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築古・中小ビルを高付加価値ビルに再生 バリューアップ事業の有望性
~主要プレーヤー3社の動向から探るマーケットの現状と今後の見通し~
全国主要都市の中心部で進む大規模再開発をはじめ、活発な新規供給が続くオフィスマーケット。東京都心5区の空室率は需給均衡の目安とされる5%まで低下1する等、足元ではオフィス需要の回復も鮮明で、コロナ禍以降、停滞気味であったオフィスマーケットは再び活況を呈し始めています。
しかしその一方で、人口減少社会に突入する中、オフィスストックは増加の一途を辿っており、将来的には供給過多の状態に陥りかねないとの懸念も目を背けてはならない課題と言えます。
平成バブル期前後に大量供給された中小ビルが続々と築30年超を迎えている昨今、住宅分野における「空き家問題」と同様に、オフィス分野においても市場競争力を失った築古の中小ビルの活用が大きな検討課題となっています。
こうした背景もあり、今、劣化した不動産を価値ある不動産へと再生するバリューアップ事業に注目が集まっています。昨今、人気を集めている「セットアップオフィス」もバリューアップ事業の延長線上に位置付けられるオフィス形態です。
本レポートでは、バリューアップ事業を手掛ける主要プレーヤー3社の最近の動向も交えながら、バリューアップ事業の有望性やオフィスマーケットに与える影響について考察します。
【サマリー】
- 主要3社のバリューアップ事業に関連した売上高は2023年度で約1,300億円(3社合算)。2019年度比では133.6%と、マーケットは順調に拡大している。1棟当たりの平均販売額は約14億円(2023年度)。
- マーケット拡大の背景として主に以下の3点が挙げられる。①バリューアップ対象ビル(築古の中小ビル)が膨大であること、②足元における建築費の高騰がバリューアップ事業の相対的な優位性に繋がっていると見られること、③SDGsに沿った社会的意義の大きい事業内容であること。
- 足元における中小ビルの賃貸需給バランスは良好で、賃料もコロナ禍前を超える水準に達している。この背景の一つには、マーケットにおけるバリューアップ型ビルの増加に伴う中小ビルの質的な向上があると見られる。
- 主要3社の中期経営計画によれば、2026~2027年度時点で2023年度比140~150%程度の売上高を計画しており、各社とも一層の仕入強化を図る方針を掲げている。築30年以上の築古の中小ビルが高水準で推移することが確実である今後数年間はバリューアップ事業者による活発な売買が継続すると予想される。
1三鬼商事「東京ビジネス/地区」2024年7月時点のデータ。
- Ⅰ.バリューアップ事業(不動産再生事業)とは
- ⅰ.バリューアップ事業の概要
- ⅱ.バリューアップの主な手法
- Ⅱ.マーケットの拡大が続くバリューアップ事業 ~主要プレーヤー3社の動向から~
- ⅰ.主要プレーヤー3社のバリューアップ事業の業績推移
- ⅱ.主要プレーヤー3社による仕入実績の推移
- Ⅲ.マーケットが拡大している背景
- ⅰ.バリューアップ対象となる築古・中小ビルは膨大 市場拡大余地はなおも大きい
- ⅱ.歴史的な高騰が続く建築費がバリューアップ対象ビルの売買双方の需要を活性化
- ⅲ.将来的に「スクラップ&ビルド」には限界も・・・ 循環型社会実現に貢献する事業内容
- Ⅳ.バリューアップ型ビルの増加がオフィス賃貸市場に与える好影響
- ⅰ.需要面への好影響
- ⅱ.供給面への好影響
- ⅲ.中小ビルの需給バランスは相対的に良好な状態をキープ
- Ⅴ.バリューアップ事業の今後の見通し
- ⅰ.主要プレーヤー3社の中期経営計画が映すマーケットの有望性
- ⅱ.今後を考える上での注目点や課題
Ⅰ.バリューアップ事業(不動産再生事業)とは
ⅰ.バリューアップ事業の概要
バリューアップ事業とは、その名の通り、「バリューアップ=価値向上」を目的とする事業です。正確な定義こそありませんが、経年等によって資産価値が大きく低下した不動産を再び価値ある不動産へと「再生」するという事業の内容から、「不動産再生事業」との名称の下で事業を展開している企業も多いため、大まかには、「価値が低下した不動産を価値ある不動産へと再生する事業」と言えます(本稿では、「バリューアップ事業」で統一します)。
