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2017/06/29
相続対策の救世主?家族信託の仕組みを知ろう

最近、「家族信託」という言葉を耳にしませんか?
超高齢者社会が到来すると言われていますが、この家族信託の仕組みが皆さんの老後を大きく変えるかもしれません。
正しい知識を身に付けて賢く活用しましょう。 

相続対策としての一手法、家族信託(民事信託)とは?

自分の判断能力がなくなったあとの財産を誰かに管理してもらう方法として、大きく分けて成年後見制度、家族信託と呼ばれるものがあります。
今回は各種メディアで取り上げられることが多くなってきている家族信託について説明します。

この家族信託は資産管理対策の一手法で、簡単に言えば認知症などで自分に判断能力がなくなった場合に、財産を信頼できる家族などに《信じて・託す》ことで、不動産の売却・預貯金の引き出しなどができる制度です。 

家族信託を活用する具体例

では、具体的にどのような制度なのか事例を挙げて説明しましょう。

Aさんには、亡くなった奥様との間に長男と長女の二人の相続人がいます。
ともに結婚はしていますが、長男には子がなく、長女には子がいます。
Aさんは長男と同居をしているので自宅は長男に相続させたいという思いはあるものの、長男が亡くなったあとの自宅は誰に相続されるか?と不安に思い、私のところに相談に来られました。

私「ご長男さんがとくに遺言を残さなければ、ご長男さんの奥様が4分の3、Aさんのご長女さんが4分の1を相続することになりますが、すべての財産を奥様にと遺言を残せばすべて奥様に相続することができます」
Aさん「では、長男の嫁が亡くなったらどうなりますか?」
私「ご長男さんの奥様の親御さんかご兄弟、もしくは甥・姪に相続されます」
Aさん「それでは、困ります。長男亡きあと嫁に相続されるのまではいいとして、そのあとは私の長女の子(Aさんの孫)に家を相続してほしい」

このようなケースは、少子化が深刻化している中で、今後ますます増えるのではないかと思います。

<Aさんが希望する相続イメージ>

こんな時に家族信託が役に立ちます。
遺言は2次相続以降の資産承継先の指定ができないため、自分の不動産を長男に相続させることはできてもその先の指図、例えば長男亡きあとは長女の子に相続させるといった指定はできません。

家族信託では、ご自身を"委託者"、長男を"受託者"、自宅不動産を"信託財産"とし、公正証書で"信託契約"を結べば、長男亡きあとは長男の妻に、長男の妻が亡くなった場合は長女の子に継承先を指定してできるので、自宅が思いもしない姻族に継承されることを防ぐことができます。

その他、成年後見制度では難しい自宅の売却も、家族信託を活用して自分に判断能力が無くなった際の受託者を家族の誰かに指定し、現金が不足した際に自宅を売却し生活費に充当するといったことも可能になります。 

家族信託成年後見制度の違い

家族信託と成年後見制度とは何が違うの?という方もいらっしゃると思います。
主な違いをいくつかご紹介しましょう。

①権限
⇒成年後見制度
財産管理・法律行為の代理(同意・取消)・身上監護(※)
⇒家族信託
信託財産の管理・処分(身上監護権はない)
※「身上監護」とは、生活、医療、介護に関する契約や手続きを代理で行うこと。

②財産の積極的処分や運用の可否
⇒成年後見制度
原則として、財産を維持しながら本人のためにのみ支出することが求められる(扶養義務に基づく親族への支出は可能)。
積極的な運用や合理的理由のない換価処分、本人財産の減少となる行為(生前贈与)等は不可
⇒家族信託
受託者の権限内でその責任と判断により、信託目的に沿った自由な運用・処分が可能

③居住用財産の処分
⇒成年後見制度
処分のためには合理的理由が求められ、家庭裁判所の許可が必要。
⇒家族信託
受託者の権限内でその責任と判断により、処分可能(受託者は、登記簿に形式的な所有者として記載され売買や賃貸借の契約当事者となる)。 

家族信託を活用するうえでの注意点

ただ、家族信託にも活用時の注意点があります。
たとえば、家族信託を組むこと自体には相続税の節税効果がないこと。
また、家族信託を組む際には遺留分の侵害に注意した内容にすることなどです。
どのような対策にも共通して言えることですが、せっかく家族のために良かれと思って対策をしても後々揉めてしまっては意味がありません。
誰を受託者にするのかを含めて、自分が元気なうちに内容を精査し、残される家族みんなが安心できるようにしたいものですね。

執筆者:一橋香織

AFP 相続診断士 家族信託コーディネーター 終活カウンセラー上級。
頼れるマネードクターとしてこれまでに1,500件もの相続・お金の悩みを解決した実績を持つ。講演・メディア出演多数。システムダイアリー社の「エンディングノート」監修。
著書「家族に迷惑をかけたくなければ相続の準備は今すぐしなさい」(PHP出版)。
相続診断士事務所「笑顔相続サロン」代表 東京相続診断士会会長。
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