「モデルルームのように素敵なインテリアの住まい」は、誰もが憧れますよね。でも実際にどのようにすれば居心地のいい家になるのか。それを論理的に理解することはなかなか難しいものです。
『40代からの住まいリセット術』『いつまでも美しく暮らす住まいのルール』などの著書で居心地の良い住まいを手に入れるための方法をロジカルに解説されている、一級建築士の水越美枝子さんに「リフォーム+αで実現する住まいのリセット術」について、これから数回にわたって話を伺います。
(写真撮影/永野佳世)
--動線が悪くて家の中を右往左往してしまったり、なかなか家の中が片付かなかったりなど、思うように暮らせない方は多くいるのではないでしょうか。このようなくつろぎづらい家になってしまう要因は何だとお考えでしょう。
日本人の住まいに対する考え方が、だんだんと変わってきているからだと思います。昔は和室があって縁側があって、茶の間は布団を敷けば寝室にもなりました。家族の共有スペースが基本で、用途によっていかようにも使える「可変の住まい」だったんです。
戦後、人々の生活は欧米化が進み、団地やマンションが多く建設されました。可変ではなく、○DKというように間取りを固定した作りが主流となりましたが、それらは必ずしも人々の暮らしの変化にマッチした間取りとは言えませんでした。
例えば水まわり。日本の住宅では、バスや洗面所、トイレは家族の共有スペースです。身支度を整える生活の場所が寝室から遠いところにあれば、何度も行ったり来たりしなくてはなりません。
このように住む人が主役ではなく、家に人が合わせてきた結果、いまひとつ居心地の良くない「とりあえずの住まい」になっていると言えるでしょう。このスッキリしない部分をリセットすれば、居心地はずっと良くなるはずです。この変えるべきポイントを私は「リセットポイント」と呼んでいます。
--水越さんはもともと建設会社でマンションの設計をされていたそうですね。マンションにおける「リセットポイント」をリフォームで解決しようとするとき、配慮すべき点などはありますか。
マンションのリフォームは、一戸建てとはアプローチがまったく違います。やれることとやれないことを明確にした、解決力と提案力が必要です。
マンションの場合、水まわりは配管の位置などによって制約があると思われている方が多いようです。確かに元々の配管は動かせませんが、きちんと手順を踏んでいけばまったく違うプランも可能になるのです。例えば、床の高さを3cmほど上げて床下に隙間を作って配管を通したり、換気のダクトのつなげ方を変えるなどの技術を駆使することで、できる範囲も広がります。
マンションのリフォームをお考えの方は、できないと諦めてしまう前に、構造や設備に詳しい専門家に相談してみることも大事ですね。
--水越さんが提案する住まいとはどのようなものでしょう。またどのような住まいを求められますか。
私がいつも心に留めていることは、「住まいは暮らしている人のためにある」ということです。お客さまをいつでも呼べる家であることも大事ですが、住む人にとって「ここが自分の居場所だ」と思える空間を作ることが私の仕事だと思っています。
私にリフォームをご依頼くださる方は、ライフスタイルも年代もさまざまです。30代で中古マンションを購入し、ライフスタイルに合わせてリフォームを望まれる方もいらっしゃれば、お子さんが独立されて夫婦2人の生活に合わせたリフォームを依頼されるシニア世代の方もいらっしゃいます。
若い世代は子育てや仕事に忙しいので、時短を求める方が多いですね。一方、ご年配の方はお子さんが独立して家族構成が変わり、老後を家で快適に過ごしたい、というお声をよく聞きます。ただ、ご要望はいろいろあっても、そこには共通点があります。突き詰めていくと、それは「動線効率がいい家」に行き着くと私は考えています。
以前、夫の仕事の関係でバンコクで暮らしたことがありました。バンコクの住宅は、日本にいたときと比べて圧倒的に住みやすかったんです。何が違うのか考えてみると、水周りが寝室の近くに固まっていて、動線に沿った作りになっていました。
それをどうにか日本の住宅に取り入れられないかと作ってきたのが私の提案する住まいです。主寝室から洗面所にウォークスルーで行けるようにしたり、洗面所の隣にウォークインクローゼットを作ったり、すぐに行き来ができる動線を意識しています。
なかなか家が片付かないという悩みは、片付けをする人が悪いのではなく、家の中の動線がよくないからかもしれません。美しく気持ちよく暮らせる家は住みやすい間取りであることが多いです。「精神性」と 「機能性」は互いに密接な関係にあり、どちらかを優先してどちらかを諦める必要はないのです。
--心地よい住まいを手に入れるために、リフォームで特に意識するべきことがあれば教えてください。
私が申し上げているポイントは【動線】【収納】【インテリア】の3つです。
生活動線には大事な動線が2つあって、ひとつは「身支度のための動線」、そしてもうひとつが「家事の動線」です。これらは全く別々とは限りません。例えば、洗濯は家事と身支度両方の動線に関係しています。どちらもスムーズに動けるように考えていくと、洗面所の場所や作り方がポイントになっているということがわかってきました。細かい動線をどこまで理解して意識した家にするかで、住みやすさは大きく変わってくると思います。
さらに、片付けようと思わなくても自然に片付く家を作れば、誰が暮らしてもキレイで心地よい空間を維持できます。それには動線上に適切な収納があることが重要です。
新築したり、リフォームしたばかりの時はキレイだけど、生活していくうちに散らかってしまう、というお話を耳にします。私が設計をしたお宅は、何年経ってもキレイな状態を維持されています。それはきちんとモノをしまう場所があり、その場所が適切な位置にあるからです。
そして住む人やその家を訪れた人の目に映る、美しい空間を作り出すのが「インテリア」という要素です。私は部屋のどの位置にドアがあって、開いたときにどこに視線がいくか、何がまず目に入るのかを計算して設計をしています。
ご自身でも、この3つのポイントに着目していけば、心地よい家に変えていくことができるのです。
--動線と収納を意識すると自然に片付き、居心地のいい住まいを実現できるという話には驚きました。マンションでもリフォームによって理想の住まいが実現できるとなれば、物件選びの幅も広がります。既存の形にとらわれずにリセットポイントを見極めて、一層住み心地のいい家にしたいものですね。
一級建築士。日本女子大学住居学科卒業後、清水建設(株)に入社。商業施設、マンション等の設計に携わる。1991年から6年間バンコクに滞在。1998年、一級建築士事務所アトリエサラを共同主宰。新築・リフォームの住宅設計からインテリアコーディネート、収納計画まで、トータルでの住まいづくりを提案している。著書に「40代からの住まいリセット術――人生が変わる家、3つの法則」「いつまでも美しく暮らす住まいのルール――動線・インテリア・収納」「人生が変わるリフォームの教科書」など。2022年11月に新刊「一生、片付く家になる!散らからない住まいのつくり方」を発刊。
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