図表1は、一般財団法人不動産適正取引推進機構が主催した「第1回不動産再生研究会」(2014年2月開催)において、紹介された資料の一部を抜粋したものです。
収益性の低下したビルやマンション等を買い取った上でバリューアップを施し、収益性を高めた後に売却するという流れが一般的です(本稿では、「1棟オフィスビル」を分析対象とします)。なお、こうしたビジネスモデルに由来し、バリューアップ事業者は「買取再販業者」と呼称されることもあります(本稿では、「バリューアップ事業者」で統一します)。
数年単位の時間と巨額の投資資金を基に進められる開発事業と比べ、事業期間が圧倒的に短く、比較的少ない投資額で多数の売買を繰り返す短期回転型のビジネスモデルである点に大きな特徴があると言えます。
ⅱ.バリューアップの主な手法
図表2は、バリューアップの主な手法を示したものです。特に押さえておきたいポイントについて述べます。
まずは「遵法性確保」です。バリューアップ対象となるビルは築古の物件が多数を占めます。それらのビルは、経年によって遵法性の課題が生じているケースも多いため、遵法性を回復させることによってバリューアップ対象物件を投資適格物件へと再生する手法です。機関投資家等の投資需要を顕在化させることによって、売買市場の活性化に貢献していると捉えることもできる非常に意義の大きい手法です。
「用途変更」、「デザイン向上」等も、その時々のトレンドや市況、テナントニーズ等を反映させることで物件としての収益性を向上させるというバリューアップのポピュラーな手法です。特にオフィス分野においては、より省コストでフレキシブルなオフィスへの需要の高まりを受けて、近年急速にマーケットが拡大している「セットアップオフィス」2への改修・転換も、バリューアップ手法の発展形・延長線上にあると言えます。実際、東京23区内のセットアップオフィス市場でトップシェア3を誇るとされるサンフロンティア不動産では、セットアップオフィス事業をバリューアップ事業の一部として位置付けています。
2受付や応接室などの設営や執務エリアにデザイン性の高い内装工事が施され、設備や什器などの一部が予め設置された状態で貸し出されるオフィス(サンフロンティア不動産「2024年3月期決算説明資料」より引用)。
3 棟数で58.6%、面積で51.7%のシェア(2023年6月調査時点、サンフロンティア不動産「2024年3月期決算説明資料」より引用)。
Ⅱ.マーケットの拡大が続くバリューアップ事業 ~主要プレーヤー3社の動向から~
ⅰ.主要プレーヤー3社のバリューアップ事業の業績推移
ここからは、1棟オフィスビルのバリューアップ事業を主力事業として手掛ける主要プレーヤー3社(いずれも東証プライム上場企業)の最近の動向から、バリューアップ関連事業のマーケットが拡大している実態について確認していきます。
図表3は、主要3社のバリューアップ事業関連の売上高と3社合計の販売棟数の推移を示したグラフです。一部、オフィスビル以外のアセットも含まれていますが、大半は1棟オフィスビルの販売によるものです。
3社合計の売上高推移に着目すると、コロナ禍であった2020年度に一時的に落ち込んだものの、直近の2023年度にかけてマーケットが拡大してきたことが確認されます(2019年度比133.6%)。直近の2023年度では、A社とB社がバリューアップ事業関連で500億円弱、C社が同350億円程度の売上を計上しており、3社合算では1,300億円程度となっています。
一方、この3社合計の販売棟数は、直近で95棟です。これに基づく1棟当たりの平均販売額は約14億円となります。この金額規模から、各社の手掛ける物件の多くは中小規模クラスのビルであることが推測できます。
ⅱ.主要プレーヤー3社による仕入実績の推移
物件の仕入の側面から見ると、バリューアップ事業のマーケット拡大傾向がより鮮明になります。
図表4は、同じ主要プレーヤー3社の仕入額と仕入棟数の推移です(販売と同様に1棟マンション等も含まれます)。
3社が揃っているデータは2021年度以降となりますが、やはり直近の2023年度にかけて仕入金額が増加している実態が読み取れます(2021年度比139.4%)。2023年度では、A社は500億円、B社は630億円(区分マンション等も含む)、C社は300億円近い仕入額となっており、3社合算では1,400億円程度に上ります。
