子どもが生まれることを機に、または子どもの成長や独立に伴ってリフォームを考える人は多いのではないでしょうか。
『40代からの住まいのリセット術』の著者、水越美枝子さんに「子どもと快適に暮らす家にするためには、どのようなリフォームをすればいいのか」について、専門家としてはもちろん、主婦として、母としての目線からも、お話を伺います。
--子どもと暮らす家のリフォームはいつ頃から準備すべきでしょう?
仕事や家事などをこなしつつ、育児を行う暮らしは、経験がないとなかなかイメージしにくいかもしれません。乳児期に手がかかるのはもちろんですが、何の心配もなく、自分のことを自分でできるようになる小学校高学年頃までは、子どもの動きに目を配れる空間が必要です。
そのようなときに部屋が散らかっていると、時間にも気持ちにもゆとりがなくなり、大きなストレスになるでしょう。また、子どもにとっても、動線や収納がルール化・システム化されていないのは、混乱する原因になります。
子どもが生まれる前にリフォームをして、子育てしやすいステージを作ることができれば、その後の生活の快適さは劇的に変わるでしょう。実際に、産休中にリフォームを依頼に来る方は多くいます。
--リフォームをする前に考えておくべきことを教えてください。
「子どもと暮らしやすい家」というテーマですが、実は私は子どもの有無にかかわらず「誰にとっても暮らしやすい間取り」というものがあると思っています。ポイントは、やはり「動線」と「収納」です。子どもが成長して家を出るまでの間、動線と収納が対応し続けることができるようなプランニングをしておくべきだと思います。
とはいえ、実際に子育てを始めるまでは、子育てと住まいがどのようにリンクしていくのかを想像するのは、なかなか難しいかもしれません。
例えば、次のようなことを育児を経験したことのない方がイメージするのは、簡単ではないでしょう。
*ベビーベッドを置く場所は?
→いつも目の届く場所でないと、行ったり来たりが多くなり大変です。
*おもちゃをしまう場所は?
→意外と量があり、スペースをとるため、おもちゃを出して遊ぶ場所の近くに専用の収納があるのが理想です。長い期間、必要になるものではないので、ボックス収納でもいいと思います。
*子どもはダイニングで勉強させた方がいい?
→低学年のうちは、確かに目の届くダイニングなどで勉強をするのがいいでしょう。しかし、大きくなって思春期を迎えるようになれば、持ち物も増え、一人になれる逃げ場があるということも大事です。そのため、高学年になれば、ダイニングから子ども部屋への移動を考えてもいいと思います。
このような疑問を解消するために、まず、イメージするべきことは「子どもの身支度や勉強をする場所はどこが一番いいか」を考えることです。子どもが小さいうちは、家事や育児をする人が滞在する時間の多い場所の近くに、子どもの物を一揃いまとめてあれば、家の中での移動距離が短くなり、効率的に動けるようになります。
例えば、次の写真は、オープンキッチンのカウンターの下に収納を設けた例です。ランドセルや傘、簡単な着替えまで、ここにひとまとめにして仕舞うことができます。ママ・パパがキッチンやダイニングにいながら、子どもの身支度ができることが利点です。
この収納は、子どもが大きくなり、リビングやダイニングにいる時間が減ってくれば、家事道具や備品を収納する場所として便利に使えます。子どもの成長ステージに合わせて使える収納があることで、短い動線で効率的に動くことができ、すっきりと整理された暮らしやすい家になります。
--子ども部屋については、どのようにしたらいいでしょう?
時代とともにライフスタイルが変わるように、子ども部屋に対する考え方も、以前とは少し変わってきているように思います。
一般的な住まいの広さなどを考えると、子ども部屋や寝室は必要な収納があれば、それほど広さはいらない、というのが私の考えです。
一人になることができる空間は必要ですが、近頃はコーヒーショップや図書館で何時間も勉強する人も多くいます。限られたスペースの中で、各居室にスペースを割くよりも、広くて居心地のよいリビング・ダイニングを作り、自然と家族が集まる場所にした方が、現代のライフスタイルには合うのではないかと思います。
一方、子ども部屋は狭くても、自分のものを自分でしっかり管理できるよう、機能的な収納を作るようにしています。
既存のマンションでファミリータイプとしてよく見られる間取りのプランは、リビングの横にもう一部屋、和室などが設けられている3LDKのプランです。子どもが1人の家庭では、この居室を取り払った2LDKにしたいという要望が多く、部屋の間仕切りを取り払うリフォームを行い、リビング・ダイニングを広く取るようにしています。
--他に、子どもと快適に暮らすためのリフォームに必要なことがあれば教えてください。
子どもが成長していくに従って、部屋の使い方も変わってきます。かといって、先のことを気にするあまり、現在の生活を犠牲にしすぎてしまうことは賛成できません。私は、将来的に10年くらいを目安に、ベストな生活ができるように考えることを提案しています。
リフォームを依頼されたとき、例えば、子どもが3歳だとすれば、家を出るまでの約10数年のライフステージ表を作成するようにしています。家族それぞれの年齢、小学校入学などの起こるべきイベント、そのときどのような部屋が必要になるか具体的なプランを表にして整理していくものです。
このような表で整理すれば、いつ頃どのような間取りが最適かを考えるのに役立ちます。
それでは、実際に私がリフォームを手がけた住まいの例を見てみましょう。
●目的別の間取りから、約6畳のプレイルームが効率のいい子ども部屋へ
こちらは小学1年生と3歳の子どもがいる家族の、69m2の中古マンションのリフォーム例です。
家事効率をよくするために、家族のクローゼットを一つのウォークスルー・クローゼットにまとめました(図内a)。
ダイニングには、勉強をするためのスタディースペースを作り(図内b)、さらに親子4人で一緒に寝るための部屋として、和室を作りました(図内c)。現在はプレイルームとして使っている「子供室」を、将来は間仕切りして、ベッドやデスク・収納を効率よく配した2つの子ども部屋として分けて使えるようにしています(図内d)。
●キッチンを中央へ。家全体を見渡せる場所に。
こちらは妊娠中の妻と夫、3歳の子どもの3人家族で、中古で購入したマンションをリフォームした例です。築15年ほど、広さは約90m2です。
キッチンの場所を中央に移して、家族の過ごす空間全体を見渡せるようにしているのが特徴です。キッチン前の窓際には、勉強や、調べ物などができるスタディーカウンターを設置しました(図内e)。カウンター下のスペースには収納を増やすこともできます。
将来的には、リビング奥の遊びコーナーを壁で仕切り、子ども部屋を増やすことを想定しています(図内f)。その際、カウンターの一部を子ども部屋のデスクとして使えるよう、窓の割り方なども計算して設計しました。
「子どもと暮らす家」とは、将来を見越した収納の設計や、家の中心となる場所を作ることが鍵となるようです。リフォームを検討する際には、子どもの成長を温かく見守ることのできる家を目指したいですね。
一級建築士。日本女子大学住居学科卒業後、清水建設(株)に入社。商業施設、マンション等の設計に携わる。1991年から6年間バンコクに滞在。1998年、一級建築士事務所アトリエサラを共同主宰。新築・リフォームの住宅設計からインテリアコーディネート、収納計画まで、トータルでの住まいづくりを提案している。著書に「40代からの住まいリセット術――人生が変わる家、3つの法則」「いつまでも美しく暮らす住まいのルール――動線・インテリア・収納」「人生が変わるリフォームの教科書」など。2022年11月に新刊「一生、片付く家になる!散らからない住まいのつくり方」を発刊。
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