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#マンション構造のヒミツ

2020.01.28

地震対策、「耐震」「免震」いろいろ聞くけど、どう違う?

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「地震大国」と呼ばれ、巨大地震の起こる可能性がどこでもある日本では、堅固に見えるRC造(鉄筋コンクリート造)のマンションでも地震対策がとられています。その基準はどのように定められているのでしょうか。また、耐震や制震、免震という言葉の意味や違いは何でしょうか。安心できるマンションで暮らすために、地震対策を確認するポイントを知っておきましょう。

アップデートしてきた耐震基準と品確法

日本に建てられるマンションでは、設計段階から地震対策がとられています。建物が地震に耐える能力の基準として定められているのが「耐震基準」です。

これまで日本では被害の大きな地震が起こるたびに建物の構造について基準が見直されてきました。この数十年での大きな改訂は、1978年に宮城県沖地震で多数の家屋倒壊被害が発生したことを機に、1981年6月に強化された基準です。これは「新耐震基準」(通称「新耐震」)と呼ばれ、以前の基準である「旧耐震基準(旧耐震)」と区別されています。

●旧耐震
・震度5程度の地震で崩壊・倒壊しないレベルの耐震性
・震度5を超える地震に対する規定は特になし

●新耐震
・震度5程度の地震でほとんど損傷しないレベルの耐震性
・震度6強~7程度の地震で崩壊・倒壊しないレベルの耐震性

新耐震では、鉄筋コンクリート造の壁の量を増やすことが定められるなど、構造上の仕様が旧耐震に比べると強化されました。新耐震では、震度6強~7程度の大きな地震にあっても建物の柱や梁が崩壊しないことが目標とされています。実際に、1995年に発生した阪神・淡路大震災では、新耐震で設計された建物の倒壊はほとんど見られませんでした。

もちろん立地、また建物の構造や形状などの条件によって大地震に対するリスクは異なり、一概に新耐震であれば安全ということはありません。しかし、中古マンションの売買では「新耐震以降」が1つの指標となっています。

ここで気をつけたいのは、建物の竣工年が1981年では新耐震を満たしていない可能性が高いということです。基準が適用されているのは、建築確認を1981年6月以降に受けた建物であり、それらの建物が完成するのはだいたい1~2年後、つまり竣工年が1983年であれば、新耐震を満たした建物がほとんどとなります。

図1:旧耐震/新耐震の区分タイミング

建築確認申請の時期が不明瞭な場合は、マンションの管理事務所には確認申請の副本、確認済証などが保管されているはずですから、閲覧できるように申し出て、見ることができます。また新耐震以前のマンションであっても、耐震補強工事が建物全体で行われていれば、安心度は高まります。耐震診断と耐震補強工事は、やはり管理事務所で保管されている「定期調査報告書」で確認できます。

なお、2000年には建物の基本構造部分の瑕疵担保責任を10年間義務付ける「住宅品質確保促進法」(通称「品確法」)が制定されたほか、耐震偽装事件を受けて2006年には建築基準法が改正。建築確認や検査の厳格化、3階建て以上の共同住宅での中間検査が義務付けられています。

地震の受け止め方によって変わる耐震・制震・免震

近年ではマンションのアピールポイントとして、「制震構造」や「免震構造」がうたわれることが多くなりました。これらには、どのような違いがあるのでしょうか。

建物を地震から守る考えには、大きく分けて「耐震」「制振(制震)」「免震」の3種類があります。耐震は、柱や梁など建物の全体を強固にして地震のエネルギーを受け止め、地震に耐えられるようにするもの。基本的に現在の建物は、耐震の考えにもとづいてつくられています。

制振(制震)は、地震動による建物の揺れを制御しようとするもの。ダンパーなどの装置を建物に組み込み、建物に伝わる揺れを吸収して抑え込みます。制振装置にはさまざまな形式があり、建物固有の条件から効果的な種類、数、配置などが決められます。制振装置を設けると、揺れがおさまるのが早くなるだけでなく、揺れ自体も小さくなります。また、タワーマンションなど高層の建物では、強風の影響で揺れることも抑えられます。

免震は、地震動を受け流して免れようとするもの。地盤と建物を切り離したうえで、両者の間に水平方向に動きながら地震動を吸収させる積層ゴムなどの装置を設け、地震の揺れを建物に伝わりにくくします。大地震が発生しても建物にかかる負担は少なく、損傷を抑えられます。

また、家具などが転倒するなどして人が下敷きになったり、家財が損傷する危険が少なくなります。免震は公共施設や病院などから採用されてきましたが、近年ではマンションでも採用事例が多くなっています。