一方、仕入棟数は、3社合算で162棟(2023年度)となっています。1棟当たり平均仕入額は9億円弱と計算されますが、仕入棟数には比較的少額の1棟マンション等も含まれているため、1棟オフィスビルに限れば10億円超と見るのが妥当と推察されます。いずれにせよ、1棟当たり10~15億円程度の物件をメイン対象とするマーケットであると言えます。
Ⅲ.マーケットが拡大している背景
ⅰ.バリューアップ対象となる築古・中小ビルは膨大 市場拡大余地はなおも大きい
ここでは、オフィスに焦点を絞り、1棟オフィスビルのバリューアップ事業のマーケットが拡大している背景について考えます。
図表5は、東京都心5区における築年数別のオフィスストック棟数です。1990年前後の平成バブル期に中小ビルが大量に供給された影響により、築30~35年程度の中小ビルが突出して多い実態が確認されます。これらのビルオーナーの多くは、所有ビルの経年による老朽化、収益性低下等の多くの課題に直面していると推察されます。こうした足元における中小ビル市場が抱える構造的な環境・課題が、バリューアップ事業者にとっては追い風となっている面があります。
前掲の主要3社の仕入・販売の実績からも確認された通り、バリューアップ事業者が対象とするビルは、まさにこうした築古の中小ビルです。バリューアップ事業者側から見れば、事業拡大のための「成長の種」がマーケットに多く存在している、つまり事業機会を豊富に享受できる環境にあると言えます。逆に、中小ビルオーナー側からすれば、バリューアップ事業者は貴重な売却先となっています。築古ビルが多くを占める中小ビル市場の構造に起因するこうした事業環境は当面継続することが見込まれ、バリューアップ事業に関連した市場がさらに拡大する余地は大きいと見られます。
ⅱ.歴史的な高騰が続く建築費がバリューアップ対象ビルの売買双方の需要を活性化
足元では建築費の高騰が鮮明です(図表6)。老朽化ビルの対策としては「建替え」がポピュラーな手段ですが、ビルオーナー側にとって、コスト増に直結する建築費の高騰は頭の痛い問題となっており、建替えから売却へと方針転換するオーナーも少なくないと推察されます。一方、「買い」側から考えても、例えば本社ビルを新築することを断念して、バリューアップ済みの中古ビルを購入するといった判断を後押しする要因となると考えられます。このことは、バリューアップ事業者側からすれば、仕入・販売の両面で強い追い風となります。
建築費の高騰は、バリューアップ事業者にとっても改修工事費用が増すことになるため、望ましい状況とまでは言えませんが、新築や建替えを手掛けるデベロッパー等と比べ、改修工事費は少額であるため、事業推進上の打撃も相対的に軽微と見られます。建築費の高騰がバリューアップ事業の優位性を一層際立たせている面もあると考えられます。
ⅲ.将来的に「スクラップ&ビルド」には限界も・・・ 循環型社会実現に貢献する事業内容
バリューアップ事業が注目されている背景の一つとして、社会的意義が大きい事業内容であるという点も見逃せないポイントです。既存建物を解体することなく、有効活用する方向へと導くバリューアップ事業(不動産再生事業)は、全ての産業界に対応が求められているSDGs(持続可能な開発目標)4にも沿った事業内容と言えます。
図表 7が示す通り、そもそも日本は、将来的な人口減少が確実視されています。
不動産業界では、長年にわたって、老朽化した建物を取り壊し、新たな建物を建設する「スクラップ&ビルド」が主流でした。特に住宅分野における「新築信仰」の言葉が象徴するように、中古(ストック)を重視する欧米との違いも従前から指摘されてきました。労働者人口が増え続け、著しい経済成長を続けていたかつての日本であれば、「スクラップ&ビルド」が有効な手段であったことは論を待ちませんが、人口減少社会を前提とすると、持続可能な手法とは言えないとの指摘も多く聞かれます。もちろん、「スクラップ&ビルド」の全てが否定されているわけではありません。「スクラップ&ビルド」一辺倒ではなく、既存ストックの有効活用も並行して考えていく姿勢が一層求められるようになってきていると言えます。
【図表8】建替案と改修案のCO2 排出量等の比較
算出にあたってのツール:日本建築学会LCAツール(建物のLCAツール Ver5.0-温暖化・資源消費・廃棄物対策のための評価ツール-)
LCCO2:ライフサイクルCO2(製品の製造・輸送・販売・使用・廃棄・再利用まで全ての段階での二酸化炭素)
【前提条件・根拠】
