訪日外国人(インバウンド)の増加による不動産市場への影響・その2 ~不動産市場への影響~

その1では、最近の訪日外国人増加の現状を見ました。コロナ禍後、急速に回復しており、消費額も増加している現状が見て取れたと思います。本稿その2では、この訪日外国人の増加が、特に不動産市場へどのような影響を与えるかについて考察します。


【サマリー】

  • 本稿では、主に訪日外国人が増加していることによる日本の不動産市場への影響を見た。
  • その結果、まず外国の不動産投資家に日本の不動産が注目される理由として、①外国人の保有に規制がほとんどない、②相対的に安い日本の不動産、③高い利回り、④地政学的リスクが低い、⑤円安、⑥自国から地理的に近い、などがあることが示唆された。
  • 続いて、日本不動産市場への影響として、①宿泊業、娯楽業、運輸業などのサービス業や百貨店の売り上げが伸びていること、②ホテルの建設ラッシュが続いていること、③主要観光地の地価が上昇していること、④外国人労働者が増加していること、⑤マンション(特に東京23区)価格が高騰していること、があった。
  • 今後さらに訪日外国人が増加することが見込まれ、これより、不動産としては、マンション(特に東京23区)、商業施設、ホテル(特に主要観光地)等の需要がますます増加していくと思われる。

Ⅰ.日本の不動産の高い魅力

ⅰ.注目を集める日本の不動産

図表Ⅰは、APACにおける魅力的な投資先をAPACの投資家に対してアンケート調査した結果です。この調査は毎年行っていますが、5年連続で日本が1位となっており、都市別には東京が圧倒的人気という結果となっています。

また、図表Ⅱは事業用不動産の投資額を投資主体別に示したものです。これより、海外投資家はコロナ禍の2020~2022年でも、1兆円以上、割合にして3割以上の投資額となっており、不動産投資市場において、大きな存在であることがわかります。

【図表Ⅰ】APACにおける魅力的な投資先
20240716_image01.jpg出所:CBRE「アジア太平洋地域2024投資家意識調査」
【図表Ⅱ】主要不動産取引の推移
20240716_image02.jpg出所:CBRE「不動産マーケットアウトルック2024」

Ⅱ.日本不動産の魅力が高い理由

ここでは、日本の不動産がなぜ海外投資家の注目を集めるのか、考察します。

ⅰ.日本の不動産は外国人が保有することにほとんど規制がない

外国人の不動産投資に規制を設けている国も多数存在します。例えば、中国では、土地は国家のものであり、国民であっても購入・所有することはできません。また、シンガポールは、外国人による土地の購入や所有は禁止、オーストラリアは、居住していない外国人による中古物件の購入に制限があります。他の多くの東南アジア諸国でも、土地の所有権割合に制限があり、残りは現地の法人や個人が所有できるようになっています。

このように国によって不動産の購入における規制や追加課税などがある中で、日本にはそういった規制がほとんどありません。海外から外国人が日本の不動産を購入する際、特別な規制や課税がないため、日本国内で日本人が不動産を購入するのと、法的、コスト的な条件はほとんど同じです。

このため外国人にとって不利益が少なく、他国と比較すると、日本不動産への投資は外国人投資家にとってハードルが低いのです。

【図表Ⅲ】東アジア諸国の外国人による不動産所有・購入規制出所:JETRO資料等より野村不動産ソリューションズ作成
外国人名義での土地の所有権 外国人名義でのコンドミニアムの所有権 注意事項
日本
中国、香港 × × 使用権の購入は可能
シンガポール × 非居住用コンドは購入可能
タイ 外国人土地購入枠49%以下
フィリピン 外国人土地購入枠40%以下
カンボジア 外国人土地購入枠70%以下
オーストラリア 非居住者は新築物件のみ購入可能

ⅱ.相対的に安い日本の不動産

図表Ⅳは海外主要都市のマンション/高級住宅(ハイエンドクラス)の価格水準を東京を100として比較したものです。これを見ると、最も高い香港が263.4と日本の約2.5倍、その次にロンドンが205.4と約2倍、上海と台北が160.7と約1.5倍と分譲価格の差は明らかです。これより、海外主要都市の中で東京の住宅物件は他の主要都市に比べ、割安と言えます。

