マンション価格の高騰が続いている。不動産経済研究所のデータを見ると首都圏の新築マンション価格は2013年から上昇を始め、最近になって上昇率は鈍化しているものの、いまだピークを迎えたとは言えない状況だ。記念すべきコラムの第1回は、この背景とこれからの展開について考察してみることにしよう。
巷では「2020年に控える東京五輪の前後に、マンション価格が下落する」という予測が流れており、なかには「暴落する」とまで言う説もある。下落の程度はさておき、上昇を続けるマンション価格が近い将来にピークアウト(頂点に達してそこから下落)するという見方は、業界でもそれなりに有力な説と受け取られているフシはあるが、その根拠のひとつとなっているのが人口減少である。
そもそも、2020年前後にマンション価格が下落に転じる説が、まことしやかに流布されはじめたきっかけの一つに、2014年3月に東京都が発表した人口予測がある。当時の予測では、東京都の人口は2020年にピークアウトすることになっていたのだ。人口が減少すれば住宅需要も減少して価格が下がるという理屈から、2020年価格下落説が沸き上がるようになったわけだ。ちなみに、東京都は2017年3月に人口予測を更新し、都人口のピークは2025年に5年後倒しになっている(図1)。
人口減少以外にも2020年価格下落説の根拠として「五輪関係の建設特需がなくなり建築費相場が下落する」とか「アベノミクス初期の円安で外国人が爆買いしたマンションが一斉に売り出されて相場が暴落する」とか、語られていることはある。
だが、五輪特需は単年で見れば官民合わせた国内建設需要の1%にも満たない規模でしかなく、さらにそれがなくなるのはあらかじめわかっていることだ。建設業界として建築費相場が暴れるような事態は当然回避すべく動くだろう。
また、外国人にとって海外不動産購入は概ね投資目的であり、世界中の不動産が投資対象となる。そのなかで東京のマンションの特徴は、諸外国の都市と比べて値上がり率が低く、運用利回りが高いこと。短期の値上がり益狙いならば東京を選ぶ合理性は低く、賃料収益を目的とした投資が主流と考えたほうが自然だろう。
したがって、価格相場が暴落するほどの「一斉売り」が起こるとは考えにくいのだ。
そんなわけで、筆者は2020年価格下落説には懐疑的なのだが、とはいえ人口減少によって中長期的に住宅需要が減退していく未来が避けられないのは事実だ。リーマンショックのような一般には予期できない経済危機を除けば、今後のマンション価格を見立てるうえで確実に影響を及ぼす要素が、人口減少であることは間違いない。そして東京都の人口予測が示唆するのは、マンション価格が2極化する未来だ。
一般にモノの価格は需給バランスで決まり、マンション価格も例外ではない。そこに住みたいと考える人が多い(=需要が多い)好条件の住宅ほど、価格は高く設定される。新築マンションは価格未定で広告や集客がスタートすることが多いが、事業者はその段階でモデルルーム来場者におおよその予定価格帯などを伝えて反応を見ている。そして、買ってくれそうな人が多ければ正式な価格を強気に設定して、できるだけ総売上を大きくしようとしているわけだ。
中古マンションの値付けも同様で、同地域の取引事例などを参考に、引き合いが見込めそうな範囲でなるべく高く売値を設定するのが一般的だ。また、中古の場合は、同地域の新築価格より少し安めに設定することで、その地域に住みたいが新築には手が届かないという人のニーズを取り込むという考え方もできる。
それゆえ、新築価格が上昇トレンドにある地域は、つられて中古価格も上昇しやすくなる。
要は、新築も中古も、そこに住みたいと考える人の多さ=住宅需要が、価格決定の大きな要因となるわけだ。
マーケット全体の住宅需要は人口の絶対数にほぼ比例すると言って差し支えないだろう。東京都の人口は最新の予測では2025年にピークアウトすると前述したが、図1)を見ると都全体では2025年がピークだが、都区部では2030年となっている。また、この予測でより着目すべき点は、予測人口の絶対数だ。
