ノムコム60→ > 老後の暮らしとお金のコラム > 家族に迷惑をかけない相続 > 財産がないから大丈夫!それ本当に大丈夫? 相続対策は財産の大小は関係ありません
「うちは、財産がほとんどないので相続対策は関係ない」「子供たちは仲がいいので対策はしなくていい」と思っている方がいれば、それは誤りです。争族は、財産の多寡や仲の良さに関係なく起こり得ます。 親亡きあとに子供たちが残された財産で争わないためのヒントを、事例を交えてお伝えします。
「相続対策は元気なうちから早めにしましょうね」というお話をすると、必ずと言っていいほど返ってくる答えの一つに「うちは財産が少ないから大丈夫です」というものがあります。財産が少ないご家庭は本当に揉めないのでしょうか?財産争いはお金持ちだけの問題なのでしょうか?
下の図をご覧ください。
これは、遺産分割協議で裁判所に持ち込まれた遺産価額と件数をグラフにまとめたものです。これによると遺産分割事件の75%は、遺産額が5,000万円以下。そして、最も揉めているのは、実は2,000万円台と言われています。相続財産が2,000万円以下の家庭は、相続税の対象にならないからといって、「財産が少ないから大丈夫」というのは、大きな勘違いだということがお分かりいただけると思います。
今までの経験から感じることは、財産がたくさんあるいわゆる資産家の方は、早くから相続診断士や税理士・弁護士などに相談をして対策を講じられています。そのため、相続が起こった後に揉めることは意外と少ないようです。もちろん、資産家であっても何も対策を講じなければ揉めたかもしれません。要は財産の多い少ないは、揉める揉めないに関係ないということですね。
相続対策を事前に行わない理由の多くに、もう一つ「うちは子供たちの仲がいいから大丈夫」というのがあります。本当に?と尋ねますと、「はい!とても兄弟仲がよく、またきちんと育ててきましたから」と私の育て方にケチをつけるのですかと言わんばかりに憤慨されたりもします。もちろん、私は育て方云々を疑っているわけではありません。きちんと育ててこられたのだろうと思っています。でも、それでも親が亡くなった後に揉めるのが相続なのです。本当にあった事例を一つご紹介しましょう。
相続セミナーに参加されたA子さんが、後日相談に見えました。私のチームの弁護士と一緒に相談にのりましたが、実の姉と母親の遺産分割で揉めているとのことでした。
父親は10年ほど前に亡くなり、その時はすべての財産は母が相続し姉妹が揉めることはありませんでした。当然、姉妹の仲もよかったということです。今回、母が残した財産はご自宅と現金数百万。ご自宅は相続税評価で2,000万円弱とのことでした。
お姉さんは自宅を売却して残ったお金を半分ずつ分けたいと希望されています。でもA子さんは納得がいきません。なぜなら、姉は家を建てる時に父親から頭金1,000万円近くを援助してもらっており、A子さん自身は何も援助を受けていなかったのです。しかも母親の介護はA子さんだけが行い、姉は遠方であることを理由に何もしていません。「それなのに2分の1ずつというのは納得がいきません。少なくとも現金分だけでも私が多くもらいたいです」というのがA子さんの言い分です。
皆さんはどうお感じになられるでしょう。やはり民法通り2分の1ずつにするべきでしょうか?それともA子さんの主張通り現金分だけでもA子さんに多く配分されるべきでしょうか?遺言が残されていない以上、話し合いが決裂すると裁判沙汰になりかねません。
では、どうすれば揉めなかったのでしょうか?
揉めないためにどうすればいいかをお話しする前に、どうして揉めるのかをお話します。財産が少なくても、兄弟仲がよかったとしても、親が亡くなった後に揉めるのは、"親の思いが伝わっていない"というのが大きな理由の一つです。親が何を考え、どういう思いで財産を築き、自分亡きあと子供たちにどう財産を分けて欲しいと考えていたのかまったく分からないゆえ、子供たちはその時の自分の置かれた状況の中で自分が正しいと思う権利を主張しあうのです。
A子さんの主張によれば、姉は家を買う時に援助してもらい、親の介護もしていないから、私が多くもらうのは当然!となりますが、姉側の言い分はこうでした。「A子は大学まで出してもらったが、私は大学を落ちてから浪人させてもらえず、高校を出て働いた。それに、母親の介護は遠方でできなかったかわりに、お小遣いをあげていた。なのに、A子だけが被害者ぶるのはおかしい」と。
結局、この件は双方、言い分を主張しあった挙句、裁判するのは馬鹿らしいので、半分よりやや多めにA子さんが財産をもらう形で決着が着きました。ですが、それ以来姉妹の仲は良くありません。
もし、父親や母親ご本人が相続のご相談に来ていれば、少しは違っていたのではと感じます。親の立場からは考えられないことでしょうが、こんな些細なことから兄弟仲がくずれてしまうのが相続なのです。だから私は、相続対策において大切なのは"親の想いを遺す"か、"元気なうちに家族でしっかりとコミュニケーションをとること"と、いつもアドバイスしています。
A子さん姉妹も、もし親が「それぞれの言い分はあると思うが、その時その時で家庭の経済状況は違い、どちらかをひいきして大学に行かせたわけでも援助したわけでもない。親として二人とも平等に愛してきたつもりだ。だから私たちが亡くなったあとも、姉妹仲良く揉めることなく暮らしてほしい」と、生前に話しておくか、エンディングノートなどに書き残しておけば、その想いが伝わり、二人は揉めることがなかったかもしれません。
皆さんにも、今のうちから家族間で話し合い、大切な家族が揉めることのないようしていただきたいと思います。
AFP 相続診断士 家族信託コーディネーター 終活カウンセラー上級。
頼れるマネードクターとしてこれまでに1,500件もの相続・お金の悩みを解決した実績を持つ。講演・メディア出演多数。システムダイアリー社の「エンディングノート」監修。
著書「家族に迷惑をかけたくなければ相続の準備は今すぐしなさい」(PHP出版)。
相続診断士事務所「笑顔相続サロン」代表 東京相続診断士会会長。
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