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「終活」「相続対策」という言葉がここ近年、新聞や雑誌、メディアでも多く取り上げられるようになり、皆さんも少なからず関心をお持ちのことだと思います。
相続対策には、遺産分割対策(争族対策)、節税対策(相続税対策)、納税資金対策などがあり、すでに対策をされている方もいらっしゃるかもしれません。
そもそも、相続対策をされているという方は、何のために対策をされているのでしょう。
・少しでもたくさんのお金を家族に遺したいから
・国に払う税金を少なくしたいから
・相続税を納めるのに先祖代々の土地を手放したくないから
その理由は様々だと思います。
私は今まで相続の現場を数多く見てきました。
中には遺言があったばかりに揉めてしまった家庭や、兄弟が遺産を巡って争っている家庭、実の母と娘が裁判をしている家庭などもありました。
もちろん、揉めることなく仲良く暮らしている家庭もあります。
その違いは今回とは別の機会にご説明しますが、少なくとも相続対策において大切なことは、家族が揉めることなく笑顔で相続を迎えるために、「誰のための何のための対策」かをしっかりと核に据えて、対策をすることです。
相続対策は実は順序が大切です。
そういう説明を聞いたことがある方は少ないかと思います。
この順序を間違えると、「やり直し」が必要なだけではなく「揉めてしまう」ことも少なくありません。
事例でみていきましょう。
私が登壇したあるセミナーの後、個別相談を申し込まれたAさん(70代女性)。
夫は数年前に他界し、相続人は一人娘のBさん(40代女性)だけです。
Aさんは、ある保険会社に勧められて、生前贈与を保険商品で行っておられました。
ただ、なんとなくその方法に不安があるため、セカンドオピニオンとして見てほしいとのことでした。
そこで、私はAさんに「相続税がかかるのですか?」と質問をしました。
Aさんは「え?相続税がかかるかどうかは分かりません」と答えられました。
このご家庭は相続人が一人しかいないため、揉める心配はありません。
Aさんの財産はすべて一人娘のB子さんに相続されます。
それなのに生前贈与をしているのは当然、相続税がかかるための節税対策だと思ったのですが、かかるかどうかわからないとの返事が返ってきました。
そこで、私のグループの税理士に相続税の試算を依頼したところ、相続財産が基礎控除(3,000万円+600万円=3,600万円)の範囲内に収まり、相続税はかからないことがわかりました。
しかも、このまま贈与を続けていると7年でAさんの現金は底をつく計算に。
それを知ったAさんは慌てました。
なぜならその生命保険は最低10年続ける必要があったからです。
結局、1年分の保険料は支払った後でしたが解約されました。
これは、順序を間違えてしまい、相続対策そのものが無駄になってしまった事例です。
では、何から始めたらよいのか、図を用いて説明しましょう。
(1)現状の把握をしましょう
現状把握とは、財産がどこにいくらあるのか(現預金・株・投資信託・不動産など)、また相続人が誰なのかを特定することです。
ちなみに2度目以降の結婚の場合、前妻(前夫)との間の子供も相続人になります。
(2)問題点は何か?を把握
相続税がかかることを前提とした場合、納税資金はどう確保するのか、あるいは不動産しかない場合に相続人複数でどう分けるのか、問題点を洗い出します。
前妻(前夫)との間の子供が今どこに住んでいるのかわからないときには、居場所を特定します。
(3)解決策を考え実行!
問題点が出たら、それを解決するスキームを専門家(税理士・相続診断士・FP・弁護士等)と考え、元気なうちに実行します。
相続するご本人の判断能力が低下すると、遺言が残せないなどのトラブルが起こります。
(4)時々検証して見直しも!
解決策を実行した後は、相続人の数が増減(相続人の死亡や結婚・孫が生まれるなど)や財産の増減(株価の変動や不動産価値の変動など)があった場合はスキームを組み直します。
このように、相続対策を無事に成功させるためには、まず「誰のための何のための」対策なのかを考え、そして「対策の順序」は間違っていないかを十分に確認してから実行に移すことをお勧めします。
AFP 相続診断士 家族信託コーディネーター 終活カウンセラー上級。
頼れるマネードクターとしてこれまでに1,500件もの相続・お金の悩みを解決した実績を持つ。講演・メディア出演多数。システムダイアリー社の「エンディングノート」監修。
著書「家族に迷惑をかけたくなければ相続の準備は今すぐしなさい」(PHP出版)。
相続診断士事務所「笑顔相続サロン」代表 東京相続診断士会会長。
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