「可変性のある間取り」とは、家族構成やライフステージの変化によって、住まい方を変えることができる間取りのことです。近年では住宅の性能が向上し、建物の寿命も長くなっています。住まいそのものは長く住めるようになっているのに、間取りがライフスタイルに合わないからと住みかえを迫られることは避けたいものです。
今回は住む人のニーズに合わせて住まい方を変えられる「可変性のあるマンションの間取り」について、ポイントを解説します。
月日を重ねるうちに、家族のライフステージには変化が訪れます。例えば結婚、出産、子育て、子どもの独立、親との同居、仕事のリタイアなど、その変化に伴い家族構成や生活スタイルなどもおおよそ10年ごとに大きな変化が訪れると言われています。
一方、住宅を購入する人の動向を見ていると、間取りを選ぶ際に「子どもの数だけ個室が欲しい」など、「今」必要な個室数にこだわる人も多くいます。しかし、子どもが独立して家族の人数が少なくなった時に、住戸内が細かく区切られている間取りは「使いにくい」と感じるかもしれません。とはいえ10年先、20年先の暮らしをイメージして間取りを選ぶことはなかなか難しいですよね。そのため、将来的に空間をフレキシブルに使える可変性のある間取りを選ぶことをお勧めします。
ライフスタイルの変化に合わせて空間の使い方を変えることが可能な間取りのチェックポイントは以下の2点です。
・引き戸を多用している
・間取り変更リフォームがしやすい仕様になっている
「部屋と部屋を仕切る」ために「壁」や「開き戸」を設けることが一般的ですが、その部分に「引き戸」を設けると、隣り合う空間を柔軟につなげたり区切ったりしてその時々のシーンに合わせて対応できるスグレモノの建具です。
引き戸は開き戸のように前方にスペースを必要としないため、空間を有効に利用できるという点でも、今そのメリットが見直されてきています。引き戸を多用した間取りなら、間取り変更リフォームをしなくてもその時々のライフスタイルに合わせた暮らしがしやすくなるでしょう。
一方、長く住んでいるうちに、例えば水まわりの位置を変えたいといった、大きく間取りを変えるリフォームをしたいと思うこともあるでしょう。そのような時に対応できるよう、そのマンションがリフォームしやすい仕様になっていることも大切なポイントになります。
それでは早速、具体的な間取りの例を見ていきましょう。
【図1】はマンションでポピュラーな田の字プランですが、LDと隣り合う洋室(2)の間に3本引き戸を設けています。この3本引き戸を閉めれば洋室(2)は個室として使用可能です。またこの戸を開けることでLDと洋室(2)を合わせて17帖の広い空間として使用することも可能になります。
子どもに個室が必要な時期はこの引き戸は閉めて子ども部屋として使い、子どもが独立した後は、引き戸を常に開けておき、広いリビング・ダイニングとして使うこともできます。
【図2】は「マンションでよく見かける間取り4タイプのメリットと注意点」回でも紹介した間口が広い「ワイドスパン」の間取り例です。間口が広いため、バルコニーに面して3室(洋室+LD+洋室)設けることが可能となっていますが、LDと両隣のそれぞれの洋室の間が引き戸になっているため、戸を開け放せば合わせて21.5帖もの大空間として使用することが可能になります。
子どもが二人いるファミリーの場合、このバルコニーに面した2つの洋室を子どもの成長に合わせて使うことができます。ライフステージ別の使い方例を挙げてみましょう。
・幼年期(赤ちゃんから児童期まで)
子どもはまだ親と一緒に寝ると想定。まだ机も必要なく、一室はおもちゃを置いてプレイルームとして使い、一室はリビングとつなげて家族のスペースとして広く使います。
・児童期(小学校入学から青年期まで)
勉強机やランドセル置場が必要になりますが、リビング学習が向く時期です。洋室のうち1室には机を並べて兄弟の学習スペースとして使い、LDとの間の引き戸は常に開けておき、目が届くようにします。もう1室には2段ベッドをいれて兄弟の寝室とし、就寝時には引き戸を閉めます。
・青年期(12~13歳以降)
個室を与えても良い時期になります。LD横の2つの洋室をそれぞれ個室として与えます。思春期を迎えるため、引き戸は閉まったままで使うことが多くなるでしょう。
・子独立期(高校卒業~)
子どもが独立したあとは、引き戸を開けて家族のスペースとしてLDと一体に使ったり、夫婦それぞれの趣味の部屋、もしくはそれぞれの寝室として使用してもよいでしょう。
