都心部の地価高騰など、大型のマンション用地が確保しにくくなったこともあり、「コンパクトマンション」が注目を集めています。ファミリータイプよりも専有面積が小さめな分、当然価格は抑え目になります。こうしたコンパクトマンションは「買い」なのでしょうか。
一時期下火になっていましたが、ここ数年、再び「コンパクトマンション」という文字を不動産関係のニュースで目にするようになりました。
ところで、皆さんは「コンパクトマンション」と聞いてどのようなものを思い浮かべるでしょうか。
これまでの「コンパクトマンション」の主な定義は
■専有面積:30~50m2台
■間取り:2LDKまで(ワンルームとファミリータイプの中間)
■入居世帯:シングル、DINKS(夫婦のみ世帯)
各社、調査機関などでも、「30~50m2台」・「30m2以上60m2未満」をコンパクト住戸としています。
ただ、「30m2以上50m2未満」と「50m2台」では明確にマーケットが違うという見方もあります。この点は選ぶ際に、意識しておくことが大切です。
まず、「30m2以上50m2未満」がコンパクトマンションの原型として作られました。きっかけは、外資系ファンドと女性のマンション購入です。
2000年頃、"ITバブル"で外資系ファンドが日本に進出、不動産投資を始めました。ファンドは賃貸市場のメインであるシングル向けの一棟マンションを求めていましたが、当時の日本でシングル向けの主流であった、専有面積が20m2以下の3点ユニットバスのワンルームマンションは外資系には嫌われました。そこで、専有部の面積を30m2以上に広げ、バス・トイレを別にしてキッチンも独立させた1Kタイプのマンションを造り、ファンドに一棟売りするようになったのです。
さて、同じ頃、働くシングル女性の中で「賃貸のままでは不安。将来のことを考えてマンションを購入したい」というニーズが顕在化してきました。しかし、分譲マンションは60m2以上の3LDKが中心で、ライフスタイルに合いません。かといって、30m2以下のワンルームは狭いだけでなく、住宅ローンも使えません。多くの金融機関ではワンルームは投資用という位置づけのため、住宅ローンの対象外か、融資する場合は頭金を2割以上入れるのが条件だったからです。
こうしたニーズに目をつけた中堅デベロッパーが、ファンド向けのスタイルを分譲マンション用にアレンジして、シングル女性向けの40m2前後の1LDKタイプを売り出しました。これが現在の「コンパクトマンション」の原型です。
このときはまだ、50m2台は2LDKの「都心型小ファミリー向け」として設計されることが多く、現在でも、そうした見方をする向きもあります。
その後、自治体のマンション開発規制が厳しくなり、住戸数に応じて駐車場や駐輪場の附置義務が付くようになったため、採算を取るために、次第に1戸あたりを少し広めにするようになり、「50m2台」にシフトしてきました。これが2006~08年頃のことです。都心タワーマンションの低層階などに、1~2LDKが組み込まれるようになったのも、この頃。リッチ・シングルを主なターゲットにした、「50m2台」コンパクトマンションの誕生です。
現在、こうした新築のコンパクトマンションは、港区などでは7,000万円を超えています。5年ほど前は4,000万円以下で購入できたことを考えると、「買い得」とはいえない状況です。
しかし、中古マンションなら、築年数にこだわらなければ、4000万円台でも探すことができます。
かつては「住んで良し、貸して良し、売って良し」と言われたコンパクトマンションですが、現在、中古として出回っている物件はどうなっているでしょうか。
まず「30m2以上50m2未満」の面積帯について考えます。
<住んで良し>→○
2003~2004年頃に分譲されたコンパクトマンションには、「限られた面積をいかに広く見せるか」という工夫が見られました。共用施設もある程度は充実しています。
<貸して良し>→△
立地面での利便性の高い物件が多いため、賃貸としてのニーズは高いものの、ワンルームに比べて賃料が高めになるため、必ずしも貸しやすいとはいえません。家賃はワンルームの相場に引き寄せられて低くなるため、効率は良くないでしょう。
<売ってよし>→△
コンパクトマンションは実需層と投資家の両方に売れるため、流動性が高いという見方もあります。実際に、価格が落ち着いている頃はそうでした。しかし、現在は価格が高くなって利回りが低下したため、投資家は総額の低い30m2以下のワンルームを選ぶケースが増えています。とはいえ、価格と賃料のバランス、利回り次第では、投資家に売れないこともありません。
一方、実需層の購入希望者はあまり多くありません。つまり、「30m2以上50m2未満」は、売りやすいとは言いにくいところです。
次に「50m2台」のコンパクトマンションはどうでしょうか。
<住んで良し>→○
充実した共用施設も利用でき、住み心地は良いといえます。また、購入する際に、50m2以上(※)なら、税金メリットが受けられるため、金銭的な負担も軽くなり、暮らしやすさにつながるでしょう。
※税金の種類によって床面積の基準が異なります。国税の登録免許税と住宅ローン減税は専有部分の登記簿面積が50m2以上。地方税の不動産取得税は、専有部分に共用部分の面積を按分して加えた面積。両方の軽減を使える条件としては、国税のほうに合わせて、登記簿面積が50m2以上と覚えておくと良いでしょう。
<貸して良し>→△
「30m2以上50m2未満」より、さらに面積が広くなり、賃料も高めになるため、借り手を探すのに苦労するかもしれません。ただ、立地が良くグレードが高い物件なら、一部の高所得層のニーズにマッチする可能性はあります。
<売って良し>→○
投資家目線でいえば、表面利回りが5~6%なら買い手は付きます。金額的には、「1m2当たり100万円(1坪(3.3m2)300万円強)」のエリアが想定できます。
また、1LDK中心の「30m2以上50m2未満」より、2LDKにもできる50m2台は、DINKSや小さな子ども1人の小ファミリーの実需も見込めます。その点で、投資家と実需層の両方のターゲットに向けて売りやすいともいえるでしょう。
さらに最近では、郊外の戸建てを売却し、都心でマンションを購入するシニア層も増えています。今後の人口動態としても、熟年や高齢の独身世帯が増加すると言われているだけに、50m2以上のゆったりめのコンパクトマンションへの需要が高まるのではないでしょうか。
コンパクトマンションの位置づけや、それを取り巻く環境は変化しています。実需層向けのファミリータイプに比べてニッチなマーケットであること、また、海外を含めた投資家の動向や、賃貸需要によって将来の「売る、貸す」の選択肢が変化しやすいことを、頭に入れておきましょう。
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