たとえば都区部の2045年の人口は930万人と予測されているが、この数字はすでに都内のマンション価格上昇が始まっていた2015年の人口(927万人)を上回っている。つまり、都区部においては人口がピークアウトする2030年から15年が経過しても、現在と大差ない住宅需要が存在することになる。
住宅の需給を考える場合の「供給数」は、新築の供給数でなく累積の住宅の数(ストック数)を見る必要がある。残念ながら東京都の住宅ストック数の将来予測データはなく、現時点では人口(世帯数)の増加と歩調を合わせるように住宅ストック数は増え続けている。
このまま人口がピークアウトした後も住宅ストック数が増え続ければ、現在とほぼ同等の住宅需要が予測される2045年には、大幅な住宅供給過多によって相当に価格が下落していても不思議ではない。
しかし、住宅の建設は行政による許可が必要な事業であり、現在でもすでに空き家の増加が問題視されていることからも、今後、人口の推移に応じて住宅が増えすぎないよう何らかの施策がとられる可能性は高い。となれば、2045年に住宅の需給バランスが今とそう大きくは変わらないことも十分ありうる。
また、図2)を見ると同じ都内でも、エリアによって人口のピーク到達時期が数年~十数年違うことがわかる。再開発が進む湾岸エリアを抱える江東区はピークが2035年と都区部平均より5年遅いし、千代田区・中央区・港区の都心3区は、2040年に至っても人口が増加し続けていると予測されている。
そして当然だが、これらの区の人口がピークアウトして絶対数が現在と同水準まで減るのはさらに先になる。
都心3区+江東区の人口がピークから現在の水準に戻るのに都区部平均と同じく15年程度かかるとすれば、江東区は2050年、都心3区は2055年以降と、今から30年以上たっても現在と同等の住宅需要が存在することになる。
つまり、最も長くマンション価格が下がりにくい状態が続くのが都心3区で、それに次ぐのが江東区と予測できるわけだ。
また、全国の人口推移はすでに減少局面にあり、住宅需要も今後減少する一方であることを考えると、都心3区に限らず、いまだピークを迎えていない都区部のマンションとそれ以外とで価格の2極化傾向が当面強まっていくことが想定される。
ここまで人口減少の側面から将来的なマンション価格の下落の可能性を探ってきたが、多くの人にとって今後のマンション価格を見立てる目的は、できるだけお得に購入できるタイミングを見極めることにあるはずだ。
本コラムでは、価格推移の想定には人口(≒住宅需要)がピークアウトする時期より、ピークアウト後、現在と同水準まで減少する時期を見定めることが重要だとお伝えしてきた。ただ、一方で、マンション購入のタイミングを測るのに価格推移ばかり重視するのはいかがなものか、とも実は思っている。
たとえば都区部がそうだが、住宅需要が今より減少する時期が20年以上先と想定された場合、人口減による価格下落が始まるころには当然だが20歳以上、年を取っていることになる。
マンションを「お得に買うこと」は手段であり、住宅購入の目的は本来「生活の質を高めること」であるはずだ。
人生が有限であることを考えれば、手段を重視するがあまり、新居で暮らすメリットを享受できる期間が20年以上短縮された人生は、はたして目的にかなうのか。そうした視点も、マンション購入のタイミングを計るうえで大切ではないかと思うのだ。
住宅ライター
1990年、京都大学工学部卒業、株式会社リクルート入社。2005年より住宅情報誌「スーモ新築マンション」「都心に住むbySUUMO」等の編集長を10年以上にわたり務め、2016年に独立。現在は住宅関連テーマの企画・執筆、セミナー講師などを中心に活動。財団法人住宅金融普及協会「住宅ローンアドバイザー」運営委員も務めた(2005年~2014年)。株式会社コトバリュー代表
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