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#マンション構造のヒミツ

2022.05.31

マンション騒音トラブルのよくある事例と対処方法

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近隣同士の音のトラブルは、誰にとっても身近に起こる可能性があり、関心が高いのではないでしょうか。人が集まって住む以上、音が発生して影響し合うのは避けられませんが、外からの音や隣接する住戸の音が気にならないようなマンションの造りを知っておくとトラブルを避けやすくなります。騒音を発生させにくい構造や素材のマンションを選び、自分も騒音を出さないように注意しましょう。

マンションで騒音トラブルが多い理由

住宅やマンションが建ち並ぶ住居専用地域であっても、身の回りに音はあふれています。線路が近ければ電車の音や踏切の音、幹線道路沿いであれば自動車やバイクの音、消防署や警察署のそばでは時折鳴り響くサイレンの音、マンションでは、隣人のテレビやオーディオ、楽器の音、掃除機をかける音や足音、公園や幼稚園、保育園、小学校などのそばでは、子供の声や放送音などが耳に障るという世知辛い話もあります。

マンションで騒音トラブルが多い理由として、住戸が上下左右に隣接していること、音の感じ方、聞こえ方が違う人たちが共同して生活をしていることが考えられます。また、ここ数年はコロナ禍において人々が自宅で過ごす時間が増え、コロナ禍以前より騒音が気になることも要因となっているでしょう。

またマンションでは、構造上、壁や床の内部にある空洞部分で音が増幅されてしまい、音が大きく伝わりやすくなる可能性があるということを知っておくと良いでしょう。

分譲マンションと賃貸マンション、アパートの比較
分譲マンション、賃貸マンション、アパートを比較すると、一般的に騒音がもっとも伝わりやすいのがアパート、次に賃貸マンション、もっとも伝わりにくいのが分譲マンションとなります。

あくまで比較論ですが、まずアパートの場合、分譲、賃貸マンションに比べ建設コストを抑えるために壁に厚みがなく騒音を遮りにくくなっているケースが多数です。マンションの場合、賃貸物件より分譲マンションのほうが壁の厚さや間取りなどの点で配慮されており建設コストもかけているケースが多く、防音性に優れているものが多くなっています。

分譲マンションが賃貸に出されている場合、賃貸用のマンションより騒音を伝えにくいことが期待できます。ただしその分家賃が割高となっているケースもあるので、コストも検討して入居先を決めましょう。

マンションで伝わる音は2種類

マンションで伝わる音には以下の2種類があります。

空気伝播音
空気伝播音は、空気を介して直接伝わる音です。例えば人の話し声、テレビの音などが該当します。

空気伝播音については、壁を分厚くしたり壁の間に吸音材を入れたりすると防ぎやすくなっています。

固体伝播音
固体伝播音は、床や壁の「振動」によって伝わる音です。例えば上階で子どもが走り回る足音や楽器の音などが該当します。

固体伝播音は壁や床を厚くしても消音するのは困難です。マンションでは壁や床によって隣の住戸と接しているので、特に音が伝わりやすいと言えるでしょう。施工上ある程度は防げますが、完全な防音は困難です。

マンション騒音トラブルでよくある3つの事例や実例

マンションの騒音トラブルでよくある事例を3つ、紹介します。

階上の子どもの足音
上の階に子どもが住んでいて走り回ったり飛び跳ねたりすると、下の階の住人には大きな音として伝わります。子どもなので仕方がない部分もあるでしょうが、四六時中子どもが暴れて騒音が続くなど、度を越えている場合は階下の住人がストレスを感じてトラブルになるケースは多々あります。

ピアノなどの楽器の音
マンションではピアノやバイオリン、フルートなどの楽器の音が隣接住戸へ大きく伝わってしまいます。近隣住人が楽器を弾いていると、騒音に悩まされてトラブルに発展するケースがよくあります。

ペットの吠え声
ペット可のマンションであっても、騒音をいくら出しても良いわけではありません。犬の吠え声がうるさくて騒音トラブルに発展してしまうケースも多数です。

騒音と感じる「デシベル数」とは?

