不動産登記法改正

~住所等変更登記の申請義務化と職権登記制度について~

会社法人登記等の商業登記においては、会社の本店・商号に変更があった場合、その変更の日から2週間以内に登記を行うことが義務付けられています1。そしてその登記義務を怠った場合、過料の制裁が科されることとなります2

一方、不動産登記においては、登記名義人である個人・法人の住所(本店)・氏名(商号)に変更が生じても、変更登記は義務ではありませんでした。そのため、近年問題視されている所有者不明土地3の増加の一因となり、土地の利活用や公共事業の円滑な実施、災害復興などの妨げとなり、解消や発生予防が叫ばれるようになりました。

そこで、2021年4月に成立した不動産登記法の改正により、不動産の所有者の住所・氏名の変更登記(以下「住所等変更登記」といいます)の申請が2026年4月1日から義務化されることとなりました。施行後は変更登記をしないと罰則が科されるため、制度内容やどのような準備が必要なのか理解しておくことが大切です。

本レポートでは、住所等変更登記の申請義務化の概要や注意点について調査した内容をまとめています。

【サマリー】

  • 不動産の所有者の住所・氏名の変更登記の申請が2026年4月1日から義務化される。
  • 住所等変更登記の申請義務化の対象は「所有権」の登記名義人で、住宅ローンの借り入れの際に設定された抵当権など、所有権以外の記載に変更があったとしても変更登記申請の義務はない。
  • 変更登記申請の期限は変更があった日から2年以内(施行前の変更も遡及適用で対象。その場合は施行日から2年)となる。
  • 正当な理由なく期限内に住所等変更登記の申請義務を怠ると5万円以下の過料が科せられる。
  • 2026年4月1日より法務局の登記官が職権で変更登記を行う新制度が開始される。

1会社法915条
2会社法976条
3相続登記がされないこと等により、「不動産登記簿により所有者が直ちに判明しない土地」、「所有者が判明しても、その所在が不明で連絡が付かない土地」のこと。

Ⅰ.住所等変更登記の申請義務化の概要

これまで、不動産登記簿上の所有者の住所・氏名が変更されても、変更登記は任意であったため、変更登記がされないケースが多く存在していました。その原因として、①変更登記をしなくても所有者自身が不利益を被ることが少なかったこと、②転居等の度にその所有不動産について住所等変更登記をするのは負担であることが挙げられています。しかし、住所等変更登記の申請が義務化されることとなり、申請期限や罰則が設けられました。ここでは、住所等変更登記の申請義務化の概要について説明していきます。

ⅰ.住所等変更登記の申請義務化の内容

不動産の所有者の住所等変更登記の申請が2026年4月1日から義務化されます。個人の住所・氏名と、法人の本店所在地・商号に変更があった場合に変更登記の申請義務が生じます。住所等変更登記の申請義務化の対象は「所有権」の登記名義人です。住宅ローンの借り入れの際に設定された抵当権など、所有権以外の記載に変更があったとしても変更登記の申請義務はありません。なお、施行日前に住所(本店所在地)・氏名(商号)の変更があった場合も対象となります。

ⅱ.申請期限

住所等の変更日から2年以内に変更登記の申請をしなくてはなりません。また、上記記載の通り、施行前に住所(本店所在地)・氏名(商号)の変更があった場合も対象となります。その場合は施行日(2026年4月1日)の2年後の2028年4月1日が住所等変更登記の申請期限となります。

ⅲ.罰則

正当な理由がなく期限内に住所等変更登記の申請義務を怠ると、5万円以下の過料が科せられます。正当な理由とは、対象者が申請義務期限内(2年以内)に住所等の変更登記をすることが難しい事情を指します。正当な理由の具体的な類型、過料を科す具体的な手続きの詳細については、通達や省令等で明確に規定される予定です。

Ⅱ.手続きの手順

次に手続きの手順を確認していきます。手続きの流れとしては、①必要書類の準備、②登記申請書の作成、③変更登記の申請(申請書提出・登録免許税納付)、④登記完了書類の受領となります。手順を1つずつ確認していきます。

ⅰ.ステップ1 必要書類の準備

住所変更登記には、住所変更の事実が確認できる書類4、氏名変更登記には戸籍関係書類5が必要になります。また、法人の本店が移転、商号が変更した場合は、登記原因証明情報として、本店移転、商号変更の事項が記載されている会社の登記事項証明書を添付します。ただし、登記申請書の申請人欄に会社法人等番号6を記載する場合には、登記事項証明書を添付する必要はありません。ただし、転居を繰り返している場合、住所変更の事実が確認できる書類だけでは住所の変遷を証明できないこともあるのでご注意ください。そのような場合は登記済証(権利証)や登記識別情報などを別途準備しなければなりません。7

ⅱ.ステップ2 登記申請書の作成

登記申請書は、法務局に提出する前にあらかじめ作成しておく必要があります。登記申請書の作成は、司法書士に依頼することも可能です。司法書士に代行してもらう場合の報酬は、司法書士事務所ごとに異なりますが、相場としては1物件あたり2万円前後(実費を除く)の場合が多く、何物件かまとめて依頼した場合で、物件所在地の管轄法務局が同じ場合は、1物件分の報酬(実費除く)で代行してくれる司法書士事務所もあるようです。

ⅲ.ステップ3 変更登記の申請(申請書提出・登録免許税納付)

