存在感を増す在留外国人の増加と不動産取得

日本に在留する外国人は順調にその数を増やしている。そして以前のような低賃金で働く労働者としての位置づけではなく、高度人材を中心に高収入の人材が増加している。彼らは日本の不動産を積極的に購入しており、住宅のみならず不動産投資にも資金を振り向け始めている。背景には日本不動産の強固な所有権、安定的な政治、情報開示のほか地理的な近接性、低金利、為替などがある。

彼らは今後、日本で育ち教育を受ける子弟をはじめ魅力的な顧客になる可能性が高いが、いっぽうで国際関係の変化に伴うリスク(地政学、経済、政治、疫病など)に対する認識は必要である。

Ⅰ.日本の人口減少は在留外国人増加で緩和されている

総務省が発表した「住民基本台帳に基づく、人口、人口動態及び世帯数のポイント(令和5年1月1日)」によれば、日本の人口は1億2541万6千人。前年比で51万1千人の減少、減少率で0.41%だった。日本の人口は2010年をピークに14年連続減少したことになる。

だがこのデータを注意深くみると、日本人だけでは80万人、0.65%の減少だ。補っているのが在留外国人である。在留外国人人口は299万3千人と前年比で28万9千人、10.7%も増加している。在留外国人数は1990年代後半から増加ピッチを高め、2021年、22年のコロナ禍による減少から23年は回復に転じている。いわば日本の人口減少を在留外国人の増加で緩和しているというのが実態だ。

現在、日本国政府は異次元の子育て政策というスローガンを掲げ、人口減少に何とか歯止めをかけようと躍起であるが、ここ1年間の人口動態をみるに出生数は77万1千人とついに80万人の大台を割り込み、死亡者数は高齢化を背景に156万9千人と過去最高に増加。人口の自然増減は79万8千人の自然減になっている。さらに転入転出者の差をみる社会増減では7千人の減少。これらをあわせて80万人の人口減少になっている。

いっぽう在留外国人は転入者が54万9千人、転出者26万8千人で28万1千人の増加、これに自然増8千人を加えた28万9千人の増加である。

すでに在留外国人数は農業従事者数136万3千人(2020年)の2倍以上、全人口の2.3%を占めるまでにその存在感を増しているのである。

世帯数においてはさらに在留外国人の存在が大きくなっていることがわかる。同じく総務省調査によれば日本の世帯数は6026万6千世帯。前年比50万5千世帯の増加。世帯数はついに6000万世帯の大台に乗った。だがこの内訳をみるに、日本人世帯数が26万6千世帯の増加にとどまったのに対して、外国人世帯数の増加は23万9千世帯と、ほぼ拮抗しているのだ。外国人は単身ばかりではなく、世帯を形成して日本社会にしっかりと根を下ろしていることがわかる。

Ⅱ.在留外国人は都市部で急増している

さて増加した28万9千人をエリア別にみれば、東京38%、愛知10%、大阪16%と全体の6割が三大都市圏に集中している。以下東京都を例に考察をすすめる。

東京都の推計によれば、東京都の人口は2030年の1424万人をピークに減少に転じるとされる。推計では2035年に1417万人、2040年には1398万人となり2060年には1200万人台まで減少することが見込まれているのだ。

いっぽうで23区の人口は2035年の999万人がピークとされ、多摩エリアでは25年の435万人をピークとしている。

実は東京都では同様の調査を2021年にも行っていて、今回の発表(23年)では予測値を修正してピーク時点がやや先送りになっている。これも原因は在留外国人の増加が原因だ。コロナ禍で一時的に減少したものの、在留外国人数は2022年で58万1112人。前年比で6万3231人も増加している。東京都の人口増を上回る増加を続けているのがこの在留外国人であり、もはや日本人だけでは東京都でさえ、人口の増加基調を保つことができないのが実態である。

出所:東京都の資料をもとにオラガ総研作成

Ⅲ.在留外国人と国内不動産マーケット

このように日増しに存在感を強める在留外国人は、不動産マーケットの中でも威力を発揮し始めている。すでに外資マネーによる日本の不動産の積極的な取得は話題になって久しい。昨今も外資系投資ファンドによるJREIT買収や大型のオフィスビル、レジデンスバルク、ホテルチェーン、ロジスティクス(倉庫)の買い占めなど、荒っぽい動きが目立つが、注目すべきは2010年代以降に日本にやってきた専門的な知識や技術を持つ外国人高度人材や留学生が日本に定住し、世帯を持つようになってきたことにある。

