住宅内部の壁は、クロス仕上げが主流となっていますが、本来は仕上げのバリエーションで楽しみやすい部位です。壁の中身を知っておけば、外部や隣接する住戸からの遮音性を推測できますし、棚などを取り付ける造作やリフォームでの幅が広がります。
最近では住宅でも、LDKや個室の壁の1つの面を「アクセントウォール(壁の一面・一部分だけを異なる素材や色にして、空間にアクセントをつける)」にする事例が多く見られます。
仕上げの素材もバラエティー豊かな事例が増えてきました。鮮やかな色のクロス(壁紙)やペイント(塗装)にする、好みの形や色のタイルを張る、漆喰や珪藻土などの左官材を塗って表面に凹凸を付ける、などです。白いクロスが一般的なインテリアの壁の中で、1面にでも表情豊かな壁があれば文字通り、彩り豊かな暮らしが生まれるでしょう。
住宅のインテリア部材としての壁は、足で踏みつける床に比べると手で触る頻度は少なく、耐久性や防汚性がそれほど求められません。それで壁の素材はこれまで、幅広い種類の中から選ばれてきました。壁紙(クロス)、漆喰や珪藻土などの左官、塗装(ペイント)、木の板などです。
しかし現在のマンションや戸建て住宅では、安価で工事しやすく、色や柄の種類が豊富なクロスが選ばれることがほとんどです。
クロスには表面がビニール製で裏面が紙製のビニールクロス、紙製のもの、不織布などがありますが、耐水性があり汚れの付きにくいビニールクロスは、洗面所やトイレなどには特に向いています。
抗菌や消臭、調湿といった機能をもつクロスや、漆喰調の表情が付けられた製品なども流通していますが、大半の住宅では、白く落ち着いた柄のクロスが専用のりで貼られているのが現状です。
クロスなどの仕上げの内側には、石膏ボード(プラスターボード)という下地となる材料があります。石膏を芯材として板紙で両面を覆った板材で、耐火・防火性、遮音性、寸法安定性、加工性、経済性に優れるという特徴があり、現代の家づくりでは欠かせない材料となっています。
石膏ボードの厚さは9.5mm、12.5mm、15mm、21mmと4種類の製品があり、一般的に使われる厚さは9.5mmか12.5mmです。遮音性や耐火・防火性、強度を高めるために、近年では12.5mmの仕様が増えています。
石膏ボードのさらに奥は、建物の構造や部位によって異なります。マンションの壁には、外周壁、戸境壁、間仕切り壁の3種類がありますが、外気に接する外周壁の場合、石膏ボードの奥には断熱材があり、さらに奥にRC造の壁があります。
住戸同士を区切る戸境壁では、石膏ボードを使わず、RC壁に直にクロスを貼っている場合が多くあります。RC造の壁に石膏ボードを張ると、間にできる空洞部分で音が太鼓のように響いて隣の住戸に伝わってしまうためです。
間仕切り壁は、1つの住戸の中で部屋を間仕切る壁のことです。間仕切り壁をつくるために、以前は細い木材が使われていましたが、現在ではLGSと呼ばれる軽量鉄骨が主に使われています。丈夫で軽く、工事しやすいためです。LGSを等間隔で並べて立て、石膏ボードが取り付けられます。なお、こうしてつくられる間仕切り壁は建物の構造とは関係ないため、リフォームで壁を撤去することが可能です。
先ほど、壁の下地となる石膏ボードの厚みが遮音性に関係することを書きましたが、より遮音性に関わるのは構造体であるRC造の壁の厚みです。一般的に音は、重量のある物体のほうが伝わりにくいためです。住戸間を隔てる戸境壁の厚さは、昭和50年代までは15cmほどであったものが、現在では18?20cm程度が標準的になりました。このくらいになると、隣の住戸でのテレビや会話の音は聞こえず、ピアノなどの楽器を弾く音も静かにしていれば聞こえてくる程度になります。
LGSと石膏ボードでつくられる間仕切り壁でも、音をより伝わりにくくするために石膏ボードを二重張りにしたり、遮音シートを挟んだり、グラスウールなどをLGSの間に充填することがあります。例えば個室が浴室の隣にあり、湯水を使うときの音が気になりそうな場合などで、間仕切り壁で音を遮る性能を高めるためです。
壁には、絵画を飾ったり、棚を取り付けたりして、インテリアを楽しみたいものです。ただし、特にマンションでは設置個所がどこでもよいというわけではなく、注意が必要です。
まず、外周壁や戸境壁では、壁の中にある構造体のRC壁はマンション全体の共用部にあたります。
重い物を載せるための棚や壁掛けテレビを設置するときなどは、RC壁に穴をあけてコンクリート用アンカーという部品を打ち込み、壁に棚受け材をしっかりと取り付けることが必要ですが、マンションの管理規約でRC造の壁に穴をあけることができない場合もあります。
絵画を飾るためのピクチャーレールを取り付ける程度であれば、許容されることもあるでしょう。それでも振動ドリルなどの特別な工具は必要ですし、経験豊富な工事業者に依頼することをおすすめします。
RC造の壁が入っていない間仕切り壁には、棚などが比較的付けやすいといえます。下地の石膏ボードの向こうにLGSや木材があれば、そこにネジを打って棚などを取り付けることができます。ただし、LGSの場合は軽天ビスという専用のネジが必要となります。
間仕切り壁の内部にあるLGSや木材は、約450mm間隔か約300mm間隔で立てられている場合がほとんどで、手で叩いて感触や音である程度確かめることができますが、正確に確認するには市販されている「下地センサー」を用います。これは、静電容量という電気的な特性を利用して、石膏ボードの裏側に間柱などがあるかどうかを調べる機器です。
壁の下地が石膏ボードだけの場合は、通常のビスを使ってモノを取り付けても、石膏ボードに開けた穴が崩れて落ちてきてしまうことがあります。そのため最近では、石膏ボード下地の壁にもある程度重いモノを掛けたり取り付けたりすることができるように、石膏ボード用アンカーという部品がさまざまなタイプで出ています。
使える条件は、石膏ボードがLGSなどを介して取り付けられていて裏に空洞があること。また、重すぎたり力がかかりすぎたりすると抜けてしまいますから、それぞれの商品の注意事項を確認して目的に見合う商品を選ぶ必要があります。
マンションの管理規約で壁に穴をあけられない、壁の中身を調べるのに手間がかかりすぎる、原状回復できるかが不安、けれどやはり壁に棚がほしい・・・、という場合は、突っ張り棒の機構を利用した製品を利用する手段もあります。
ホームセンターなどで売られているツーバイフォー材に、専用パーツを上下や棚受け部分に取り付けて設置する製品は、その一つ。
スタイリッシュなスチールのパイプを用いた製品も登場し、インテリアに合わせて気軽に壁を利用できるようになっています。
壁は、キャンパスのように眺めの一部となったり、身を委ねたり、棚を付けてモノを置いたり、日常生活のなかでごく身近なもの。壁の特性や中身を知ったうえで、壁を有効に活用していきましょう。
1974年生まれ。建築ライター・エディター。出版物やWEBコンテンツ等の企画・編集・執筆を行い、意匠・歴史・文化・工学を通して建築の奥深さを広く伝える。1997年東京理科大学工学部第一部建築学科卒業、’99年同工学研究科建築学専攻修士課程修了。株式会社建築知識(現・エクスナレッジ)月刊「建築知識」編集部を経て、2004年独立。著書に『日本の不思議な建物101』(エクスナレッジ)、『「住まい」の秘密』<一戸建て編><マンション編>(実業之日本社)など。
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