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特集 21年地価動向(4)・郊外部の中古住宅流通

2021年09月30日

東京都下エリアなど都心へ比較的出やすい郊外部では近年、都心部や新築物件の価格高騰に引っ張られるように、中古マンションの価格も上昇してきた。東日本不動産流通機構(東日本レインズ)がまとめた平均の成約価格データによると、東京都の23区と島嶼部を除いた多摩エリアの8月の成約価格は3097万円で、16年8月の2450万円から5年間で647万円(26.5%)上昇した。

その他のエリアでも上昇は目立ち、埼玉県の中央エリア(川口市、戸田市、蕨市、上尾市)は5年前から903万円(42.6%)アップの3025万円。神奈川県の県央エリア(座間市、大和市、綾瀬市、厚木市、海老名市、伊勢原市、秦野市)は670万円(46.8%)上昇し、2102万円となった。都心部の価格上昇と好調さが、郊外部へも波及してきている状況だ。

都下エリアについて、野村不動産ソリューションズ執行役員の木内恒夫・流通事業本部第三営業統括部長は「利便性の良い、エリアのシンボリックなブランドマンションを中心に好調」と話す。昨夏からの中古住宅市場全体の市況と同様に、買いのニーズが強く売却ニーズが弱いため、在庫が減り更なる価格上昇につながっている。

16年竣工のJR中央線・立川駅から徒歩2分の「プラウドタワー立川」は、分譲時の平均価格は7500万円前後だったが、足元では8000万~9000万円台での取引事例も生まれている。

価格上昇は築浅の高額マンションだけにはとどまらない。80年代に竣工したマンションの売買価格が16年時の3600万円から5年後に4300万円まで上昇した取引事例も出ており、中古マンションの価格上昇は全体的な傾向といえる。

小田急線沿線で店舗展開する小田急不動産の二本松敏・仲介事業本部仲介営業部営業企画グループリーダーは、感覚的な話とした上で「中古のマンションと戸建て、土地を合わせて、価格はここ数年間で1~1.5割程度上昇しているのではないか」とみる。小田急不動産は昨夏以降、成約件数が好調に推移し、今期(21年4~8月)の手数料売上は19年比で3割以上増えているという。

都下や神奈川県央エリアではマンションや中古戸建ての仲介に加えて、土地を戸建ての建売業者に仲介し建築後の販売を担う土地取引も多い。小田急不動産では好調な成約状況により、在庫は19年比で6割程度に減少。なかでも土地は3割程度と、好調さが際立つ。「建売業者の新築戸建てが好調で、以前は完成後まで販売が続くことも多かったが、今は着工前の青田売りがほとんど」(小田急不動産・二本松氏)。

また、郊外部ではハウスメーカーから土地を所有していない顧客の紹介も増えている。

エリアの需要層は30歳代と40歳代のファミリーで、一次取得者層が中心。地元や近隣地域の顧客がメインだが、新型コロナウイルス感染症拡大後は23区内に住んでいたシングルやDINKSの需要も増えたという。地盤の関西圏のほか、都下エリアでも5店舗展開する福屋不動産販売の小栁津裕矢・本部長は「リモートワークの実施で部屋数を増やすため、23区内から下ってくる人も増えた。都下エリアなら1部屋増やしてもそこまで価格が変わらないケースもある」と話す。

同じ50m2でも2LDKよりも3DKの方が人気で、部屋数重視の傾向が顕著だ。福屋不動産販売は20年下半期(7~12月)の業績が好調で、なかでも都下エリアは売上ベースで前年比5、6割増になったという。藤沢エリアでは、地元の実需に加えて近年はセカンドハウスや別荘の需要も増えてきている。

部屋数や広さ重視の傾向が戸建ての需要増につながっている。東日本レインズの集計によると、首都圏の中古住宅の成約件数をみると、足元の1年間(20年9月~21年8月)で前年同月比プラスとなったのはマンションで7カ月だったが、戸建てでは8月を除く全ての月で前年を上回った。

東京カンテイの井出武・上席主任研究員は「広さを求める動きは顕在化してきており、都下など郊外部の戸建てがその受け皿になっている可能性もある」とみる。リモートワークの普及や物件在庫の減少から、顧客の許容範囲が広がり、バス便も視野に入れる顧客も以前より増えてきた。築古や駅から遠いなどの理由で反響が少なく、1、2年間動かなかった物件が成約するケースも出てきている。

昨夏から好調な市況が続き、売却物件が出ればすぐに買い手が見つかるという状況が続いていたが、足元では買いの動きが少し鈍り始めているとの声も聞こえ始めた。「4月頃から買いの反響が鈍り始めている。価格が上がり過ぎて、一次取得者層がついてこれなくなってきている」(福屋不動産販売・小栁津氏)状況だ。

野村不動産ソリューションズの木内氏は「都心部は価格が高騰してもついてくる購入層はいるが、郊外部は価格上昇についてこれない人が徐々に出てきている。新築価格の上昇率が都心ほど大きくないため、新築物件に流れる層もいる」とみる。

価格の天井感が見え始め、じきに調整が入る可能性も指摘される。物件売却は大手流通会社を中心に徐々に動き始めているとの声も聞こえ始め、売却物件の数が出てくれば価格上昇も落ち着くと期待される。

(提供:日刊不動産経済通信)

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