ノムコム60→ > 老後の暮らしとお金のコラム > 知らないと損をする相続・贈与対策 > 相続税を減らす生前の不動産対策【建物編】
相続になったときの建物評価は、実際にかかった建築費用ではなく、固定資産税評価額で評価をされます。固定資産税評価額とは、市町村の税務課(東京都23区では都税事務所)にある固定資産課税台帳に登録してある土地や建物の評価額のことです。固定資産税評価額は国が定めた「固定資産評価基準」に基づいて市町村が決定します。ちなみに土地は、国税庁が定めた路線価にもとづいて評価をし、路線価の定めがない地域は倍率方式により評価します。
一般的には、評価額は土地については公示価格の70%、建物については建築費の50~70%とされていますが、現実の評価はこの割合以下になることが多く、建築費の半分以下になることが多いといえます。
建物を賃貸にしていれば、貸家となり、借家人が存在する場合の家屋の評価額は、賃借人に一定の権利があるものと考えられ、借家権割合30%を引くようにします。そのため、固定資産税評価額の70%として評価されることになります。
自宅を建てる場合に、誰の名義にすればいいかというご相談を多くの方からいただきます。住む方の状況にもよりますが、相続税の節税という点から考えると、「親の現金」で「親名義で建てる」ことが節税になります。
二世帯住宅を建てる際など、ローンは子どもの方が借りやすいからなどという理由で親の土地に子ども名義で建ててしまう方も多いのですが、これは親の節税にはなりません。親の現金を使うことに抵抗を感じる場合もあるでしょうが、節税対策という点では、現金の余裕がある場合は建物代金に使うことで節税になります。
建物の評価の仕方は、固定資産税評価になるという特徴を活かすことで、借入しなくても節税効果を生むことができます。自宅でも現金を建物に変えることで、固定資産税評価になるので、資産評価は半分以下に圧縮できるということです。賃貸住宅であれば借入が定番となっていますが、借入しなくても、現金で支払うようにすると、固定資産税評価のさらに70%となるため、結果的には建築代金の40%程度になります。返済の不要な節税対策となるのです。
【実例】
土地を売却して賃貸住宅に資産組み換えを行うことで相続税を節税できたKさんの場合
Kさん:60代男性 相続人:妻+子ども2人
Kさんが相続した駐車場は、以前は満車となり稼働率もよかったのですが、最近は空きが目立ってきました。今では固定資産税を支払う程度の収入にしかなりません。その土地にアパートを建て、不動産収入を得ることも検討しましたが、周辺の賃貸市場が飽和状態にあり、リスクが高いと判断。駐車場を売却をして資産組み換えをすることを提案しました。
駐車場は角地で、面積は200坪ほどあります。整形地で道路状況も良く、建て売り住宅に適しています。そうした好条件が幸いし、ほどなく売却ができました。
駐車場の土地の相続税評価は7,500万円でしたが、売却することで1億円になりました。相続税評価額以上の金額で売却できたため、売却代金を現金のまま保有していると、当初よりさらに相続税が上がってしまいます。そこで節税のための対策として、自宅の敷地の半分に賃貸住宅を建てることにしました。
◇駐車場売却金で賃貸住宅を建てたことによる節税額◇
[対策前 財産評価3億1,150万円 相続税5,002.5万円(現行法)]
1.駐車場の土地評価額は7,500万円。
2.評価額7,500万円の土地を1億円で売却。仲介料、譲渡税など支払い後の手取りは7,783万円に。
3.土地の売却代金の手取り7,700万円で賃貸住宅を建築。諸費用が700万円かかり、建物代金の7,000万円は2,800万円(建築代金の40%)と評価され、賃貸にするとさらに1,960万円(貸家評価70%)の評価に。また土地が450m2で路線価が10万円の場合、貸家建付地の評価減額は810万円(借地権60%)となり、結果的に財産評価額は2億4,800万円になりました。
[対策後 相続財産2億4,800万円 相続税3,100万円(現行法)]
【節税額】1,902.5万円
駐車場のままでは妻やお子さんに多額の相続税がかかるところでしたが、売却してその代金で自宅の敷地に賃貸住宅を建てたことにより土地も建物も評価が下がりました。また、すべて自己資金でまかない"借金しない節税対策"を施したことで、後々不安の残らない資産組み換えに成功したのです。
公認 不動産コンサルティングマスター、相続対策専門士。日本初の相続コーディネーターとして1 2000件以上の相続相談に対処。感情面、経済面に配慮した“オーダーメード相続”を提案し、家族の絆が深まる「夢相続」の実現をサポートしている。NHK「あさイチ」」、TBS「はなまるマーケット」、フジ「とくダネ」などに出演。新聞、雑誌の取材も多数。「相続税を減らす生前の不動産対策」(幻冬舎)など著書多数。
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