ノムコム60→ > 老後の暮らしとお金のコラム > 60歳からの教科書『豊かな住まい方』 > 「バリアフリーの常識」のウソに惑わされるな

老後の暮らしとお金のコラム60歳からの教科書『豊かな住まい方』

2016/12/26
「バリアフリーの常識」のウソに惑わされるな

私はいま、奈良市立一条高校という1000人規模の高校で校長をしている。
もともと東京に自宅のある私。 昨年還暦を迎えたにも関わらず、あえて地縁のない土地に、91歳で介護度3の父と85歳で元気な母と共に3人でやってきたから、「60代からいかに住まうか」というテーマがいよいよ身近になってきた。

この「ノムコム60→」のコラムでは、読者の皆さんにいくつかの提案をしようと考えている。
どうしても常識の呪縛に囚われてしまい、住まい選びやリフォーム、リノベーション時に失敗しがちなポイントにも触れていこう。

60代からは、「いかに住まうか」は「いかに生きるか」に直結する。まさに人生に対する哲学や美意識がそのまま問われることになるだろう。

第一回目のテーマは「バリアフリー」

いきなりで恐縮だが、「段差をなくせばバリアフリー」とする風潮に、あえて異議を唱えてみようと思う。

結論から言ってしまおう。
リビングなど洋室の横にくっついているタイプの和室もしくは畳の間は40センチ床上げするといい。戸建てでも、マンションでも。

バリアフリーを金科玉条のごとく喧伝して、なんでも平らにすればいいと勘違いしている業者もいる。でも、それは間違いだ。一番危ないのは5センチ以内の段差なのである。これはつまづくからダメ。

40センチあれば、登る時にはしっかりまたがなければならない。だから健康にも良い効果が生まれる。

私が現在住んでいる奈良の家は戸建て賃貸住宅だが、玄関から正面にあるリビングの奥に当初は次の写真のような3畳の畳の間があった。これでは父や母が足を引っ掛けてしまうので危ない。


だから、家主さんにお願いして、次の写真のように40センチ床上げすることにした。コンセントの位置を変えることも含め、私の負担でリフォームするのに15万円かかったが、十分元は取れていると思う。

畳の間を40センチ床上げすると何がいいか?

まず、空間に奥行きが出る。
2000年に新築した永福町の家でも、次の写真のような工夫をした。これを見た友人の建築家・隈研吾氏は「あえて洋室と和室の段差をつけたことで、能舞台のように上手くつながったね」と評していた。


来客があると、客はまずこの和室の縁に座る。手前にあるダイニングテーブルの椅子より座り心地がいいらしい。40センチだとぴったりかかとが床に着く。だから、洋室の椅子も座面が和室の床に合うように切ってしまった。

子どもや孫が小さい時は和室を駆け回るし、宿題もするし、学芸会の真似事もする。取っ組み合いの喧嘩もするだろう。そんな時は、4~5歳の子なら、リビング側に座った大人とちょうど目線が合う高さになる。

何より、寝っころがると気持ちいい。また、意外と知らない人が多いのだが、介護が始まっても、この方が便利なのだ。床上げしない和室の布団から抱き上げるのは困難だ。私は2級ヘルパーの資格を持っているからわかるのだが、介護者が腰を痛めるのはこのケースに多い。
将来、自分が車椅子の立場になったとしても、そのまま畳の間に移れるから住みやすい。

天井までのスペースが40センチ縮むから、立てなくなるのではないかという批判に対しては、私が羽根木のコーポラティブマンションで施工した次の写真の例を見て欲しい。

画像出典:SUUMOジャーナル(http://suumo.jp/journal/2013/03/03/39138/


この方が、畳がリビングと同じ高さであるよりも空間に奥行きが感じられると思う。床下がもったいなければ、写真6のように収納として使えばいい。マンションで天井高が低い場合でも、こうした畳の間での生活は通常寝るか座るかのどちらかだから、問題ないのである。

真に「親孝行」な住まいとは?

「最近の若者はぬるま湯に浸かっているようで、揉まれていないから覇気がない」と批判する人がいる。人間は、刺激がないと成長しないという意味だろう。だが、それは、自分のカラダと環境との関係にも当てはまる。刺激を受けなければ、足腰だけでなく、五感が鈍ってしまう。

かつて、北海道の住宅会社の社長が言っていた。「北海道は雪で半年閉じ込められるから、外に出る利便を考えて玄関のすぐ脇にお年寄りの部屋を作るのではなく、わざと上階に住まわせるといい。そうすれば、キッチンの食事の匂いに誘われて1日2度3度と階段を上り下りすることになるから、健康にいいだろう」と。

さて、どちらが親孝行か?・・・あなたなら、どう判断するだろう。

(関連リンク)
「ネオ・ジャパネスクな家」の定義― 「よのなかnet」藤原和博のデザインワーク
http://www.yononaka.net/neo-japanesque/tatedoki.html

藤原和博プロデュース「羽根木の森レジデンス205号室」
http://www.yononaka.net/neo-japanesque/hanegi/205.html

執筆者:藤原和博

教育改革実践家/『人生の教科書[家づくり]』著者
1955年東京生まれ。東京大学経済学部卒業後、株式会社リクルート入社。東京営業統括部長、新規事業担当部長などを歴任後、1993年よりヨーロッパ駐在、96年同社フェローとなる。2003年より5年間、都内では義務教育初の民間校長として杉並区立和田中学校校長を務める。2008~2011年橋下大阪府知事特別顧問。14年武雄市特別顧問、2016年春から奈良市立一条高校校長に就任。
リクルート在職中に注文住宅・リフォーム情報誌の創刊に携わる。37歳から家族でヨーロッパに移住。自然豊かなロンドンの住宅やパリのペントハウスに住んだ経験を活かし、東京に家を建て、2016年4月より奈良市に91歳の父と85歳の母と同居。

「よのなかnet」藤原和博のデザインワーク
http://www.yononaka.net/

人生の教科書[家づくり]―筑摩書房
http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480421623/
コラム一覧を見る


不動産活用&相続コンシェルジュ
無料相談はこちらから

本コラムは、執筆者の知識や経験に基づいた解説を中心に、分かりやすい情報を提供するよう努めておりますが、その内容について、弊社が保証するものではございません。