東京都内のテレワークの状況と空室率(第2回)
~ビル規模別空室率の現状と今後~

【サマリー】

●都心5区の空室率は2020年4月から2021年10月まで上昇を続けていたが、それ以降は横ばいで推移しており、空室率上昇の動きに歯止めがかかったと考えられる。

●都心5区別の空室率を見ると、プライムビルが集積する千代田区では緩やかに空室率の上昇が続く一方、IT企業が中心の渋谷区では他の区と比べて企業の動きが速く、空室率の動向も先行しているとみられる。

●ビル規模別の空室率を見ると、大規模ビル・大型ビルにおいて賃貸条件の緩和、貸室の分割が進む中、中型ビルは需要をとらえきれず、空室率の上昇が続いていると考えられる。

●大規模ビルの空室率は上昇が予測されている。

Ⅱ-Ⅰ.東京都心5区の規模別・エリア別空室率

1.都心5区全体の空室率

オフィス賃貸仲介大手の三鬼商事、三幸エステートによる、2020年以降の都心5区のオフィス空室率の推移を見ていきます。

【都心5区全体の空室率】
※各社(三鬼商事・三幸エステート)オフィスレポートより野村不動産ソリューションズ作成


算出方法や調査対象物件の違いにより、三鬼商事の空室率が高い数値となっていますが 、空室率1は2020年4月~2021年10月まで上昇を続け、それ以降はほぼ横ばいとなっていることが読み取れます。新型コロナウイルス感染拡大直後はテレワークの普及によりオフィスを縮小する企業の動きもあったものの、その動きも落ち着きはじめ、空室率は上げ止まったと言えるかもしれません。

1両社の最大の違いは空室率の対象となる物件の基準であり、三鬼商事は募集床も含めた空室率(=潜在空室率)を算出しているのに対し、三幸エステートは現空となった物件のみで空室率を算出している。詳細は2020年12月発行「コロナ禍におけるオフィス空室率~仲介大手3社比較と先行指標~」参照。

実際に、GAFA等の外資系企業をはじめとする複数の企業がオフィス回帰の動きを表明しています。三幸エステートによれば、オフィス成約面積は2020年に大幅に減少しましたが、2021年は前年比で34%増加し、リーシング活動が再び活発化したと言えそうです。しかしながら移転動機は縮小や統合が中心となっており、今後は出社率低下を踏まえたオフィスの見直しが幅広い業種に拡大していくとみられています。また、新規供給が少ないことに加え、サードプレイスオフィスが増えているのも空室率上昇に歯止めをかける理由の一つになっていると考えられます。

なお、両社の都心5区別の空室率は、以下の通りとなっています。

【都心5区別 空室率】
※三幸エステート「オフィスマーケットレポート(エリア別時系列データ)」より
野村不動産ソリューションズ作成
※三鬼商事「オフィスマーケットデータ」より野村不動産ソリューションズ作成

上のグラフを見ると、2020年以降すべての区で空室率は上昇していますが、上昇の仕方には違いがみられます。特徴的な動きをしている区について説明します。
2021年10月頃より、千代田区以外の4区では空室率の上昇に歯止めがかかり横ばいで推移していますが、千代田区ではスピードは緩やかであるものの、いまだに上昇を続けています。千代田区には定期建物賃貸借契約を締結している物件や大企業をテナントとするプライムビルが集積しており、コロナ禍におけるオフィス再構築の実行に時間がかかったためと考えられます。

渋谷区は、2020年は他4区より先に上昇した一方で、2021年はほぼ横ばいで推移しています。テレワークの導入に積極的なIT企業やベンチャー企業等がオフィス需要の中心であり、他の区より企業の動きが速かったとみられます。また、2018、2019年頃の極端な募集床不足の中で、渋谷区外でのオフィスを選ばざるを得なかった企業が渋谷へ流入していることも、空室率の上昇を抑える要因の一つとなっていると考えられます。

2.都心5区のビル規模別の空室率

次に、都心5区のビル規模別の空室率をみてみます。

【都心5区ビル規模別 空室率の推移】
※三幸エステート「オフィスマーケットレポート(エリア別時系列データ)」より
野村不動産ソリューションズ作成

2021年1月以降、大規模ビルと中型ビルは空室率が2~3%上昇しているのに対し、大型ビルと小型ビルは1%程度と上昇のスピードが緩やかであることがわかりました。コロナ禍でテレワークの普及や業績不振によるオフィス縮小の動きはあるものの、小型ビルは、既存テナントの縮小余地が少なく、中型ビルからの縮小移転の受け皿にもなるため空室率の上昇が抑えられたと考えられます。

また、2021年後半からは、企業はアフターコロナを見据えたテレワーク導入によるハイブリッドな働き方を前提に、オフィス面積は縮小するものの、“従業員が出社したくなるオフィス”を選ぶ傾向があり、大規模ビルや大型ビルがその受け皿となりやすくなっています。また、空室が発生した大規模ビル・大型ビルでは賃貸条件の緩和が進んでいることに加え、貸室を分割して幅広い需要を取り込む動きが広がっており、中型ビルは大規模ビル・大型ビルとの競合の中でオフィス需要をとらえきれず、空室率の上昇が進んでいると考えられます。

Ⅱ-Ⅱ.今後の空室率

本章では、今後のオフィス空室率を予測している、ニッセイ基礎研究所、日本不動産研究所、オフィスビル総合研究所の3社についてみていきます。

結果を見ると、ニッセイ基礎研究所は2025年まで空室率が上昇を続けると予測しているのに対し、日本不動産研究所は2021年、オフィス総合研究所は2023年に空室率はピークアウトし、それ以降は下落に転じると予測しています。3社の予測の違いは、おいている経済条件の前提の違いと、調査対象の違いによるものと考えられます。ニッセイ基礎研究所は、調査エリアは他2社+αと最も広範囲であるものの、大規模ビルに絞っており、対象となる物件数が最も少ないと考えられます。オフィスビル総合研究所は、都心5区の1フロア50坪以上の物件すべてを対象としており、対象となる物件数が最も多いと考えられます。2023年、2025年には大量供給が予定されており、調査対象マーケットが最も小さいニッセイ基礎研究所の予測結果へのインパクトは大きなものとなっています。

この調査対象の違いを踏まえると、大規模ビルに関する予測では、空室率が上昇すると予測されていることがわかります。2023年、2025年に予定されている大量供給の多くは大規模ビルに分類されるため、大規模ビルの空室率への影響は大きくなると言えるでしょう。

オフィス需要の観点では、日本不動産研究所、オフィスビル総合研究所は、2023年以降に大量供給はあるものの、それを上回る需要が見込まれる(=空室率が下落する)と予測しているのに対し、ニッセイ基礎研究所は「オフィスワーカー数」や「1席あたりオフィス面積」が大幅に減少する懸念は小さいとしつつも、在宅勤務やフリーアドレスの普及により需要は力強さを欠き、空室率の上昇基調が継続すると予測しています。

【3社の空室率予測】
※ニッセイ基礎研究所「『東京都心部Aクラスビル市場』の現況と見通し(2022年2月時点)」より野村不動産ソリューションズ作成
※日本不動産研究所「東京・大阪・名古屋のオフィス賃料予測(2021~2025年)・2021秋」より野村不動産ソリューションズ作成
※オフィスビル総合研究所「東京都心5区 今後3年間の見通し(2021年第4四半期)」より野村不動産ソリューションズ作成

提供:法人営業本部 リサーチ・コンサルティング部

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