築30年、約3,000㎡の都心事務所ビルをモデル建物として選定、50年間(SRCの事務所用の耐用年数)における環境貢献度を試算
建替:「35年毎に建て替えを行う場合」
改修:「老朽化ビルを壊さず再生(ロングライフビル)」
標準:「築30年の未改修ビルを想定」
出所:サンフロンティア不動産「サステナビリティレポート2023」より転載
図表8は、バリューアップ事業を手掛けるサンフロンティア不動産が公表している「資源投入量」、「廃棄物発生量」、「LCCO2排出量」についての比較です。改修(バリューアップ)の環境面への貢献度の高さが改めて確認できます。SDGsやESGへの配慮が必須となっている昨今のトレンドも、バリューアップ事業の追い風となっていると考えます。
4持続可能な開発目標。「Sustainable Development Goals」の略。2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された。
Ⅳ.バリューアップ型ビルの増加がオフィス賃貸市場に与える好影響
ⅰ.需要面への好影響
バリューアップ事業のマーケットの拡大は、オフィス賃貸市場においてバリューアップが施されたビル(以下、「バリューアップ型ビル」)が増加していることを意味します。バリューアップ型ビルの増加はオフィス賃貸市場の需給バランス等にどのような影響を及ぼしているのでしょうか。はじめに需要面への影響について考えます。
図表9の通り、東京23区に所在する事業所5の7割以上は従業者10人に満たない小規模事業所です。このことは、1フロア当たり30~40坪程度6で構成される中小規模クラスのビルに対する潜在的な需要が非常に大きいことを示しています。
一方で、前掲の図表5の通り、中小ビルの多くは築古のビルという実態があります。野村不動産が展開している「PMO」7シリーズをはじめとする築浅の高品質ビルも徐々に増えてきたとは言え、全体からすると、築浅の中小ビルはまだ多くないのが実態です。当然、小規模事業所(≒中小企業)の中には、成長著しいベンチャー企業やスタートアップも多く含まれています。従業員の士気やリクルーティングへの影響も考慮すると、何の対策も施されていない単なる経年劣化した中小ビルでは、彼らが抱くオフィス需要に十分に応えることはできないと考えられます。その意味では、中小ビル市場には「質的な需給のミスマッチ」が生じているとも言えます。築年が経過していても、最新の設備やデザイン性等が施されたバリューアップ型ビルは、こうした需給のミスマッチを埋める役割を果たしていると考えられます。
図表10が示す通り、オフィスを選択するに当たり、「築年数」を重視する中堅・中小企業はそれ程多くはありません。
重要度の高い「賃料」、「耐震性」、「交通利便性」、「セキュリティ性能」等の面で優位性を保つことができるバリューアップ型ビルであれば、十分に需要に応えることができると見られます。バリューアップ型ビルは、成長著しい中小企業が潜在的に抱える質の高いオフィス需要を顕在化させることを通じて、オフィス賃貸市場全体を活性化させているとも言えるのではないでしょうか。
5経済活動が行われている場所ごとの単位で、原則として次の要件を備えているものをいう。一定の場所(1区画)を占めて、単一の経営主体のもとで経済活動が行われていること。従業者と設備を有して、物の生産や販売、サービスの提供が継続的に行われていること(「令和3年経済センサス-活動調査」より)。
6 ザイマックス不動産総合研究所「1人あたりオフィス面積調査(2024年)」によれば、中央値は3.7坪。
7 「Premium Midsize Office」の頭文字。中規模サイズでありながら、大規模ビルと同等の機能性と快適性、デザイン性をあわせ持つオフィスビル(野村不動産ホームページより)。
ⅱ.供給面への好影響
バリューアップ型ビルの増加は、供給面にも好影響を及ぼしています。
図表11の通り、東京都心部のオフィスストックはこの22年間で実に約213万坪も増加しています。前述の通り、将来的な人口減少が確実視される中、ストックが増え続けることは、需給バランスを考える上でマイナス材料と捉えられます。
しかし、既存ビルを活用したバリューアップ型ビルは、新規供給には該当しないため、オフィスストックの増加には結び付きません。一方、建替えは新規供給に含められるため、解体された従前ビルの面積からの純増分が新たにオフィスストックに蓄積されます。この側面から、バリューアップ型ビルが増加すること(≒建替えを減少させること)はオフィス賃貸市場の需給バランスに好影響を及ぼすと言えるのではないでしょうか。