【図表Ⅳ】マンション/高級住宅(ハイエンドクラス)の価格水準の比較(2023年10月現在)
20240716_image03.jpg出所:(一財)日本不動産研究所「第21回国際不動産価格賃料指数(2023年10月現在)」

ⅲ.高い利回り

図表Ⅴはアジア主要都市のマンション/高級住宅(ハイエンドクラス)の賃料水準と価格水準を東京を100として比較したものです。これを見ると、台北、北京、上海と比べると、東京はマンション価格は割安なのに対して、高い利回りを享受しています。つまり、割安に買えて、利回りが高いということになります。

【図表Ⅴ】アジア主要都市のマンション価格と利回り
20240716_image04.jpg出所:(一財)日本不動産研究所「第21回国際不動産価格賃料指数(2023年10月現在)」より野村不動産ソリューションズ作成
注1:バブルの大きさは賃料の大きさを示す。
注2:利回りは賃料/マンション価格で求めた。

ⅳ.日本が政治的に安定していること

【図表Ⅵ】Global Peace Index(2023)
20240716_image05.jpg出所:Institute of Economics and Peace
〝Global Peace Index”

図表ⅥはInstitute of Economics and Peaceが世界163か国を対象に毎年公表しているGlobal Peace Index(世界平和度指数)です。これによると、日本は、安全な国、世界第9位に選ばれています。この指数は国際・国内紛争、軍事化、社会の安全・安心など各国23の異なる指標をベースに数値化され、安全か危険かを判断しています。


ちなみに、11位以降でアジアでは、マレーシアが19位、オーストラリアが22位、台湾が33位、ベトナムが41位、韓国が43位、インドネシアが53位、中国が80位、タイが92位、フィリピンが115位などとなっています。


このように、他国と比較して日本は地政学的リスクが低く、海外投資から見れば、安心して投資できる国として評価されています。

ⅴ.近年の円安傾向

今年、34年ぶりに1ドル155円台まで円安が進んでおり、これが訪日外国人が激増している一因であることはすでにその1で述べたとおりですが、不動産に関しても海外投資家が日本不動産はお買い得と感じる要素の一つとなっています。日銀の政策金利が今度上昇することを予想し、「円安は一時的」と考え、将来円が回復した際に購入した物件を売却し、キャピタルゲインを狙う投資家も多いと思われます。

【図表Ⅶ】為替レート(円/米ドル)の近年の推移(7/11現在)
20240716_image06.jpg出所:三菱UFJ銀行「外国為替相場チャート表」

ⅵ.自国から地理的に近い

すでにその1で述べたように、訪日外国人の多くは韓国、中国、台湾、香港などの東アジアの人たちです。彼らは地理的に日本に近いので、何回も日本に来ている人がたくさんいます。実際不動産を購入する際は実物物件を見て買うのが普通です。この際、地理的に近いことは非常に有利になります。また、何回も来るのであれば、自分たちが滞在できる場所ともなります。

20240716_image07.jpg

Ⅲ.最近の訪日外国人増加の不動産への影響

ⅰ.小売、ホテル、運輸等の売り上げの増加

図表Ⅷは2024年2月のサービス業各業種の売上高前年同期比を示したものです。これより、特に伸びは大きい業種は、宿泊業、飲食サービス業(11.1%増)、生活関連サービス業、娯楽業(8.3%増)、運輸業、郵便業(6.2%増)、不動産業、物品賃貸業(5.6%増)となっています。この理由として、訪日外国人の増加によるホテル等の利用の増加や各種サービスの利用が増えたことが一因であることは明らかです。

図表Ⅸは東京地区の百貨店の売上高の推移を示したものです。コロナ禍で2020年度は売り上げが大きく減少しましたが、その後、急激に回復し、2023年度にはコロナ前を超える売り上げを達成しています。

【図表Ⅷ】サービス業の月間売上高の前年同期比(産業大分類別、2024年2月)
20240716_image08.jpg出所:総務省「サービス産業動向調査」
【図表Ⅸ】東京地区の百貨店売上高の推移
20240716_image09.jpg出所:日本百貨店協会「百貨店売上高」より野村不動産ソリューションズ作成