変更登記の申請窓口は、所有不動産の所在地を管轄する法務局となります。窓口にて申請する場合は、法務局への事前予約が必要となります。窓口に出向かなくても、郵送による申請8やオンライン申請9も可能です。申請の際には、登録免許税額分の収入印紙を登記申請書と併せて提出します。登録免許税額は不動産(土地または建物)の個数×1,000円となります。例えば、土地1筆、建物1棟の氏名変更登記であれば2,000円分の収入印紙を購入します。

ⅳ.ステップ4 登記完了書類の受領

登記完了までの期間は管轄法務局ごとに異なりますが、概ね2週間程度かかります。法務局での登記が完了すると登記完了書類が交付され、これを受領することで全ての手続きが完了します。登記完了書類は、登記所の窓口で受領する方法又は郵送により受領する方法があります。なお、登記完了書類の受領まで、司法書士に代行してもらうことが可能です。


4住民票の写しまたは戸籍の附票等。
5戸籍謄抄本等。
6会社・法人の登記簿(支店・従たる事務所の登記簿を除く。)に記録される12桁の数字。
7詳細は法務省HP内の「登記されている住所・氏名に変更があった方へ(住所変更登記・氏名変更登記の申請手続のご案内)」を参照。
https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/page7_000001_00017.html
8郵送で申請する場合は登記完了証を送付してもらうための返信用封筒も必要となる。
9オンライン申請する場合は別途申請用総合ソフトが必要となる。

Ⅲ.登記官による「職権登記制度」も始まる

住所等変更登記の手続きの簡素化・合理化を図る観点から、法務局の登記官が他の公的機関10から取得した情報に基づき、職権で住所等変更登記をする仕組みが2026年4月1日より導入されます。職権で変更登記が行われた場合は、個人・法人ともに住所等変更登記の申請義務は履行済みとみなされます。

登記名義人からの変更登記申請を待たずに、登記官による職権登記を受けることができる仕組みではありますが、本制度により対象物件全てが申請期限内に変更される保証はありません。この点、法務省担当者に問い合わせたところ、「職権登記制度は、変更申請をカバーする制度として考えてほしい。住所等に変更があった場合には、その都度変更登記の申請をしてほしい。」との回答がありました。本制度導入後も基本動作は、変更があった場合は速やかに変更登記の申請をするということを念頭に置いておくことが大切です。

ⅰ.不動産の所有者が個人の場合

法務局が定期的に住基ネットで照会を行い、住所や氏名に変更が生じた場合に本人の了解を得て、登記官が職権で変更登記を行います。不動産の所有者の中には、DV被害・ストーカー被害などを受けていて登記簿上に住所が公示されることで危害を加えられるケースも想定されるためです。法務局から不動産の所有者に対して意思確認を行い、了承を得ることができてはじめて職権での変更登記を行います。

なお、施行後は、新たに所有権の登記を申請する際に、住基ネットで照会を行うための検索用情報11を法務局に提供する必要があります。施行時に既に登記名義人である場合は、任意で検索用情報の提供が可能となる予定です。

【図表Ⅰ】職権による手続きイメージ(個人の場合)
出所:法務省民事局「新制度に関するパンフレット」より転載

10個人の場合は住基ネット、法人の場合は商業・法人登記のシステム。
11氏名・ふりがな、住所、生年月日、性別。

ⅱ.不動産の所有者が法人の場合

法務局内部でのシステムの連携により、商業・法人登記上で法人の住所などに変更が生じたときは、登記官が職権で変更登記を行います。個人の場合と異なり、商業・法人登記の申請により新しい商号・住所を公示する意思が明確であるため、不動産登記においては事前に登記名義人の意思確認を行うことなく、法務局側で職権により商号・住所の変更登記がなされます。

商業・法人登記システムとの情報連携においては、会社法人等番号を検索キーとすることを想定しており、2024年4月1日からは所有権の登記名義人が法人である場合には、会社法人等番号を登記事項とすることとしています。なお、2024年4月1日より前に既に所有権の登記名義人となっている法人については、法人から申し出があった場合は、登記官が職権で会社法人等番号を登記することが予定されています。

【図表Ⅱ】職権による手続きイメージ(法人の場合)
出所:法務省民事局「新制度に関するパンフレット」より転載
【図表Ⅲ】会社法人等番号を登記事項化イメージ
出所:法務省民事局「令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイント」より転載

Ⅳ.まとめ

以上、不動産登記法改正による、住所等変更登記の申請義務化と職権登記制度について確認してきました。施行後は、所有不動産を所有者の住所等変更登記をせずに放置しておくことはできなくなります。住所等変更登記申請は、過料のリスクを避けるために申請することはもちろんですが、何よりも自分の権利(所有権)を守るために大切なことです。住所等に変更があった際には、速やかに変更登記申請を行うことはもちろん、所有不動産について現状の登記内容の確認をし、所有者の住所等の変更が生じていて、まだ変更登記を行っていないという方は早めに変更登記申請を行ったほうが良いと考えます。

また、施行日は決定していますが、住所等変更登記の申請義務化における更に詳細な運用方法や内容については、法務省内で決定した内容が今後明らかになっていく予定です。今後も住所等変更登記の申請義務化に向けた関係省庁の動きに注視していく必要がありそうです。

提供:法人営業本部 リサーチ・コンサルティング部

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