図表12の通り、今後もオフィスの新規供給量は高水準で推移することが予測されています。特に近年、デベロッパー各社が再開発事業に注力していることを反映し、超大規模ビルの占める割合が増加傾向にあります。新築マーケットが主に大企業をターゲットとする超大規模クラスに偏重している足元の実態も、ターゲットの棲み分けという面で、バリューアップ型ビルの存在価値を一層高める方向に作用していると見られます。
ⅲ.中小ビルの需給バランスは相対的に良好な状態をキープ
需給双方に好影響を及ぼしているバリューアップ型ビルの増加もあって、足元では中小ビルの需給バランスは良好な水準で推移しています(図表13)。大規模ビルと中型ビル(≒中小ビル)の空室率は、異例と言える程の僅かな差にとどまっています。バリューアップ型ビルの増加による中小ビルの質的向上を通じて、大規模ビルのターゲットとは異なる中小企業の需要を取り込めている実態が表れていると言えます。このことは図表14が示す中型ビルの賃料指数の堅調さにも表れています。中型ビルの賃料がコロナ禍前を上回る水準に達している点は注目に値します。
Ⅴ.バリューアップ事業の今後の見通し
ⅰ.主要プレーヤー3社の中期経営計画が映すマーケットの有望性
再び主要プレーヤー3社の公表資料を参考とし、バリューアップ関連事業のマーケットの今後について考えます。
図表15は、主要3社が公表している中期経営計に基づく売上高の予測(計画)です。なお、グラフの数値は全セグメント合計の売上高ですが、3社ともバリューアップ事業を主力事業としています。
A社は2027年度に1,350億円(2023年度比169%)、B社は2026年度に1,200億円(同155%)、C社は2026年度に580億円(同140%)との計画を公表しており、各社とも高い成長を見込んでいる点が注目されます。
言うまでもなく、3社とも主力事業であるバリューアップ事業にさらに注力していく方針で、一層の仕入強化を図っています。繰り返しになりますが、バリューアップ事業者がターゲットとする築古の中小ビルはまだまだ多く存在します。少なくとも今後数年間はバリューアップ事業者による活発な売買が続くことが予想されます。不動産市場全体を考える上でも、バリューアップ事業者の動向が注目されます。
ⅱ.今後を考える上での注目点や課題
バリューアップ事業者に限ったことではありませんが、今後を考える上での注目点・課題として、金利動向が挙げられます。
図表16の通り、足元では日本も「金利ある世界」へと回帰しています。一般に、金利上昇は不動産価格の下落に繋がるとされ、不動産業者にとっても借入金利の上昇を強いられるため、業界にとって金利上昇はマイナス材料と言えます。
図表17の「借入金利水準DI」が示す通り、借入金利が上昇していることは確かであり、今後の金利動向には注意が必要ですが、一方で、「金融機関の貸出態度DI」には大きな変化は見られず、不動産業者のアベイラビリティ(資金調達可能性)は損なわれていません。本稿で対象とした主要3社は財務内容が健全であるため問題は少ないと思われますが、バリューアップ事業や買取再販事業を手掛ける業者は数多く存在します。金利動向には引き続き注目です。
それ以外にも、仕入・販売両面に影響を与える不動産価格や改修工事費に影響する建築費の動向、投資家の期待利回りや不動産賃貸市場の動向等も注視しながら、バリューアップ事業の一層の発展に期待していきたいところです。
提供:法人営業本部 リサーチ・コンサルティング部
本記事はご参考のために野村不動産ソリューションズ株式会社が独自に作成したものです。本記事に関する事項について貴社が意思決定を行う場合には、事前に貴社の弁護士、会計士、税理士等にご確認いただきますようお願い申し上げます。また推定値も入っており、今後変更になる可能性がありますのでご了承いただきますようお願い申し上げます。なお、本記事のいかなる部分も一切の権利は野村不動産ソリューションズ株式会社に属しており、電子的または機械的な方法を問わず、いかなる目的であれ、無断で複製または転送等を行わないようお願いいたします。
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