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#マンション構造のヒミツ

2018.06.28

「100年マンション」は本当に100年もつのか?

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マンションは身近な存在ですが、その中身や機能については知られていないことが意外と多いものです。快適な生活を叶えるマンションは、どのような背景や造り方でできているのでしょうか。その中身について知ることで、マンション選びや、いっそう充実した暮らしに役立てていただけることと思います。

第1回となる今回は「100年マンション」について考察します。近年、販売にあたって「100年マンション」や「100年コンクリート」などとうたうマンションが見られます。「鉄筋コンクリート造(RC造)」の建物の寿命は、いったいどれくらいなのでしょうか?コンクリート自体の耐久性と、その他の要素からみてみましょう。

長期にわたり安全を確保するにはコンクリートの質が大切

分譲マンションで最も多く採用される構造形式が「鉄筋コンクリート造(RC造)」です。圧縮する力に対して強いコンクリートと、引っ張る力に強い棒状の鋼材(鉄筋)を、互いのメリットを生かして組み合わせた構造で、19世紀半ばにフランスで発明されました。堅牢で耐久性や耐火性、また遮音性に優れますが、日本では100年以上に渡って使い続けられたRC造の建物はありません。

産業革命遺産のひとつつとして世界遺産に登録された、通称「軍艦島」に現存するRC造の集合住宅は、1916年完成。100年以上の建物ですが、人が住まなくなってから40年以上が経ちます。「100年マンション」というときは、軍艦島の建物のように「崩れずに建っている」ことを意味しているわけではありません。「居住者がいて、安全に不自由なく住み続けられる」ことが求められます。

安全に住むためには、まず建物の骨組みがしっかりとしていなければなりません。それには柱や梁に使われる、鉄筋コンクリート自体の品質が重要です。コンクリートは固まると同じように見えますが、その品質は一定ではありません。

コンクリートは基本的に、セメントに水を加えたセメントペーストを接着剤として、骨材と呼ばれる砂や砂利などを混ぜ合わせてつくられます。セメントと水が化学反応を起こしてガラス質の結晶をつくり、これが砂や砂利を接合して固まるのです。使われる骨材の種類や、含まれる水の量によって、コンクリートの硬さや強度が異なってきます。

さらに、コンクリートはプラスチックのような工業材料とは異なり、工事の仕方や環境など、さまざまな要件が絡み合ってつくり出されます。

流動性のある「生コン」がコンクリートミキサー車で工事現場に運搬され、ポンプによって鉄筋を納めた型の中に圧送され、人力によって鉄筋や型の隅々まで充填する作業が行われます。工事期間中の気温や湿度、天候もさまざまです。現在では要所でのチェックが厳しくなっているとはいえ、品質管理が難しいことに変わりありません。

かつて1970年代には、質の悪いコンクリートで建物や高架橋などが急いでつくられた結果、短期間のうちにコンクリートが劣化して社会問題になったことがありました。

例えば、骨組みをつくるとき、コンクリートを型に流し込みやすくするために所定の量より水を多く入れると、化学反応で硬化しても、空隙が内部に多く含まれたコンクリートになります。そうすると、強度や耐久性の面で性能が低くなり、劣化が早く進んでしまいます。

また、骨材に塩分を含んだ海砂が使われるとコンクリートの性質が変わり、内部に入れられた鉄筋が腐食してしまう例も見られました。これもやはり、コンクリートのひび割れや強度不足を招き、建物の耐久性を下げる要因です。

具体的な基準が定められているコンクリート

鉄筋コンクリートの品質を確保するための技術的な指針には、次のような指針があります。まず、コンクリートの強度。強度は、ニュートンという単位を使い、N/mm2という値で表示されます。1N/mm2とは、最大で1平方メートル当たり100トンまで耐えられる強度をもつことを意味します。

日本建築学会の定める基準では、65年は大規模修繕が必要ない一般的な建物では24N/mm2に対して、100年は大規模修繕が必要ないとされる建物では30N/mm2以上が示されています。

また、コンクリートの強度は、水の量を少なくすることで高まります。セメントに加える水の量の割合が、一般的な建物で使用されるコンクリートでは50~60%程度のところ、100年大規模修繕の必要がないとされるコンクリートでは50%以下とされることが多いようです。

そして、鉄筋の上にコンクリートが覆う「かぶり厚さ」について、品質確保促進法の劣化対策等級3で定められる数値を確保することが求められます。

特定のマンションのコンクリートの強度などを知るには、「設計図書」を閲覧します。新築マンションではモデルルームに置いてあり、中古物件の場合は仲介業者に依頼すれば見せてもらえるはずです。

適切な素材を選び、少ない水量の固い生コンを使い、コンクリートを型に流し込むときには内部の空気や水を追い出すように叩くなどして密に固め、成型後に乾燥を防ぐよう養生されたコンクリートは黒っぽくなり、表面にガラス質の層ができ、ひび割れを起こす可能性は低いです。

こうした密実で固いコンクリートでは、内部に水分が入りにくく、丈夫で長持ちします。外部の気候条件やメンテナンスの具合にもよりますが、条件が揃えば100年は安全に使えるでしょう。

長く住み続けるには設備更新のしやすさも重要

冒頭で「不自由なく住み続けられる」ことが100年マンションの条件と書いたのは、マンションの老朽化では、骨組み自体が劣化する進み具合に加えて、給排水や設備の劣化が早いためです。

一般的な給排水管などの配管設備の寿命は、25~30年といわれています。分譲マンションの黎明期には、配管をコンクリートの中に埋め込んでしまう建物もありましたが、更新やメンテナンスが困難です。

しっかりとした構造躯体であることに加えて、設備や内装を分離したスケルトン・インフィルという工法(SI工法)で計画するほうが、100年マンションでは有効です。

具体的なスケルトン・インフィルという工法の例をあげると、天井と床を2重構造にして床下に給排水管、天井裏に配線を回すことなどがあります。こうした仕様とすることで、設備の更新がしやすく、間取りが変更しやすいなど、ライフスタイルの変化に合わせて柔軟に対応することができます。

「100年マンション」は、設計段階からの計画や仕様、確実な工事が重要であることがお分かりいただけたでしょうか。もちろん、定期的なマンション全体での修繕など、適切なメンテナンスも、長期にわたって美観や機能を保つには不可欠です。

一戸建てに比べて規模の大きくなるマンションは街の風景を形づくるため、マンションができるだけ長く、健全な状態で住まれ続けるのは、居住者だけでなく、周辺環境にとっても好ましいことです。100年後のマンションの姿と街並みを想像してみると、マンション選びの視点が変わってくるかもしれません。

加藤純(かとう・じゅん)

加藤純(かとう・じゅん)

1974年生まれ。建築ライター・エディター。出版物やWEBコンテンツ等の企画・編集・執筆を行い、意匠・歴史・文化・工学を通して建築の奥深さを広く伝える。1997年東京理科大学工学部第一部建築学科卒業、’99年同工学研究科建築学専攻修士課程修了。株式会社建築知識(現・エクスナレッジ)月刊「建築知識」編集部を経て、2004年独立。著書に『日本の不思議な建物101』(エクスナレッジ)、『「住まい」の秘密』<一戸建て編><マンション編>(実業之日本社)など。

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