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住宅購入予算の考え方、「年収の5倍」はもう古い?
2017年1月31日
「年収の5倍」の算出方法
25年前から言われている「無理なく買える住宅価格は年収の5倍以内」、その「5倍」という数字の根拠は何でしょうか。
そこには、当時の「住宅ローンの融資環境」が反映されています。
現在と大きく違う点、つまり、住宅ローンの主流が、旧・住宅金融公庫(現在の住宅金融支援機構)をはじめとする公的融資だったこと、そして金利が高かったことです。
公的融資は、公庫以外にも年金融資、財形融資、自治体融資など、非常にバリエーションが多彩でした。対して、銀行ローンは、公的融資だけでは足りない場合に補う存在だったといえます。都市銀行の融資先は企業向けが中心で、個人向け住宅ローンにはあまり熱心ではなかった面もあるでしょう。
当時のローン返済比率は、公庫が20%以内、銀行ローンは35~40%以内でした。ローン返済比率は、税込み年収に占める住宅ローンの年間返済額の割合です。融資限度額も、購入価格の8割以内が一般的でした。この基準をベースに、税込み年収600万円の人がいくらのマンションを購入できるかを試算したのが図2です。
金利は、公庫が5%台、A銀行のローン(変動型)は8%台と、今と比べるとかなり高いですね。それでも比較的低い公庫から優先して借り、残りを銀行ローンで賄う形で組んでいます。
その結果、借入可能額が2,880万円、頭金2割とした場合の購入可能額は3,600万円となり、年収の6倍です。公庫しか借りないとすると、借入可能額は1,860万円、購入可能額(頭金2割)は2,325万円で、年収の4倍以下となります。年収のレベルを変えても、だいたいこの4~6倍の範囲に収まります。これが「年収の5倍」の根拠ということになります。
ちなみに、頭金の水準から求める考え方もあります。昔は、年収と同じくらいの頭金を貯められなければマイホームは購入できないと言われました。頭金は最低でも購入価格の2割以上は必要でした。そのため「年収=頭金=購入価格の2割」となり、ここから逆算すると「年収の5倍」が購入可能額となるわけです。
年収の8倍でも、意外と返済負担は重くない?
2017年現在は、当時とは融資環境がまったく違います。
・住宅ローンの適用金利は、変動型が0.6%台、10年固定の最低水準は0.5%前後(2017年1月現在)で、バブル当時の10分の1以下です。
・融資比率も、購入価格の9割以上まで可能になっています。
・民間銀行も住宅ローンの融資に積極的です。住宅金融公庫や年金融資がなくなった今、公的融資の利用率は極めて低くなり、銀行ローンが主流になってきました。
以上のような融資環境に基づいて、図2と同じ年収600万円の年収倍率を試算したのが図3です。銀行ローンの返済比率はバブル当時と変わっていません。
ただ、融資可能額の計算は、適用金利とは違う「審査金利」が使われます。審査金利は公表されていませんが、現在は3~4%と言われています。図3の試算では、銀行Bの10年固定の店頭表示金利を用いています。
図3のように、金利3.15%で計算した借入可能額は4,440万円です。頭金を1割とすると、購入可能額は4,930万円で、年収倍率は8.2倍となります。25年前と同じ年収水準なのに、購入可能な金額が1,300万円以上も増えました。
しかも、適用金利0.65%で計算した毎月返済額は12万円弱です。25年前の毎月返済額は17.5万円ですから、5万円以上も負担が軽くなっています。
10年固定金利の場合、11年目以降は変動金利となりますので、市場金利が上がっていると返済額は増えますが、1~2%くらいまでの上昇であれば、審査金利の3%以下に収まるレベルです。
「年収の○倍」にこだわりすぎない、資金計画
実は、融資環境以外にも、以前と比べて大きく変化した点が2つあります。
ひとつは、資金の内訳です。かつて、頭金は自力で貯蓄するのが一般的でした。しかし、現在では親からの資金援助(贈与)を受けるケースが増え、税金の優遇制度なども設けられています。親世代の金融資産が増えていること、子どもの数が減って1人にかけられる余裕が増えたことなど、いくつかの理由が考えられるでしょう。
FRK(不動産流通経営協会)の「不動産流通業に関する消費者動向調査<第21回(2016年度)>」によれば、住宅を購入した時に親から資金援助を受けた人の割合は、新築住宅で21%(平均930.5万円)、中古住宅は17%(平均808.9万円)でした。5~6人に1人は1,000万円近い援助を受けてマイホームを購入していることがわかります。
自前の預貯金に援助分を合わせると、頭金を購入価格の3~4割も入れられるケースが珍しくありません。その分、住宅ローンの借り入れ比率は下がり、返済負担も軽くなるわけです。
また、二つ目の変化として、中古マンションの売買が活発になり、以前に比べて格段に売りやすくなった点が挙げられます。仮に、住宅関連以外の出費が膨らんで住宅ローンの返済が苦しくなったら、比較的スムーズに売却することが可能です。
売るに売れず破たんしてしまうようなリスクは、以前に比べればかなり低くなっているといえるでしょう。もちろん、それぞれの収入と支出の内訳、生活スタイルやライフステージを踏まえて「いくら返せるか」を基本に資金計画を組むことは昔と変わらず大切です。
マンション価格が年収の8倍以上になっても、資金計画は決して悪化していないことがわかります。むしろ「年収5倍以内」時代よりも安全になったといえるかもしれません。いざというときはすぐに売却するという選択肢は、リスクヘッジとなります。
そういう意味では、もはや「年収の○倍」にこだわる時代ではない、「年収の○倍」という指標にとらわれて購入予算をガマンして抑える必要はない、といえるのではないでしょうか。
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