加え(1)の関係の当否をみます。

一方、合併において合併法人・被合併法人間の完全支配関係に基づく「適格合併(同法2条12号の8・イ)」に当たるケースが、同施行令4条の3・2項に二つ定められています。その二つ目のケース(同項2号)が、「合併前に当該合併に係る被合併法人と合併法人との間に同一の者による完全支配関係(当該合併が無対価合併である場合は、更に追加的な要件あり。)があり、かつ、当該合併後に当該同一の者と当該合併に係る合併法人との間に当該同一の者による完全支配関係が継続することが見込まれている場合」の合併です。

2.「同一の者による・・」の解釈上の問題

「同一の者」には特に定義規定がありませんから、‘同じ一の者’という意味です。ここで、完全支配関係の判定に際し、「一の者」が個人である場合に、その個人と特殊の関係のある個人も加えて上記1の(1)の判定をする取扱いは、適格合併の判定に係る「同一の者による・・」では適用されないのではないか、という疑問がわきます。なぜなら、完全支配関係の定義規定では「一の者」という用語の直後についているカッコ書きで、当該取扱いが明定されていますが、そのカッコ書きに「次条(同施行令4条の3)において同じ。」といった文言がなく、「同一の者」という用語にも同様な定めがないからです。

もし、合併法人と被合併法人の株主が個人のみである場合に、「同一の者」が1個人のみを意味し、両法人がその1個人のみによる完全支配関係にあることが上記適格合併の要件であれば、例えば、夫と妻で甲社と乙社の発行済株式をそれぞれ50%ずつ所有していて、甲社が乙社を吸収合併する場合、無対価でなく正当な対価(乙社株式の時価相当の甲社株式)をそれぞれに交付したとしても、夫と妻は「同一の者」ではないので同施行令4条の3・2項2号による適格合併にはならない、という結果になります。

3.小職の私見

「同一の者による完全支配関係」について、私は、株主が個人のみの場合は、完全支配関係の判定と同様に、1個人だけでなくこれと特殊の関係のある個人を合わせて解釈・判定することが正しいと考えます。以下理由を述べます。

(1)「同一の者による完全支配関係」という適格合併の要件自体、「完全支配関係」という用語を含んでおり、「完全支配関係」は、個人が株主の場合、当該個人と特殊の関係のある個人も合わせて判定されるものである以上、「同一の者(による)」を個人一人だけを指すとすると、それに続く用語である「完全支配関係」の意義と整合しなくなるからです。

(2) 国税庁のHP中の「無対価合併に係る適格判定について(株主が個人である場合)」という表題の質疑応答事例で、個人AがX社の株式を1人で100%所有し、Aとその親族二人でY社の株式の100%を所有している状況でX社がY社を無対価で合併するケースが取り上げられています。結論は、当該合併は上記1の二つ目のケースの適格合併に当たらない、というものですが、その理由として、無対価合併である場合の「追加的な要件」(上記1)である「一の者が被合併法人及び合併法人の発行済株式等の全部を保有する関係」でないことを挙げ、それ以前の基本要件である「同一の者による完全支配関係」に当たらないことを非適格の理由としていないからです。こちらの「一の者」は、(1)の事情もなく、株主が個人の場合の「完全支配関係」の判定における前記取扱いをする旨の定めもないので1個人を意味すると解されます(質疑応答事例も同じ。) が、仮に、「同一の者」を1個人=Aに限定する解釈が正当ならば、X社とY社は「同一の者による完全支配関係」にないので、それを非適格の理由にするはずですが、「追加的な要件」を持ち出しています。このことからも、当局は「同一の者」を1個人=Aに限定する解釈を採っていないと思われます。

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