一般的に音の大きさのレベルは、「デシベル(dB)」という単位で表されます。数値が大きくなるほど大きな音であることを意味し、一般的な人の会話であれば55~60デシベル程度です。環境省は、一般的な住宅地域では昼間で55デシベル以下、夜間で45デシベル以下を基準としています。

騒音にかかわる環境基準(環境省ホームページをもとに作成)

とはいえ、音の出し方や聞くときの感じ方は、同じ音でも人によって異なるため、何をもって「騒音」とするかは難しい問題と言えるでしょう。

マンション騒音に関する法的なルール

マンションの騒音について、法的なルールはどうなっているのでしょうか。

民間に対する直接的な騒音規制はない
騒音規制法を始めとして騒音を規制する法律はありますが、適用対象は工場などの事業者に限定されています。環境省による基準や条例による規制はあっても、民間人の生活音を対象にしたものではありません。

【環境省による騒音規制の基準】
騒音にかかわる環境基準(環境省ホームページをもとに作成)

不法行為となる可能性はある
ただし民間人であっても、騒音を出し続けると不法行為となる可能性があります。例えば大音量でステレオを鳴らし続けて近隣住戸の住民を「うつ状態」にしてしまった事案では、加害者が逮捕されました。直接的な法的規制がないからといってどんな騒音を出しても良いわけではありません。

騒音に配慮されたマンションの選び方

窓がない分厚いコンクリート造りの建物にすれば、隣人や外の影響を受けない静かな環境は得られるかもしれませんが、居住空間であるということを考えると現実的ではありません。人々が同じ建物に集まって暮らす以上は、マンションの造りだけで完璧な音対策を望むのは厳しい面もありますが、少しでも不快な音を感じずに過ごしたいものです。音が届く要因を知り、どのような対策がなされているマンションを選べば良いのかみてみましょう。

まず、上下左右に隣接する住戸から伝わってくる固定伝搬音を防ぐ方法です。固定伝播音にはスプーンなどを床に落としたときや、椅子を引いたときに起こる音のように比較的軽くて高い「軽量衝撃音」と、子どもが走ったりするときに起こる比較的大きくて低い「重量衝撃音」があります。

フローリング材や床のシステムで等級の高いものを選ぶ
音を遮る能力レベルの指標に遮音等級(L値)というものがあり、フローリング材や床のシステムでは「LL」で等級分けされる軽量床衝撃音の数値を表記しています。数値が小さいほど遮音性能が高いことを表し、LL-45または40程度が現在の主流となっています。

重量衝撃音に対する遮音性は「LH」で表示されます。やはり数値が小さいほど遮音性が高く、「上階で子どもが飛び跳ねる音が聞こえても意識することはあまりないレベル」がLH45といわれています。

L値とその値が示す遮音性能の目安(出典:日本建築学会)

騒音を防ぐため、できるだけL値やLH値の遮音性の高い資材が使われている物件を選ぶのが良いでしょう。

最上階の角住戸を選ぶ
直上の住戸だけでなく、斜め方向を含めた近隣住戸からの騒音を確実に避けたい場合、最上階の角の住戸を選ぶのが得策です。

壁に厚みのある物件を選ぶ
重量衝撃音では特に、コンクリートの厚みが音の伝わり方に影響します。コンクリートの重量があるほど防音効果が高いためです。床コンクリートの厚みは昭和40年代までは13cmほどでしたが徐々に増え、現在では20cmほどが一般的になっています。

戸境壁では乾式耐火間仕切り壁と比べてコンクリートの壁に直にクロスを貼って仕上げるほうが、音が隣の住戸に伝わりにくいとされています。

乾式耐火間仕切り壁の場合でも、できるだけ壁に厚みがある物件やタワーマンション高層階などで使用されるものであれば、壁内にグラスウールなどの吸音材がしっかり充填されている物件を選ぶと、騒音被害を受けにくくなるでしょう。

サッシや窓ガラスは遮音等級の優れたものを選ぶ
外から室内へ届く音が伝わる経路として窓と外壁、そして換気口などの隙間があります。外からの音を遮るためには、外壁を厚くするほか、窓や壁の隙間をなくして気密性を高めることが対策となります。

