限られた収納スペースで居心地の良い、いつまでも美しい住まいを保つには、ちょっとしたコツがあります。『40代からの住まいリセット術』の著者、水越美枝子さんによると、「適所の法則」と「適量の法則」にあるのだそうです。
--水越さんはいつまでも美しい家を実現するポイントについて、どのようにお考えですか?
「リフォームした家をずっとキレイに保つのは大変ではないですか?」とご質問を受けるのですが、私が設計させていただいた家に関して言えば、どのお宅も、きちんと片付いた状態を維持して暮らしていらっしゃると思います。私は、そのポイントは、収納にあると考えています。
このことは、20数年前に住宅の設計を始めた頃からずっと考えてきたことです。今では「限られたスペースでいかにうまく収納するか」というハウツー本がたくさん出ていますが、リバウンドしない収納にするためには、収納と住む人の動き、つまり動線とをセットで考える必要があります。たとえ、たくさん収納スペースを作ったとしても、いくら収納の仕方を学んでも、動線を考慮していなければ、キレイに片付いた部屋は持続しません。しまう場所・使う場所・動線・収納スペースの容量など、さまざまな要素を考えなくてはならないのです。
このような考えのもと、"収納は科学"という言葉を使い、建築家の視点から、収納の大切さを説明してから、具体的な施策について提案しています。
--「収納は科学」とおっしゃっていますが、収納について、どのように考えたら良いのか教えてください。
まず最初に、私が収納を考えるときは2つのことを意識しています。私はそれを「適所の法則」と「適量の法則」と呼んでいます。
「適所の法則」とは、動線と深く関わるものですが、「しまう場所」を「使う場所」の近くにすることです。そのためには、一つひとつのモノに住所を定める、つまり置く場所を決めていくことが基本です。ですが、日常的・慣習的に使用しているものを客観的に判断して、整理していくのはなかなか難しいものです。
そこで、それぞれのモノに適切な住所を決めるために、私がいつもクライアントに実施している収納診断を紹介しましょう。
具体的に見える化することで「こんなにモノがあるんだ」「ここにこんなモノを置くのは違うな」といったことを判断することや、家族みんなで共有することができます。
それぞれの解答欄に、当てはまるアルファベットを記入してみましょう。それぞれのモノが家の中でどのような扱いを受けているのかが見えてきます。a・b・eに該当するものは、置き場所が決まっていない、住所不定のモノたちです。「適所」欄への記入をしながら「ここで使って、ここに戻す」というルールを決めて、居場所を作っていきましょう。
--それでは「適量の法則」とはどういうものでしょう?
「適量の法則」とは、モノの量に見合った収納スペースが確保されていることです。これは、モノの量を適量にコントロールすることでもあります。
例えば、100枚以上ものハンカチを持っている人も居ますが、実際にはTPO別に考えたとしても、10枚もあれば十分に事足りるのではないでしょうか。個人差はあるものの、多くの人に取ってハンカチは10枚程度で適量といえそうです。
リビング・キッチン・洗面所といった共有スペースで収納がどのくらい必要かと考えると、実は一人暮らしであろうと、家族4人で暮らしていようと、さほど変わらないものです。
必要な洗剤のストックの量が大きく変わることはなく、鍋などの調理器具は、人数によって極端に増えることもないでしょう。共有スペースに置く必要のあるもので、個人ごとに使い分けるモノといえば、いくつかの食器や洗面所で使用するものくらいです。それも、必要な収納スペースで考えると、棚1枚ほどにすぎません。
ただ、世の中には、モノを持ちたい人もいれば、モノを持たなくても幸せな人もいます。例えば、クッションカバーを2枚しか持っていない人もいれば、いくつも持っていて、洋服を変えるようにインテリアのコーディネートを変えて楽しむ人もいます。「生活を豊かにするもの」と考えれば、どちらがいいとは一概には言えません。
適量は、このようなプラスαの部分によっても変わってくるので、何平米の収納スペースが適量だということは難しいものです。その方のライフスタイルによって適量を見極め、その量に応じた収納スペースを確保していくものです。
--どうしても収納スペースよりもものがあふれてしまう場合は、どうしたら良いでしょうか?