図2:耐震・制振・免震の違い

もともと耐震の考え方としては、極めてまれに発生する震度6強程度の大地震が起こったとしても倒壊せず、建物内の人命と財産を守るという目的があります。同時に意味するのは、大きな地震時には建物が少し壊れることで地震のエネルギーを吸収するということです。柱や梁にある程度の損傷を受けてもいたしかたなし、その間に避難できればOKという考えです。

大地震が起こっても建物が無傷で済むようにするには、建設コストが余計にかかるという事情もあり、コストバランスのよい耐震が多く採用されています。とはいえ、確実に来るとされている大地震への不安や、大地震の後も住み続けられるマンションを選びたいというニーズが高まってきました。これが、マンションでも免震や制振構造の採用が増えている背景となっています。

マンション購入時にチェックすべきポイント

新耐震以降の建物では、基本的に大地震時に人命が守られるつくりになっているとはいえ、阪神・淡路大震災では、新耐震以降であっても被害が生じたマンションが見受けられました。特に目立ったのは、1階がピロティ形式の建物です。これは、壁を省いて柱と梁だけの構造にして開放するつくりで、駐車場として使用するケースが多くあります。

地震時には1階部分に最も力が加わりやすいため、ピロティ部分に被害が集中しました。そこで1995年には耐震基準の指針が出され、RC造ではピロティ柱の強度について、大幅な強化が行われました。近年では、1階をすべてピロティにするマンションは減少傾向にあります。

そのほか、旧耐震で構造上バランスが取れていないマンションは、しっかりと地震対策がなされていることを確認したほうがよいでしょう。例えば、建物全体を上から見たときに、L字型やコの字型など不整系な形状をしていたり、細長すぎたりするマンションです。このような形状でエキスパンション・ジョイントという継ぎ目が設けられていないと、大きな地震が起きたときにエネルギーが局所に集中し損傷するリスクがあります。

とはいえ、旧耐震であっても大規模のマンションでは細長くなる場合は途中で、またL字型やコの字型の場合は交点にエキスパンション・ジョイントという継ぎ目を設けて、構造が分かれるようにつくられていることがほとんどです。

また、旧耐震の高層マンションでは、下層部がSRC造(鉄骨鉄筋コンクリート造)で上層部がRC造と、途中で構造形式が変わる建物があります。こうしたタイプでは地震によって建物が揺れたときに、下層部と上層部で揺れの挙動が変わるため、構造が切り替わる境目に力が集中しやすくなります。構造形式は一体のほうが、原理的には安心といえます。

図3:旧耐震で特に地震対策を確認したい構造のマンション

なお、耐震基準とは別に「耐震等級」という用語もあります。これは、冒頭の段落で挙げた品確法にもとづいて制定されたもので、地震が起きたときの倒壊のしにくさや、損傷のしにくさを3段階の等級で表しています。等級1が新耐震を満たすレベル、等級2が等級1の1.25倍、等級3が等級1の1.5倍の強度と定められ、数字が大きいほど倒壊・損傷しにくいといえます。

コストバランスの都合上、マンションでは等級2を取得している建物をたまに見かける程度で、ほとんどが等級1です。ただし、等級1であっても、決して耐震性が低いわけではありません。それでも耐震等級を気にされるようでしたら、等級2を選ぶとよいでしょう。

【表】耐震等級
等級3 等級1で想定される1.5倍の地震が起きても耐えられる
等級2 等級1で想定される1.25倍の地震が起きても耐えられる
等級1 数百年に1度程度発生する地震に対して倒壊、崩壊等しない
   数十年に1度程度発生する地震に対して損傷しない

まとめ

地震に強いマンションを選ぶ際には、地盤を含めた立地などの要素も関わるため、建物の耐震性だけにフォーカスすればよいわけではありません。それでも、日常を過ごすマンションの長期にわたる安全と安心を得たいのであれば、制震や免震を含めた耐震性、またマンションのつくりに注意を払いながら検討してみてはいかがでしょうか。

加藤純(かとう・じゅん)

加藤純(かとう・じゅん)

1974年生まれ。建築ライター・エディター。出版物やWEBコンテンツ等の企画・編集・執筆を行い、意匠・歴史・文化・工学を通して建築の奥深さを広く伝える。1997年東京理科大学工学部第一部建築学科卒業、’99年同工学研究科建築学専攻修士課程修了。株式会社建築知識(現・エクスナレッジ)月刊「建築知識」編集部を経て、2004年独立。著書に『日本の不思議な建物101』(エクスナレッジ)、『「住まい」の秘密』<一戸建て編><マンション編>(実業之日本社)など。

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