過大役員退職給与の裁判例(平成25年3月22日東京地裁判決)から(2)

提供:税理士法人タクトコンサルティング 株式会社タクトコンサルティング 2013年10月28日

1.役員退職金の過大部分の判定の際の考慮点

法人税法施行令70条第2号は、表題の判定に当たり考慮すべき具体的ことがらとして、1.業務に従事した期間、2.退職の事情及び3.同業類似法人の役員に対する退職給与の支給状況の3つを挙げつつ、3の最後に「等」を付しています。そのことから、その判定においては、これら3つのみではなく、その他諸般の事情をも総合勘案して行うべきと解されています。

上記判決は、同号が役員退職金の過大部分の判定の際の考慮点として上記1~3等を挙げている趣旨につき、「当該退職役員又は当該法人に存する個別事情のうち、役員退職給与の適正額の算定に当たって考慮することが合理的であるものについては考慮すべきであるが、・・・これらの個別事情のうち、業務に従事した期間及び退職の事情については、退職役員個人の個別事情として顕著であり、かつ、役員退職給与の適正額の算定に当たって考慮することが合理的であると認められることから、これらを考慮すべき個別事情として例示する一方、その他の必ずしも個別事情として顕著とはいい難い種々の事情については、原則として同業類似法人の役員に対する退職給与の支給の状況として把握するものとし」たと解されるとしています。(下線部は筆者。下線部のように解される理由は判決文からはよくわかりませんが、課税庁の主張とほぼ一致しています。)

そして、「そうすると、当該退職役員及び当該法人に存する個別事情であっても施行令72条(現70条第2号)に例示されている業務に従事した期間及び退職の事情以外の種々の事情については、原則として、同業類似法人の役員に対する退職給与の支給の状況として把握されるべきもの」だと判示し、「同業類似法人の抽出が合理的に行われる限り、役員退職給与の適正額を算定するに当たり、これらを別途考慮して功労加算する必要はない」旨判示しています。続いて、「同業類似法人の抽出が合理的に行われてもなお、同業類似法人の役員に対する退職給与の支給の状況として把握されたとはいい難いほどの極めて特殊な事情があると認められる場合に限り」これを別途考慮すればよい旨判示しました。上記判決では、その退職役員に当該事情は認められないとして、同業類似法人の平均功績倍率に基づく平均功績倍率法により算定される金額が当該役員の退職金の適正額とされました。そうすると、「極めて特殊な事情」とは例えばどんな場合か、現実にはほとんど認められないのではないか、という疑問が残ります。

2.他の裁判例で示された考え方

同じく過大役員退職金が争われた事件の平成21年2月26日大分地裁判決で示された、過大部分の判定に係る考え方はより柔軟で具体的です。小職には、その考え方のほうが「その他諸般の事情を総合勘案して」その判定を行うということにより適合し、1の最後に書いた疑問にも具体的示唆を与えるものと思われます。

同判決は、平均功績倍率法を合理的な方法と認め、国が訴訟で主張する平均功績倍率(2.3)について「適正に算出された」と認める一方、本件における退職金の相当額の判断上考慮すべき「特有の事情」を指摘し、本件における適正な功績倍率を3.5に上方修正し、国の課税処分を一部取り消しました。(国は控訴断念。同判決は「裁判所」のホームページから検索できます。)

同判決が指摘した「特有の事情」は次の4つです。

(1)国が訴訟段階で主張する平均功績倍率の算定に用いた同業類似法人(以下「比較法人」) に比べ、本件法人は経営内容が良好であるところ、当該倍率は、原告より全般に業績の劣る比較法人の平均値にすぎない。

(2)比較法人数が少ない(本件では5社)と、その抽出の範囲・方法により比較法人が僅かに異動するだけで平均値は容易に変動する。

(3)上記比較法人5社の功績倍率は、4.00、2.81、2.19、1.45、0.91で、下位2社により平均値が不相当に引き下げられている。また、これらは平均功績倍率2.3の周辺に集中しているわけではなく、ばらつきもある。このような状況で、本件退職金のうち、平均功績倍率2.3で計算される金額を超える部分を直ちに不相当に高額とするには疑問の余地がある。

(4)本件は、多大な功労のあった創業者たる役員の退職の例であるが、その功労等、退職給与額に相当の影響を及ぼすと考えられる事情は平均功績倍率の算出過程で基本的に考慮されていない。

以上の4つの視点は、実務上の応用可能性が高いと思われます。

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