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2016/09/14
年金制度改正、一元化へ。暮らしへの影響は?

厚生年金と共済年金が一元化

日本の年金制度は、家に例えると、公的年金だけだと2階建て、それに上乗せする年金制度を含めると3階建てとなりなす。1階部分は、日本国内に住む20歳以上60歳未満のすべての人が加入する「国民年金」。2階部分は、被用(会社員、公務員など)が加入する「厚生年金」、3階部分は会社独自の年金制度である「企業年金」と公務員独自の上乗せ制度である「年金払い退職給付」です。

年金制度の仕組み

※旧職部分は公的年金であったので廃止され、
代わりに「年金払い退職給付」が創設され、企業年金と同じ私的年金になった。

2階分部は以前、民間企業で働く人が加入する「厚生年金」と公務員や私立学校の教職員等が加入する「共済年金」の2種類ありましたが、2つの年金間にある格差の解消と被用者年金の安定化を目的に、平成 27年10月に厚生年金に統一されました。これを被用者年金の一元化と言います。

一元化後の厚生年金の被保険者は下記の4つの種別に区分されます。国民年金の第1号被保険者(自営業・大学生等)、第2号被保険者(会社員・公務員)、第3号被保険者(第2号被保険者の被扶養配偶者)と非常に似ていますので混同しないようにしましょう。

<厚生年金と国民年金の被保険者>

国民年金(1階部分) 厚生年金(2階部分)
第1号被保険者 自営業・大学生等 民間被用者
(会社員・国家公務員以外の公務員等)
第2号被保険者 会社員・公務員 国家公務員
第3号被保険者 第2号被保険者の被扶養配偶者 地方公務員
第4号被保険者 私立学校の教職員

一元化による影響

被用者年金の一元化は、公務員、私立学校教職員が加入していた共済年金に大きな影響を与えました。では、共済年金制度の中で変更・廃止された主な項目をご紹介します。

(1)被保険者の年齢を制限
私立学校教職員共済を除く共済年金は、被保険者(=加入者)に年齢制限はありませんでした。これが「70歳になるまで」と年齢制限が設けられました。

(2)未支給年金の給付範囲を縮小
未支給年金とは、年金受給者が死亡した場合に本人が支給を受けることができた年金のことです。その未支給年金の給付の範囲は、遺族(死亡した者と生計維持関係にあった配偶者、子、父母、孫、祖父母)または遺族がいないときは相続人と規定されていましたが、一元化以降は、死亡した者と生計維持関係にあった配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹または三親等内の親族に縮小されました。

(3)障害年金給付に保険料納付要件が適用
共済年金には障害年金給付に際して保険料納付要件はありませんでした。統一後は厚生年金と同じ下記の保険料納付要件が適用され、これを満たさなければ障害年金は給付されません。これはかなり厳しい変更です。

保険料納付要件
初診日の前日において、次のいずれかの要件を満たしていることが必要です。
(1)初診日の前々月までの保険料納付済期間(保険料免除期間も含む)が、被保険者期間の2/3以上あること
(2)上記の保険料納付済期間を満たしていない場合でも、初診日が65歳未満であり、初診日のある月の前々月までの1年間に保険料の未納が無ければ年金給付が受けられるという特例がある。平成38年4月1日前に初診日がある傷病に適用される。

(4)遺族年金の転給が廃止 
共済年金では、遺族共済年金を受給していた人が資格を失った場合は次の順位の人がその資格を引き継ぎ、それが遺族の存在する限り続きました。これを転給と言い、代表的な官民格差の1つと言われていました。統一後は、最初に資格を得た人への支給だけで終了します。なお、統一前(平成27年9月以前)に転給された遺族共済年金は経過措置により引き続き支給されます。転給の廃止は老後設計に大きく影響しますので、共済年金加入者は特に注意が必要です。

(5)保険料率は18.3%に統一
共済年金の割安の保険料率が18.3%に統一されます。これも官民格差の代表と言われ続けていたものです。毎年0.354%引き上げられ18.3%になるのは、厚生年金は平成29年、公務員共済は平成30年、私立学校教職員共済は平成39年です。ちなみに平成23年度の保険料率は、私学共済画13.292%、公務員共済が16.216%、厚生年金は16.766%でした。

(6)職域部分の廃止
公的年金は「国民年金+厚生・共済年金」の2階建で構成されているはずですが(図-1参照)、実は共済年金は3階の「職域部分」も含んでいました。つまり、公的年金保険料として納付した保険料が、共済年金は「国民年金+共済年金+職域部分」、厚生年金は「国民年金+厚生年金」に充当されていた訳です。これが官民格差の代表として問題視されていた理由です。被用者年金の一元化に際し職域部分は廃止されました。  

なお、一元化以前に共済年金に加入していた人には、加入期間に応じた職域部分が支給されます。また既に老齢共済年金を受給している人には従来どおり支給されますが、特別支給の退職共済年金(=65歳未満の人が受給する退職共済年金)受給者は除きます。

(7)年金払い退職給付の創設
廃止された職域部分の代わりに、民間企業の「企業年金」に相当する年金として「年金払い退職給付」が創設されました。「年金払い退職給付」は、厚生年金保険料とは別に労使折半で保険料を拠出して積み立てる年金です。保険料率は1.5%を上限とします。共済年金に加入していた人は、この分の保険料が加わるので負担が増えます。

(8)在職老齢年金の支給停止
60歳定年後も働き続けるのが一般的になりましたが、その際に気になるのが在職老齢年金の支給停止です。在職老齢年金とは、年金を受給できる60歳以上の人が一定の要件を満たして60歳以降も働くと、年金の一部または全部が支給停止されるというものです。計算式は65歳未満と65歳以上の2通りがあります。

共済年金と厚生年金が一元化されたことにより、在職老齢年金の一部・全部が支給停止となる人や支給停止が解除される人が出てきました。支給停止の金額が大きい場合は、激変緩和措置が適用されます。

(9)女子の支給開始年齢の引き上げは「経過措置」として残る
私学共済では、60歳台前半の特別支給の退職共済年金の支給開始年齢が男女の区別なく同じスケジュールで行われています。これは一元化後も経過措置としてそのまま残ります。

事務処理は今まで通り

被用者年金が一元化されたといっても、加入者の保険料の徴収や年金給付の裁定、年金の支給等は今まで通り日本年金機構や各共済組合が行います。

リタイアメントプランの手直しが必要に

ここまで被用者年金の一元化による主な変更をご紹介しました。老後の収入の柱となる年金については「わからない」では済まされません。疑問や不明なことは日本年金機構や各共済組合に問い合わせる、あるいは金融機関の年金相談や各種セミナーなどに参加する、専門家に相談する、などで明確に理解するよう心がけましょう。

特に共済年金加入者は一元化の影響が大きいので、すでに作成しているリタイアメントプランの手直しや作り直しが必要になるでしょう。また、今後も社会保険制度は「高齢者にも応分負担を」ということで改正が続くと思われます。長い老後を平穏に過ごすためには、今後の改正にも注目して適宜リタイアメントプランの見直しをすることをおすすめします。

執筆者:大沼恵美子

専業主婦の身から外貨預金に興味を持ったことを機会にファイナンシャル・プランナーの勉強を始め、2000年にCFP (FPの上級資格)の試験に合格。2002年に独立開業し、個人向けにリタイアメントプラン、年金、貯蓄、賃貸経営などの相談業務を行う。また各種セミナーの講師も担当。1級ファイナンシャルプランニング技能士、福祉住環境コーディネーター2級、年金アドバイザーなどの資格を持つ。
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