新型肺炎でオフィス需給緩和が前倒しに
2020年04月08日
新型肺炎の影響で東京のオフィス市場にも変調の兆しが出てきた。感染症という「外圧」で就労環境が一変し、広さや立地などオフィスの在り方も見直されている。中長期的にオフィスの需給はどうなるのか。クッシュマン・アンド・ウェイクフィールド(C&W)日本ヘッドオブリサーチの鈴木英晃氏に方向性を聞いた。
―東京都心のオフィス市場は年初まで活況だった。
鈴木氏 都心のグレードAオフィスの空室率は1.6%と低く、実質的にほぼ全ての床が埋まっている状態だった。18年から20年にかけてオフィス床が大量に供給され市況は弱含むと言われてきたが、蓋を開けてみればIT関連など多様な企業の出店需要があった。最大の需要家はコワーキング事業者であり、彼らの出店攻勢で空室率が低く維持されたことが背景にある。
―オフィスの契約内定率も高止まりしている。
鈴木氏 ここ3年の内定率は8~9割と高い。18年に多くの床が供給されたが内部増床で消化され、空室が市場に出回らなかった。過去3年の需給は総じて堅調だったと言える。ただ将来的に空くことが決まっている「待機二次空室」を含めると、都心の空室率は約3%超と実際には上昇基調だった。待機二次空室は来年に集中するとみられており、年末頃から空室率と賃料が山を超えると予想していた。
―しかし新型肺炎の感染拡大で状況が一変した。
鈴木氏 新型肺炎でオフィスの需給動向が劇的に変わり、オフィスの賃料下落は避けられない情勢だ。感染の広がりを受けて企業が事業拡大を凍結するとともに出費を削るようになり、移転の検討やビルの内見を中止する事例が増えている。都心の空室率は2%以下と低く、すぐに悪影響は出ないが、空室率上昇と賃料下落の時期が年内に早まった可能性が高い。レントフリーの月数が増えて実質賃料が下がるという事例もすでに出ている。テナントの決定を後押しするためだ。事業環境が戻るとしても早くて年末だろう。年内はテナント誘致や契約は鈍るため、来年に多く出回る二次空室が消化されない可能性が高まっている。
―空室率はどの程度上がると考えられるか。
鈴木氏 来年と再来年のオフィス供給量はその前の3年に比べ遥かに少なく、空室率が劇的に上がることは考えにくい。現時点での需給予測では21~22年にオフィス床の供給量は減り、23年に増加に転じる。
―オフィスの売買市場についてはどうか。
鈴木氏 影響の度合いがより明確になるまで買いを控える向きが出てきた。先を読みにくく様子見の姿勢だ。取引量が減るのは第2四半期の半ば以降だろう。
―地方のオフィス市場はどのような状況か。
鈴木氏 地方はもともと床の供給量が少なく、東京よりも新型肺炎の影響を受けにくいが、製造業の景況が悪化し、リーシングの減速がみられる。オフィスよりもホテルやリテールの影響が深刻だ。訪日外国人客への依存度が高かった大阪・心斎橋では路面店舗の賃料がすでに下落している。ドラッグストアの出店が賃料上昇を牽引してきただけに落ち込みも大きい。
―APAC(アジア太平洋)全体ではどうか。
鈴木氏 APAC全体で見れば東京の状況は現段階でさほど深刻ではない。例えば上海はオフィスの大量供給と米中貿易紛争によるマクロ停滞が重なり、すでに空室率が19%程度に上がっていた。香港も民主化デモと新型肺炎が重なり足元の賃料が下落している。外需の依存度が高いシンガポールも打撃を受けている。
―新型肺炎がこの先、日本の景気にどう影響する。
鈴木氏 今回の不況はリーマンショック当時とは異質だ。前回は金の流れが滞ったのに対し、今回は人と物がないという過去に経験したことがない状況だ。SARS(重症急性呼吸器症候群)のように比較的短期に収まると言われるが、「短期」の定義が当初の数カ月から半年、1年と延びているのが気になる。複数のエコノミストは、金融システムの問題ではなく感染拡大を防ぐための景気後退であることを根拠に、終息すれば景気はV字回復すると見ているようだ。
―市場は完全には元に戻らないという見方もある。
鈴木氏 ホテル市場では訪日客の多い特定の物件に買いが集中し、価格上昇とキャップレートの低下につながっていた。訪日客数は中国人が押し上げてきたがこれには理由がある。中国は政治的・軍事的な理由で台湾や韓国への渡航を制限してきたし、香港には民主化デモがあった。このため消去法的に日本が目的地に選ばれた面がある。その意味では、訪日中国人の数が二桁成長を続けるというバラ色のシナリオは実現が困難になったかもしれない。
―シェアオフィスの市場はどうなる。
鈴木氏 急速な出店拡大の反動がすでに始まっているが、中長期的に需要は高まるだろう。テレワークが急速に広がり、企業らは都心に広いオフィスを借りる必要がないと気づき始めている。本社機能や就労場所を分散させる動きが広がるのは間違いない。
―東京五輪の延期が不動産市場にどう影響する。
鈴木氏 直接的には影響しないが、中止でなく延期という判断は経済にはプラスに働く。人々の心理には好影響があるし、海外から多くの人がくれば観光・宿泊を中心に産業が潤う。政府は60兆円規模の経済対策を検討しているが、経済を下支えする適切な措置を講じられればV字回復の目はある。
(提供:日刊不動産経済通信)
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