ⅱ.ホテルの建設ラッシュ

訪日外国人の増加を背景に、ホテルの建設ラッシュが続いています。図表Ⅹはここ10年のホテル数を地域別に見たものです。これより、東京、大阪、京都、沖縄など訪日外国人の主な観光地では、ホテル数が約2倍になっていることがわかります。これらの地域では、外資系のホテルの進出も目覚ましく、例えば東京では、「ブルガリ東京」や「ジャヌ東京」など外資系有名ブランドのホテルが進出しています。今後も外資系を含め、主要観光地では、多くの建設計画があり、これからもホテル数は増えていきそうです。

【図表Ⅹ】ホテル数の推移
20240716_image10.jpg出所:観光庁「宿泊旅行統計調査」より野村不動産ソリューションズ作成

ⅲ.主要観光地の地価上昇

訪日外国人の回復によって、国内の主要観光地の地価は大きく上昇しています。

図表Ⅺは令和6年の主要観光地の地価上昇率(対前年比)を示したものです。浅草地区は訪日外国人の回復により、店舗等の需要が増加傾向にあることから、地価は高い上昇率を示しています。京都の祇園地区や大阪の道頓堀地区も同様に高い地価上昇率を示しており、上昇の大きな要因の一つは訪日外国人の回復であると思われます。

【図表Ⅺ】令和6年の主要観光地の地価上昇率(対前年比)出所:国土交通省「令和6年公示地価」より野村不動産ソリューションズ作成
地区 地点 地価(円/㎡) 変動率(%) 備考
東京都台東区浅草地区 西浅草2-13-10 2,050,000 17.8 地価上昇率(商業地)東京都1位
京都府京都市東山区祇園地区 四条通大和大路東入祇園町北側277番 3,890,000 14.4 地価上昇率(商業地)京都府第5位
大阪府大阪市中央区道頓堀地区 道頓堀1‐6-10 6,200,000 25.3 地価上昇率(商業地)
全国8位、大阪圏1位

ⅳ.外国人労働者の増加

図表Ⅻは東京都の在留外国人の推移を示しています。コロナ禍で一時減少しましたが、その後、回復し、今は60万人を超える在留外国人が東京都に住んでいます。

東京都の人口は2030年には減少に転じるといわれていますが、在留外国人の動向によっては少し先になる可能性があります。

在留外国人が増えているのは、訪日外国人が増加していることと無関係ではありません。東京都に在留するにはまず来てもらうことが前提になるからです。

さて、この在留外国人の増加は不動産市場にはどのような影響を与えるでしょうか。在留外国人には住む場所が必要です。必然的に住宅の需要が増加します。彼らのためには住宅の供給が必要です。この点においても、在留外国人の増加は不動産市場とも大きな関係があるといえるでしょう。

【図表Ⅻ】東京都の在留外国人数の推移
20240716_image11.jpg出所:東京都「外国人の人口」より野村不動産ソリューションズ作成

ⅴ.マンション価格の高騰

新築分譲マンション価格が上がっています。特に東京23区が著しく、2023年平均で1億円を超えました。高騰の理由として、建設費の上昇等があげられますが、高値でも需要がついて来ています。需要があることについては、富裕層の増加やパワーカップルの存在があげられますが、富裕外国人による購入も大きく影響していると考えられます。コロナ禍後、物件を内見しやすくなり、購入する外国人が増えてきている傾向があると思われます。

【図表XⅢ】新築分譲マンション・平均価格の推移
20240716_image12.jpg出所:不動産経済研究所「全国 新築分譲マンション市場動向 2023年」」より野村不動産ソリューションズ作成

Ⅳ.まとめ

本稿では、主に訪日外国人が増加していることによる日本の不動産市場への影響を見てきました。その結果、まず外国の不動産投資家に日本の不動産が注目される理由として、①外国人の保有に規制がほとんどない、②相対的に安い日本の不動産、③高い利回り、④地政学的リスクが低い、⑤円安、⑥自国から地理的に近い、などがあることが示唆されました。

続いて、日本不動産市場への影響として、①宿泊業、娯楽業、運輸業などのサービス業や百貨店の売り上げが伸びていること、②ホテルの建設ラッシュが続いていること、③主要観光地の地価が上昇していること、④外国人労働者が増加していること、⑤マンション(特に東京23区)価格が高騰していること、がありました。

今後さらに訪日外国人が増加することが見込まれ、これより、不動産としては、マンション(特に東京23区)、商業施設、ホテル(特に主要観光地)等の需要がますます増加していくと思われます。

提供:法人営業本部 リサーチ・コンサルティング部

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