部屋にいつでもお客様を呼べるような素敵な住まいに変える、ちょっとしたコツを前回に引き続き『40代からの住まいリセット術』の著者、水越美枝子さんにご紹介いただきました。見え方を意識するだけでここまで変わる!ということを実感できるポイントが満載です。
--見慣れた住まいの何をどう変えれば居心地がよく、お客様にも「素敵! 」と思ってもらえるのでしょう?
人の視線が向く先を意識することです。私は家をデザインするとき、どの位置にドアがあって、どちら側に開けば美しい空間に目が向くかということも計算して設計します。けれど、本格的なリフォームでなければ、ドアの位置や開きを変えるのは容易ではないことです。そこで、自分で簡単にできる、家族にもお客様にも素敵だと思ってもらえる空間の作り方をご紹介します。
部屋に入ったときに目に入ってくる光景が美しいと、人はそこを心地よい場所と感じます。逆に、どんなに素敵なインテリアを揃えていても、ドアを開けてすぐ目の前が雑然としていると、たとえそれが小さなものであってもストレスが蓄積していくものです。
この自然に視線が行く場所のことをインテリア用語で「フォーカルポイント」と呼びます。まずはこのフォーカルポイントとなる場所がスッキリと美しいかどうか、何が邪魔をしてしまっているのかを判断しましょう。
これはお客様から依頼を受けてリフォームを行うときも必ずやることなのですが、私がお勧めするのは家の中を写真に撮ってみる方法です。
たとえさまざまなインテリアコーディネートのテクニックを身につけても、いつも暮らしている空間の中では意外と見落としてしまうことは多いものです。そこで実際にドアを開けた位置に立って写真を撮ってみると、普段、見慣れて気が付かない所にも改善点が見えてきます。「ないほうがいい」と思うものを丸で囲んでみるなど、客観的に判断するにはとても有効です。
--人の視線に入る場所がフォーカルポイントとなるわけですね。ということは、家族やお客様それぞれにフォーカルポイントがあるということですか?
お客様が座る場所や家族にとってもそれぞれの定位置があると思います。そして人が動けば視線も動きます。廊下を歩けば視線が次々といろいろな方向に向かうように、移動したり立ち位置が変わったりすれば、フォーカルポイントも変わるのです。そのため場所ごとに検証する必要があります。
家族やお客様が集う場所、例えばリビングルームのドアを開けたとき、まず目に入ってくる場所はどこになるでしょうか。ちょうど両手を前にまっすぐ伸ばして、両手のひらの間隔を自然に60cmほど開いてみてください。その延長線上にある場所がフォーカルポイントとなります。
同じように家族やお客様が座る場所から視線に入るものを考えてみることも大事です。それぞれの定位置からは何が見えますか?
目に入るものはモノだけとは限りません。背景にも目を向けてみてください。あまり広くない部屋や廊下で、周り縁や巾木がくっきりと壁と天井、壁と床に境目を作ってしまっているときは、壁と天井を同じ色でつなげるようにすると、部屋がずっと広く見えます。
--フォーカルポイントがいまひとつスッキリしていないと感じながらも、そこに置いておきたいものもあると思うのですが・・・。
そうですね。例えば、リビングのドアを開けたとき、真っ先に目に入ってくるものが大きなテレビだったりしませんか。前述の「写真で自己診断」でも丸囲みをしましたが、テレビも含めて「フォーカルポイントに置きがちだけど、置かない方がいいもの」として下記のようなものが挙げられます。
とはいえ、テレビは配線の位置もあって場所を動かせない場合もあります。そのような状況でリフォームをするときは、ドアを入った位置からテレビに向かう視線を遮るように、ルーバー(羽板と呼ばれる細長い板を隙間をあけて平行に並べたもの)を作る方策が有効です。
置かないほうがいいものから目線をそらすのにもっと手軽な方法は、ルーバーの代わりにグリーンを置いたり、その近くに大きな花を生けたり、お気に入りの絵など目を引くものを置くことです。
空間のなかで自然に視線が行く場所が「フォーカルポイント」であるのに対して、このように見せたいものを造り込んで、視線を引きつける場所のことを「アイスポット」と呼んでいます。これはホテルのロビーなどでもよく見られるテクニックですが、大きな生花や絵画が飾られていれば、人の目線は自然とそちらに向かいます。
アイスポットをつくるときのポイントとしては、部屋の入口を入ったところから見える位置に印象的なものを置くこと、周囲に適切な余白を設けることです。目安としてはアイスポットになるものと余白の比率を1:0.5~1程度になるよう、周囲に余白を確保すると美しく見えるでしょう。
このように視線を引くものを適切なバランスで置くことで、自然とフォーカルポイントをずらすことができ、美観を損ねるものが気にならなくなるのです。
--細かい書類の束やリモコン・カレンダーなど、生活をしているとどうしても必要になるものはどうしたらよいのでしょう?
写真を撮ってみると、置き場所はここではないほうがいいよね、というものもたくさんあります。これは収納の話にも繋がりますが、散らからないようにするには、それらの正しい置き場所を決めていく、ない場合は作っていくことが大切です。結局、居場所の無いものたちが美観に悪さをしていくわけです。
それらの雑多なものは家の中にある見えない場所や目に付きにくいところを置き場所にするといいでしょう。そのような場所を私は「ブラインドゾーン」と呼んでいます。ポイントは、動線を考えてどこがブラインドゾーンになるかを見極めることです。
例えば、部屋の入口の扉のすぐ横はどうでしょう?扉から入ってくる時、人の視線は先程お話ししたフォーカルポイントに向かいます。扉の横は自然と目のいかない場所になるのです。
家の中を満べんなくキレイに見せる必要はないのです。ブラインドゾーンはちょっと気をぬける、息抜きゾーンと考えて、適したスペースを見繕っておくと、いざという時に気持ちが楽になります。
ちょっとしたことですが、今回お話ししたようなことを知っていると、居心地のよい素敵な住まいを実現しやすくなるのではないでしょうか。
――たしかにリフォームの本はたくさんありますが、設計的な視点で理論的に説明したものは少ないように感じてきました。一方、水越さんはご著書の中でも実践しやすいコツをわかりやすく説明されています。参考にできそうなポイントを自分の住まいと照らし合わせて、住み心地のいい家にしていきたいものです。
一級建築士。日本女子大学住居学科卒業後、清水建設(株)に入社。商業施設、マンション等の設計に携わる。1991年から6年間バンコクに滞在。1998年、一級建築士事務所アトリエサラを共同主宰。新築・リフォームの住宅設計からインテリアコーディネート、収納計画まで、トータルでの住まいづくりを提案している。著書に「40代からの住まいリセット術――人生が変わる家、3つの法則」「いつまでも美しく暮らす住まいのルール――動線・インテリア・収納」「人生が変わるリフォームの教科書」など。2022年11月に新刊「一生、片付く家になる!散らからない住まいのつくり方」を発刊。
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