明らかに持っているモノの量が増えたと感じる場合、いつも使う「1軍」のものと、たまにしか使わない「2軍」のもの、そして「処分するもの」に分けます。
すでに話した「適所の法則」に則って1軍は使う場所の近くにスペースを確保しましょう。2軍のものは、いつも使う1軍の近くに置けるようであれば便利ですが、そのような場所が確保しづらい場合は一元化して1ヵ所にまとめて収納する方法もあります。扇風機やヒーターなどの季節物も本来は各個室が適所なのですが、どうしても収納スペースが確保できなければ、納戸を活用するのも一つの考え方です。
例えば、普段、洗面所に収納するタオルは数枚あれば事足ります。しかし、10枚以上ある2軍のストックを一緒に置こうとすると、適量を超えた収納スペースが必要です。2軍をいつも使う1軍から切り離して収納することで、共有スペースである洗面所をすっきりと片付けることが可能になります。
また、みなさんに考えていただきたいのは、モノを置くスペースにもお金を払っているということです。家の購入金額や家賃を床面積で割れば、モノを置くスペースにどれだけのお金を払っているのかが簡単に計算できます。
家の値段(もしくは家賃)÷ 床面積 (m2)= 1m2あたりのスペースの値段(家賃) |
あなたの行き場のない持ち物やストックは、果たしてそれだけのお金を払った空間を占拠するだけの価値があるでしょうか?
近頃ではコンビニエンスストアもたくさんできましたし、ネットショッピングでもすぐにモノが届く時代です。レンタカーやレンタルサイクルのように車や自転車はもちろん、ベビーベッドのような家具を必要な期間・タイミングだけレンタルできるサービスも増えました。昔のようにたくさんのストックは必要ないかもしれません。
--リフォームなどで収納を増やす、作るような方法もありますか?
マンションのように既に収納の場所が限られている住まいの場合、私は収納内のスペースをたくさん取るため、棚の高さや引き出しを調整して収納の空間稼働率を上げる工夫をします。
押入れを例にとってみましょう。
幅と奥行きの内寸がだいたい80cm角の上下2段に分かれたスペースです。これを奥行きを半分にして、上下に2段ずつ収納棚を増やせば、全体の収納面積は広がります。
*これまでの収納面積
0.8m ×0.8m × 2段 = 1.28m2
*奥行きを半分にして棚数を増やした収納面積
(0.8m ×0.8m ×2段)+(0.8m ×0.4m ×4段 )=1.28m2+1.28m2=2.56m2
生活をしていると、奥行きのある大きなものは布団やひな人形等の限られたもので、奥行き30cmほどの棚があれば事足りるものがほとんどだとわかります。それに奥の方に置いてあるものは、結局視界に入らなくなり、出し入れの使い勝手も良いとは言えません。現代の生活に照らし合わせれば、それほど奥行きのある収納はいらないように感じます。
住む部屋を選ぶ判断として、収納の広さを重視する方は多いでしょうが、ただの収納面積だけでは計れない、使い勝手の良い収納であることが重要です。
そして、新たに生まれた空間は、生活するゆとりのスペースとすることができます。
今回の水越さんの話で、収納はただ収納するスペースが多くあればいいわけではないということが改めてよくわかりました。しまう場所=使う場所に置き、適量を見極めてモノを整理すること。そして、奥行きの浅い棚によって収納の空間稼働率を上げていくことがポイントですね。
読者の皆さんもリフォームするときはもちろん、今の住まいの収納を見直す際にもぜひ役立ててください。
一級建築士。日本女子大学住居学科卒業後、清水建設(株)に入社。商業施設、マンション等の設計に携わる。1991年から6年間バンコクに滞在。1998年、一級建築士事務所アトリエサラを共同主宰。新築・リフォームの住宅設計からインテリアコーディネート、収納計画まで、トータルでの住まいづくりを提案している。著書に「40代からの住まいリセット術――人生が変わる家、3つの法則」「いつまでも美しく暮らす住まいのルール――動線・インテリア・収納」「人生が変わるリフォームの教科書」など。2022年11月に新刊「一生、片付く家になる!散らからない住まいのつくり方」を発刊。
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