都内で分譲される、坪単価が700万円を超えるような超高額マンションでも買い手に多くの在留外国人の名がある。彼らはIT系や国際金融系などの会社に勤めたり、自ら国内で起業をするなどした高収入の人材であり、年収も数千万円から1億円を超える。

彼らの多くは結婚をして日本国内で世帯を構え始めている。必然として住宅購入のニーズが高まっているといえる。特に経済的に恵まれた中国人は、中国国内での不動産所有のリスクを避けて、日本国内で不動産を所有するニーズが高く、また彼らの子息が日本で育ち学齢期に入ってきていることが住宅取得の背景にある。

高度人材の外国人子弟は、親の教育熱も高く、都内の有名中学受験塾であるSAPIXでは在籍6000人のうち300人から400人が中国人子弟といわれ、都心部の校舎ではその割合は15%から20%に達するところもあるという。日本語が母国語でないにもかかわらず、成績で上位を占める子弟も珍しくなく、有名私立進学校に合格するケースが増えている。特に中国人は、母国のトップ校である北京大学よりも日本の東京大学のほうが、入試が優しいことから、東京大学に進学する、またはもっと入学が難しい欧米の超難関大学を狙う傾向があるというから驚きだ。

Ⅳ.在留外国人取引の成長可能性とリスク

では今後、不動産マーケットにおいては、在留外国人の増加をどのように考えていくべきかを考えよう。在留外国人人口は、まだ日本全体の人口の2.3%に過ぎないものの、東京都ではすでに4.2%に達している。これまではどちらかといえば低賃金の労働者が主体であった在留外国人だが、最近では高度人材を含め、日本で育ち、教育を受けてきた子弟も増加し、日本に対する理解も高くなっている。今後彼らがマンションの買い手になる、起業をし、日本の中で成長して広いオフィスを賃借するようになる、投資家として日本の不動産を運用対象とするなど様々な活動をすることで不動産マーケットの優良顧客になることが期待される。

特に不動産投資マーケットでは、日本の不動産における私権の強さは彼らにとっては魅力的であり、マンション投資のみならず、北海道のニセコや富良野、長野県の白馬などでホテルコンドミニアムに投資、スキーにやってくる自国民をはじめとしたインバウンド客を迎え入れるなどしている。

日本の低金利政策も彼らの行動を後押ししている。国内において低金利で資金を調達できるうえ、為替安の恩恵も享受でき、アジア人から見れば日本は国内旅行と同様に地理的にも近く、本国との行き来も容易である。

今後こうした在留外国人富裕層をターゲットとした不動産事業は可能性が高いといえよう。

ただし、外国人相手のビジネスにはリスクはつきものである。これまで追い風だった金利と為替は、今年春にも予想される日本銀行の金融政策の行方によっては、金融マーケットが大きく変わる可能性がある。金利の反転や為替の乱高下はとりわけ外国人の投資熱を冷やす懸念がある。

また台湾をめぐる中国政府の行動次第では、日本、米国などの国々との緊張関係が高まるリスクも想定しなければならない。政治リスクだけでなく、中国本土での不動産バブル崩壊に伴う金融危機の可能性、再びコロナウイルスのような疫病が蔓延するリスクなど国際関係においては様々なリスクを勘案していくことが肝要だ。

日本の人口はどう対策を施したところで、人口減少のトレンドは変えようがない。不動産マーケットは実需という意味からは人口の減少はマイナス効果しかない。だが高度人材を中心とした外国人人材の登用や、外資系企業への門戸開放に伴う外資マネーの呼び込みは大きな追い風ともなりえる。

そのためにも日本に在留する外国人の存在は、今後の不動産マーケットにおいて重要であることを改めて認識したい。

牧野 知弘(まきの ともひろ)

オラガ総研株式会社 代表取締役 / 不動産事業プロデューサー

1983年東京大学経済学部卒業。
第一勧業銀行(現みずほ銀行)、ボストンコンサルティンググループを経て、1989年三井不動産に入社。不動産買収、開発、証券化業務を手がける。
2009年オフィス・牧野、2015年オラガ総研、2018年全国渡り鳥生活倶楽部を設立、代表取締役に就任。
ホテル・マンション・オフィスなど不動産全般に関する取得・開発・運用・建替え・リニューアルなどのプロデュース業務を行う傍ら、講演活動を展開。
最新著書に「負動産地獄」(文春新書)、その他に「空き家問題」「不動産激変~コロナが変えた日本社会」(ともに祥伝社新書)、「人が集まる街、逃げる街」(角川新書)、「不動産の未来」(朝日新書)等。文春オンラインでの連載のほか、テレビ、新聞等メディア出演多数。

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