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特集 コロナ禍の地価

2021年03月25日

コロナ禍は今回の地価公示に大きな影響を与えた。特に飲食を中心とする店舗・ホテル需要の減退は、全国的な商業地の下落をもたらした。東京都の商業地は、23区全体で△2.1%(前年+8.5%)で、全ての区が上昇から下落に転じている。

都心商業地が下落する一方、都心から少し距離がある近郊の商業地は上昇を維持したケースが目立った。横浜市は+0.5%(+3.5%)。全18区中、12区で、上昇率は縮小したもののプラスを維持した。横浜駅周辺では、駅ビルの開業や再開発が進展している。在宅勤務や遠出の自粛などもあり、周辺住民が近場で日常の買い物をする需要が活発化した。

横浜エリアのオフィス集積地・みなとみらいがある西区では、+2.1%(+7.4%)の伸びを継続している。みなとみらいは、「どのビルも比較的新しく、東京都心と比べれば賃料は割安。オフィスの供給量は限定的で、賃料の値崩れもしにくい」(国土交通省不動産・建設経済局地価調査課)という特徴もプラス要因になっているようだ。「みなとみらいに比べると関内エリア(西区隣接の中区)に勢いがなくなった。空室率が上がっている」(同)という動きが部分的には出ているが、これはコロナの影響ではなく、関内駅近くにあった横浜市役所が馬車道駅近くへ移転したことによるものとみられる。

このほか、商業地で同様の傾向を示した場所に千葉県の房総4市がある。住宅需要が堅調だったことから生活必需品店舗の需要が高まり、上昇を維持。君津市は+2.2%(+5.3%)、木更津市+1.1%(+2.4%)、袖ケ浦市+1.7%(+4.1%)、市原市+0.8%(+3.2%)で、いずれも上昇幅は縮小したもののプラスとなった。

インバウンド需要が高かった大阪圏も、大阪市中心部が大きな打撃を受けるなか、中心部から少し距離のある北摂エリアや阪神間で上昇が継続した。なかでも箕面市+2.7%(+3.7%)と、芦屋市+2.4%(+7.6%)が2%以上をキープした。最も変動率が高かった箕面市は、北大阪急行の延伸で新駅が整備される。新駅予定地周辺では再開発事業が進んでおり、店舗やオフィスの新規需要で商業地の地価が上昇した。箕面市は新駅徒歩圏内の優良住宅地域で、利便性向上への期待から住宅地の地価が上昇した。

近郊の生活需要が地価を下支えしたのは住宅地も同様だ。住宅地の場合、さらに「高級住宅地」が含まれる。東京23区の住宅地は多くが下落し、全体で△0.5%(+4.6%)となるなか、港区+0.3%(+6.2%)と目黒区+0.3%(+4.1%)のみ上昇が継続した。高級住宅地を中心に環境・利便性が良い地点が多いこと、コロナ禍の影響が小さい高所得層が需要者の中心という特徴を背景に、両区は上昇地点が他に比べ多く残った。

大阪圏の住宅地は、大阪市全24区のうち、中心部の福島、中央、都島、天王寺、阿倍野、淀川、城東の7区で引き続き上昇したが、周辺の区は下落に転じた。北摂エリアや神戸市の灘区、東灘区、芦屋市の住宅地は引き続き上昇している。

用途別で、今回全体的にプラスを維持したのが工業地だ。牽引役は物流施設適地。在宅割合が高まったことで通販需要が急拡大し、通販業者や配送業者の商品・荷物保管場のニーズが高まった。沖縄・豊見城市の「豊見城9-1」は+29.1%(+32.1%)、糸満市の「糸満9-1」は+22.4%(+31.8%)の高い上昇を示した。このほか、福岡・筑紫野市の「筑紫野9-1」の+12.8%(+9.4%)、佐賀・鳥栖市「鳥栖9-1」の+11.1%(+18.1%)など、物流適地の上昇は地方部にもみられた。物流地以外の、製造業系の部品の工場地などは下落が目立っている。

20年の地価動向を、都道府県地価調査との共通地点をベースに半年ごとに分けて変動率をみると、20年は前半のマイナスが目立つ(表)。住宅地・商業地ともに、前半(20年1月1日~7月1日)は初の緊急事態宣言で全国的に経済活動が停滞したことから地方4市を除き下落となった。後半(20年7月1日~21年1月1日)は、宣言が解除され経済活動が再開。景気の持ち直しの動きが広がり、取引も回復し、大阪圏の商業地を除いて横ばいまたは若干の上昇に戻している。

東京23区の商業地は、前半△2.1%、後半△0.6%で、改善はみられるものの継続して下落している。新宿区は前半△1.5%、後半△2.0%、港区は前半△0.7%、後半△0.8%で、この2区は下落幅が拡大した。商業地の下落は「底を打った」とは言えず、21年1月からの緊急事態宣言以後の動向も含め、地価の先行きは見通しにくい状況となっている。

(提供:日刊不動産経済通信)

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