このように、引き戸を多用した間取りであれば、子どもの成長に合わせた空間の使い方をすることもできます。大がかりな間取り変更リフォームをしなくても、ストレスを抱えることなく住み続けることができるでしょう。
次に、間仕切りを取り払ったり、水まわりの位置を変更するような大がかりなリフォームに対応できるマンションのポイントを挙げます。費用はかかりますが、その時の暮らしに合う理想の空間にすることができるでしょう。
・二重床、二重天井になっていること
二重床とは、床下に配管類を取りまわせる空間を確保した造りをいい、二重天井とは、天井裏に空間があるような造りを言います。その対義語は「直床(じかゆか)」「直天井(じかてんじょう)」です。目に見えない場所ですが、天井裏や床下に空間があると、大がかりな間取りの変更や水まわりの位置を変えたい時などに対応がしやすくなります。マンションによって造り方は異なり、水まわりの床下のみ空間を設けているケースもあります。その場合でも水まわりの設備の位置をあまり動かさなければリフォームは可能です。
・室内に梁や柱が突出していないこと
間取り変更を行う際に、意外とネックになるのが梁・柱などコンクリートでできている構造躯体です。例えば2つの部屋を一つに広くしたいと思っても、部屋同士の境目付近の天井に梁が通っていると、一つの部屋にした時に天井の中央にでっぱりが出て気持ちのよい空間になりません。
【図3】は専有面積60m2、2LDKの間取りです。LDの隣にある洋室(2)は3本引き戸を閉めて個室として使うことが可能です。将来的にこの3本引き戸を取り払い、洋室(2)とLDと一体化させようと考えたとき、もし天井のCの位置に梁が通っていると、引き戸を取り払ったあとに天井にでっぱりが目立ち、部屋としての一体感が損なわれます。実際にはこの間取りではAとBの位置の天井に梁が通っており、Cの部分には梁はありません。従って、LDと洋室(2)を一室にするリフォームはしやすいと言えます。
マンションの柱や梁、壁などコンクリートでできている部分は共有部分にあたり、勝手に削ったり孔を開けたりすることはできません。部屋のどの位置にそれらがあるか、将来的に行う可能性のある間取り変更の邪魔にならないかどうかチェックしておくとよいでしょう。
・排水管や給水管などがコンクリートの躯体から分離された構造になっていること
築年数の古い建物の中には、上下水道やガス管などの設備配管類をコンクリートの床や壁などに埋め込んでしまっているものもありますが、そのような造られ方をしているとリフォームで水まわりの位置を変更することが難しく、かつ設備配管類が老朽化しても交換ができません。
一方、近年では、スケルトン(柱・床・天井・梁などの構造部分)とインフィル(住戸内の内装や設備の部分)を分離して造ったり、共用の設備配管類を外廊下やバルコニーなどの共用部分に集約するスケルトン・インフィルを採用しているマンションもあり、いずれも設備配管類の点検・交換、水まわりの位置変更リフォームがしやすいというメリットがあります。スケルトン・インフィルは2000年頃から見られるようになった比較的新しい工法で、日本ではまだ供給数は多くありませんが、もし出会いがあれば見つけものかもしれません。
家族のライフステージに合わせてマンションを買いかえればよいと考えている人は、マンションの可変性についてはあまり考えなくてもいいかもしれません。しかし、住んでいるうちに愛着がわいて長く住みたいと思うようになる可能性もあります。間取りがライフスタイルに合わなくなったときに、可変性がある間取りであれば、意に反して住みかえを余儀なくされることもないでしょう。購入前にはぜひ「間取りの可変性」についても確認してみてください。
住まいのアトリエ 井上一級建築士事務所主宰/一級建築士/インテリアプランナー
総合建設会社の設計部で約14年間、主にマンションの設計・工事監理、性能評価などを担当。2004年の独立後は生活者の視点から「安心・安全・快適な住まい」「間取り研究」をテーマに、webサイトでの記事執筆、新聞へのコラム掲載、マンション購入セミナーの講師として活動。
著書に「住宅リフォーム計画」(学芸出版社/共著)「大震災・大災害に強い家づくり、家選び」(朝日新聞出版)などがある。夫と子ども2人との4人暮らし。
住まいのアトリエ 井上一級建築士事務所 http://atelier-sumai.jp/
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