東京都内のテレワークの状況と空室率(第1回)
~テレワーク実施率と企業の方針~

新型コロナウイルス感染拡大が本格化してから、約2年が経過しようとしています。この間に、テレワークは急速に普及し、オフィスの在り方に関する考え方も変化しました。Withコロナの働き方も浸透し、企業のオフィス戦略の動向もやや落ち着いてきた印象を受けますが、現在のテレワークの普及状況やオフィスマーケットへの影響はどうなっているのでしょうか。


【サマリー】

●東京都のテレワーク実施率は、緊急事態宣言中は60%以上、それ以外では50%台後半である。また、従業員数が多い企業のテレワーク実施率が高くなっている。

●週3日以上のテレワーク実施率は2021年8月から2022年1月まで低下し続けており、オフィス回帰の動きをとる企業が増えてきている可能性がある。

●オフィスや出社率に関する方針を発表している企業はごく一部だが、その中でみると、2020年は情報通信系企業におけるオフィス削減事例が多く、2021年は国内では商社、海外ではGAFAなどの企業を中心にオフィス回帰の動きが出てきたことがわかる。

Ⅰ-Ⅰ.テレワーク実施率

東京都の調査によれば、テレワーク実施率の推移と従業員規模別の実施率は以下の通りとなっています。本調査では、無作為の約1,000社(従業員30人以上)に電話アンケートを行い、うち40~50%程度が回答しています。左下のグラフは調査月にテレワークを行ったかどうか調査しており、一人でもテレワークしていればYES回答です。右下のグラフは、何割程度の従業員がテレワークをしているかの回答を平均したものとなっています。

【東京都 テレワーク実施率調査(2022年2月)】
※出典:東京都「テレワーク実施率調査結果」

緊急事態宣言が発出されている期間は、概ね60%以上の企業がテレワークを実施していますが、それ以外では50%台後半となっていることが読み取れます。また、企業の従業員規模別のテレワーク実施率は、右上のグラフの通りです。従業員数が多い企業のテレワーク実施率が高くなっています。これはテレワーク環境が整っていること、担当業務の分担がされておりテレワークをしやすい部署・従業員が多いことなどが理由と考えられます。

次に、2021年4月以降について、週何日テレワークを実施しているかの推移をみていきます。本調査は、インターネット上で実施され従業員個人約2,000名が回答、回答者の所属企業の業種割合は経済センサスと同程度となるように集計されています。

【テレワーク実施日数別割合】
※東京都「テレワーク実施率調査結果」より野村不動産ソリューションズ作成

グラフ上の赤字は週3日以上のテレワーク実施率を表しています。この結果を見ると、2021年8月から2022年1月まで、週3日以上のテレワーク実施率は下がり続けていることがわかります。新型コロナウイルスのワクチン接種が進み、緊急事態宣言下の8月が底となり出社率が上昇したと考えられます。直近で感染者数が激増した2022年2月は週3日以上のテレワーク実施率は上昇していますが、新型コロナが収束に向かえば、現在よりはオフィス回帰の動きをとりたい企業が多いと考えられるかもしれません。

読売新聞社が2021年10月下旬~11月上旬に、125社を対象に実施したアンケートによれば、今後のテレワークへの対応について、「縮小」が28%、「現状維持」が56%を占め、「拡大」は4%にとどまりました。この結果からも、テレワーク拡大は落ち着いてきたと言えるかもしれません。

※出典:読売新聞 2021年11月22日付

次に、NTTドコモ社が作成した都内ビジネス地区(大手町、霞が関)の人口変動分析をみていきます。このデータはテレワークの実施率を調査したものではありませんが、ビジネス街における平日の人口はビジネスマンが主であり、人口変動率と出社率(テレワークの実施率)には一定の相関関係があると考えて良いでしょう。以下グラフは、新型コロナウイルス感染拡大前(2020年1月18日~2月14日の平日平均)の人口を基準としたときの、2020年5月以降の第一月曜日の人口変動率です。(ただし、第一月曜日が祝日の場合は第二月曜日を記載。2022年1月はいずれも祝日のため第三月曜日を記載。)

【ビジネスエリアの人口変動率】
※NTTドコモ モバイル空間統計「人口増減率の推移」より野村不動産ソリューションズ作成

人口変動率がプラスであれば新型コロナウイルス感染拡大前の平日平均と比べて人口が増加したことを、マイナスであれば人口が減少したことを示しています。上グラフの値は全てマイナスとなっており、2020年5月以降一貫して新型コロナウイルス感染拡大前より人流が少ないことがわかります。また、マイナスの値が大きいほど人流は少なく、0%に近づくほど、感染拡大前の人流に戻ってきていることを示しています。

上グラフの黄色部分は緊急事態宣言発出期間です。新型コロナウイルスの感染拡大が本格化してから、緊急事態宣言下では人口変動率が一時的に大きく減少(=人口減少)するものの、傾向としてはマイナスの幅が小さくなってきている(=人口が微増している)ことがわかります。また、直近2022年1月10日頃から減少に転じていますが、オミクロン株感染拡大やそれに伴う蔓延防止等重点措置の実施により、出社率や顧客訪問などが抑えられたためと考えられます。エリア別にみると、大手町よりも霞が関の方が、人口が減少していないことが読み取れます。霞が関には行政機関が集中しており、民間企業と比べてテレワークの普及率が低いことが理由と考えられます。

Ⅰ-Ⅱ.企業の方針

これまで、テレワーク導入やオフィス再編に関する方針を発表している企業はごく一部にとどまります。発表していない企業については、方針を変えてない企業や小さな変更にとどまる企業も多いでしょう。その点を踏まえたうえで、実際に、オフィスや出社率に関する方針を発表している企業の事例を紹介します。

時系列でみていくと、全体としては新型コロナウイルス感染拡大当初の2020年は、テレワークの浸透を見込んでオフィス面積を削減する方針を打ち出す企業が多くありましたが、2021年後半にかけてはワクチン接種率の上昇なども影響し、オフィス回帰の動きをみせる企業が出てきたことがわかります。

【テレワーク実施率・ワクチン2回接種率とオフィス方針発表企業数】
※テレワーク実施率(都内):東京都「東京の産業と雇用就業2021」より野村不動産ソリューションズ作成
※ワクチン2回接種率(全国) :デジタル庁「ワクチン接種記録システム」より野村不動産ソリューションズ作成

上図下表は、月毎のオフィス削減/回帰の方針を発表した企業数を示しています。現状、オフィスを削減している企業は、概ね情報通信系に限られています。一方で、国内では商社、海外ではGAFAなどの先進的な企業を中心に、オフィス回帰の動きが散見されます。オフィス回帰を表明している企業をみると従業員一人あたりの生産性が高い企業が多く、オフィス賃料を負担する余裕があることも、その動きの理由の一つと言えるかもしれません。

また、本社をサードプレイスオフィスに移転する企業も一定数確認できました。この背景には、テレワークと出社を組み合わせたハイブリッドな働き方を前提に、オフィスを“作業の場”ではなく“コミュニケーションの場”とするオフィスの在り方の変化やそれに伴うフレキシブルな対応、従業員が働きやすい環境を作る「ウェルビーイング」の実現、オフィス面積削減による賃料や光熱費等の固定費の削減などがあると考えられます。

【テレワーク導入やオフィス再編の方針に関する企業の事例】
※出典:各種公表資料より野村不動産ソリューションズ作成

提供:法人営業本部 リサーチ・コンサルティング部

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