窓のサッシは、JISで遮音等級が定められています。「T値」として、等級なしと1~4までの5つの等級で示され、数値が大きいほど遮音性も高くなり、外部からの音を和らげます。駅や繁華街が近い場合は遮音等級「T-1」以上、幹線道路や線路沿いは「T-2」以上、できれば「T-3」のサッシが良いでしょう。

既存のアルミサッシの内側に取り付ける樹脂製の二重サッシは、防音の効果が高まります。断熱効果も高まるのでリフォームの際に採用する場合は多く、新築分譲マンションでも取り入れられている物件があります。

サッシの遮音性能と仕様(出典:JIS A 4706-2000(サッシ)にサッシの仕様を加えて作成)

角部屋を選ぶ
共用階段からの音が、外壁を通して居室に伝わってくるケースもあります。共用階段が鉄骨と鉄板でできていて住戸の近くにあれば、靴の種類や上り下りの仕方によっては足音が響いてくるのです。共用階段側の居室は寝室とすることも多いため、足音や声は特に気になるでしょう。

また廊下が外部に開放された「外廊下」か、建物内に取り込まれた「内廊下」かによって室内に届く音は異なります。共用階段から遠い角部屋は、騒音から遠ざかるという意味でも選び価値はあるでしょう。

給気口や換気口に工夫があるマンションを選ぶ
室内の換気のために外壁に設けられている給気口や換気口も、音の経路となります。防音フードや消音ボックスなど、音を低減する製品を用いるマンションを探してみると良いでしょう。

画像:LIXIL「換気口用消音ボックス クレール」と仕組み)

騒音トラブルを起こさないための対処方法

まずは騒音が伝わりにくい設計のマンションを選びましょう。コンクリートが厚い物件、サッシや窓ガラスに工夫のある物件、フローリングの遮音等級の高い物件などがおすすめです。

子どもやペットがいる場合には引越し当初に挨拶にいって伝える
子どもやペットがいる場合や楽器を弾く場合、どうしても騒音を出してしまいがちです。引越し当初に挨拶に行って状況を説明しておくと良い印象を持たれ、トラブルに発展しにくくなるでしょう。手土産も持参するようおすすめします。

楽器については深夜に弾くと苦情が来るので練習は昼間にしましょう。分譲マンションでは管理規約で時間が決められているケースもあるので事前に確認しておくようおすすめします。

1階の角の住戸を選ぶ
1階の角の住戸を選べば下階と周囲の住戸へ音が伝わりにくくなります。

騒音トラブルの解決方法や相談先

管理組合、管理会社
まずはマンション管理組合や管理会社へ相談してみましょう。相手方へ苦情を伝えてもらえて解決できるケースが多々あります。

市区町村役場、保健所
市区町村役場や保健所でも騒音問題の相談ができます。ただし行政機関は民間人同士のトラブル解決にはあまり積極的でない可能性もあります。

消費生活センター
消費生活センターでも騒音問題に関する相談ができます。どのような対応をすれば良いのか教えてもらえる可能性があるので、1度電話してみましょう。

弁護士
相手の行為に違法性がある場合、弁護士から差止請求や賠償請求をしてもらえる可能性があります。困ったときには1度相談してみると良いでしょう。

人は育った環境や家族構成がそれぞれ異なり、音への感覚もそれぞれです。自分や家族の個性や現在の状況に応じて、音に関わるマンションの造りを細かくチェックしておくことが、満足のいくマンション選びにつながるでしょう。騒音トラブルを避けたい場合、マンション購入の際に不動産仲介会社の担当者へ相談してみてください。

加藤純(かとう・じゅん)

加藤純(かとう・じゅん)

1974年生まれ。建築ライター・エディター。出版物やWEBコンテンツ等の企画・編集・執筆を行い、意匠・歴史・文化・工学を通して建築の奥深さを広く伝える。1997年東京理科大学工学部第一部建築学科卒業、’99年同工学研究科建築学専攻修士課程修了。株式会社建築知識(現・エクスナレッジ)月刊「建築知識」編集部を経て、2004年独立。著書に『日本の不思議な建物101』(エクスナレッジ)、『「住まい」の秘密』<一戸建て編><マンション編>(実業之日本社)など。

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